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復讐の鐘が鳴る時  作者: 柊なつこ
一章 荒れ狂うは雷の刃
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我ガ子ヘ

暑い日には熱々のキムチ鍋が一番! 皆様、熱中症にご注意ください。小まめに水分を摂取してください。

少女は走る。およそ、人間には到達出来ない程の速さで走る。少女の余りの美しさで行き交う人達は足を止め、皆が振り向く。それを気にする事もなく唯ひたすら走って行った。


「...店内には剣がありませんでした」


『あいつらが持っていったんだろ』


少し、意識しただけで位置が分かる程鮮明に気配を感じる事が出来る。


「...気配を感じます。美しいほどの黒の気配を...」


『分かっていると思うが一目に付く様な所で人を殺すなよ』


「...承知しております」


気配が近づいていくにつれて、人通りは減り、閑散とした景色が広がっていく。細い路地に入りると右へ左へ曲がり、ついには一つの建物に辿り着いた。扉の前には見張りが一人、古びた剣で武装している。フリージアの存在に気付いたのか、見張りの男の顔がみるみる内に下卑た笑顔が広がっていった。


「よお、嬢ちゃん。迷子にでもなったのか」


「...この中に居る少年と少女の引渡しを要請します」


「あぁ!? んなもんいねぇよ! それに、居たとして、断ったらどうなるのかな? おじさんに教えてくれよ」


腰の剣を抜くとどんどんこちらに距離を詰めてくる。。


『俺様が出るまでもねぇな』


「...要請を却下された場合。強行突破させて頂きます」


「は、ははは! こりゃあ傑作だ! ...さっきの女より断然お前の方が好みだぜ」


「...要請は却下されたと判断いたします。これより強行突破を実行いたします。...鎧、展開します」


驚きの顔を露わにし、後ろにたじろぐ。腰を落として突撃の構えをとり、攻撃に移ろうとした瞬間――。


「妹に触るんじゃねぇぇぇェェェェッッ!!」


扉の向うからルークの声が聞こえてきた。そのルークの声に答えるかのように雷鳴が辺りに轟く。先程まで、雲一つ無い晴天だったにも関わらず、何処からとも無く現れた雷雲が空一杯に広がっていった。そして、もう一度、雷鳴が鳴り響き、一閃の光がルークの声のする建物に降り注ぐ。


『...あいつが目覚めかかっている』


「...その様ですね」


「ひ、ひぃ! 何だ今の!――っぎゃ!」


フリージアは腰を抜かした男の頭を握り潰すと扉を開き、その奥へと進んでいった。気配のする部屋に足を進めると一つの扉に辿り着いた。部屋の中は、男たちが蒸気を発しながら倒れており、その中心には兄妹達が居る。ルークは顔中に殴られたであろう打撲の跡がある。マリアは両手を後ろ手に縛られ服がはだけていた。


「何が起こってやがる!」


『甘ぇな。一人取り残しだ...」


フリージアは男の首を掴みくいっと上に持ち上げた。


「...この子達に何をしたんですか?」


「が! 女を犯そうと思ったらいきなり仲間が死んだんだ!」


『こいつ等には感謝しねぇとな...何たってトルエラを覚醒一歩手前まで持ってってくれたんだからよぉ』


「...感謝ですか?」


『こいつ等と一緒に雷で感電死していたら苦しまずに死なずに済んだのにな』


「...魔力の源(オド)を回収します」


ゆっくりと男の胸元に手を当てる。そして―――


「あぁぁぁぁぁァァァァァァッ!!」


男の絶叫を耳にしても尚、顔色一つ変えず、ずぶずぶと手を男の身体にめり込ませていった。


『まるで魂の叫びって感じだな!』


ご主人様は男の絶叫を終始上機嫌で聞いていた。私には何がいいのかさっぱりだが。...そんな事より子供達だ。ここから出ないと店の男が呼んだ兵士が此処に押し寄せてくる。今、この場所に兵士が来ると、何かと厄介だ。何せ胸の抉れた死体が転がっているのだから。...いや、一つ解決策があった。


「Gguuuuuuuu...」


フリージアは鎧に魔力を流すと顔だけを(ドラゴン)の様な化け物に変化させた。そして、この部屋に倒れている死体を一人残らず丸呑みにすると手に持ってあった先程抉り取った魔力の源(オド)をひょいと上に投げると、犬が餌を空中でキャッチする要領で飲み込んだ。辺りを見て全て食べ終わった事を確認すると首を元に戻し、マリアとルークを担ぐと部屋を後にした。












『おーい。おーい。...返事が無いな』


「...まだ、完全に目覚めていないだけでは?」


『焦りすぎたか? なにせ何千年振りの親子の再会だからな』


「...親子? ですか...」


『...元々この世界は俺様とあいつ(サルハルテ)二柱。他の奴らは俺様達の権能を切り離して作り出した。』


「...成る程。だから親子ですか」


『ああ...おい宿屋に行く前に鎧解いとけよ』


ご主人様に指摘されるまで気付かなかった...。周りに人が居ないのを確認すると。ルークとマリアを地面に降ろし鎧を解除する。鎧は液体になりフリージアの身体を伝わりながら胸へと移動していく。そして、全ての鎧が身体に染みこんでいくのを確認し二人を抱きかかえなおすと宿屋に向かい足を進めた。







意識を失って俺はどうなったんだ? 食事処(レストラン)で変な奴らに攫われて...。


「おー...おーい......おき...おきろー...」


ぷかぷかとまるで水の中に居るような感覚。遠くから女の子の声が聞こえる。一瞬、マリアかと思ったが全然違う。マリア? ...そうだマリア!


「マリアから離れろ!」


「やっとおき―――ビャ!」


咄嗟に起き上がったルークは反射的に声の聞こえた方向に向って拳を振り下ろした。頭の中が大切な妹の事で一杯になったルークには聞こえた声が少女だろうと関係なかった。唯一つ覚えている事は汚れた場所で妹が下種な男達に襲われそうになっていたと言う事。しかし、そこに居たのは肥太った薄汚い男ではなく。綺麗な金の髪の少女だった。気付いた時にはもう遅く、ルークの放った右ストレートは少女の頬にのめり込み、数メートル先まで飛んでいった。


「お前誰だ! マリアを何処にやった? てか此処何処だ!」


「......そんな事よりまず謝る方が先じゃないのかな?」


「...殴ってすまなかった。それよりマリアは! 無事なのか!?」


赤く腫れた頬を片手で押さえると少女は一瞬でルークの前に移動する。


「マリア? あぁ、あの女の子か...無事だよ。君の隣で眠ってる」


「隣?」


何処を見渡してもマリアの姿が見えない。それに、ついさっきまでいた筈の建物ではなく真っ白な空間だ。何がどうなっている? 疑問と不安を抱くルークだったがその感情は直ぐに少女によって払拭された。


「ここは君の心の中。隣に居るって言ったのは現実の世界の隣の事。此処には君の言うマリアはいないよ」


「俺の心の中? 意味がわかんねぇ...一体何がどうなってやがるだ」


「んー...では無知な君の為に私が君の疑問に答えてあげよう」


およそ年齢らしからぬ口調で少女はふわふわと身体を浮かせながらルークの周りを回り始めた。


「先ずは自己紹介から。...私の名前はトルエラ。故あって君の心の中にいる。君の名前は知っているが改めて聞かせておくれ」


「ルーク...ルーク・フォースだ」


「ルーク...うん。ではルークまず君の知らない事の顛末について話そう」


「そうだ...俺が気を失ってから何があったんだ?」


「簡単に言えば君が気を失った瞬間、君の持っていた剣が君達兄妹を襲っていた暴漢を殺した。結果、君と君の妹も助かったと言う訳だ」


「は? 意味わかんねぇよ。俺の剣にそんな凄いこと出来る訳ねぇだろ。ただの剣だぞ?」


「何? 君、アルクから何にも聞いていないのか?」


「お前親父を知ってんのか?!」


突然、予想外の名前が出てきて驚くルーク。トルエラはその反応を気にせず話を続けた。


「全く...あいつは自分の息子に何も話さず渡したのか―――いいか? 君の持っている剣は唯の剣じゃない。世界を支配できる程の力を秘めている魔剣。十崩器の一つ雷魔刃トルエラだ」


「う、嘘付け! そんなの御伽噺の作り話だろ。大体、何で親父がそんな物持ってんだ! ...トルエラ? トルエラって...」


「君の思っている通り。私が雷魔刃トルエラに封印されている邪神の一人。悲哀の邪神トルエラだ」


「......魂取るのか?」


「取らんわ」


ルークの頭を叩くと話を戻した。


「...兎に角、前の契約者がアルクだった。君とは契約していないが...まぁ、アルクの息子だから助けてやった。だが、次は無いと思え」


「行き成りすぎて何が何だかわかんねぇ「もう、起きろ。君の妹が呼んでいる」...まだ話は終わって―――」


白の世界からルークは消え、トリエラ一人だけになる。


「...お父様には気を付けろ」


何も無い空に雷鳴が轟くと共に少女は姿を消した。








「...ッく!」


「お兄ちゃん!」


あの世界で目を覚ました様に、勢い良く起き上がる。先程との違いは起き上がり意識が完全に覚醒していない状態で少女を殴ると言う事は無かったが...。小さな部屋にベットが二つ置いており、その間には人の膝ほどの高さの引き出しが置いていた。寝泊りするには最低限の物が揃っていると言う感じだ。少なくとも、現実世界にいることを確認したルークはほっと息を撫で下ろす。そして、何よりルークを安心させたのは、マリアの存在だ。妹が無事。その事実が何よりも嬉しかった。


「あいつらに何にもされてないか?」


「...うん、危ない時にね...行き成り凄い音が聞こえたの。それに、まるで太陽みたいに眩しい光だった。私にも何が何だか分からないけど目を開けた時にはあいつら全員倒れてた」


目の前でマリアが泣きながら嗚咽交じりに状況を説明する。あの世界でトルエラから聞いた状況と一致している。...やっぱり、アレは夢じゃ無かったのか。


「そうか...良かった。...此処までお前が運んだのか?」


「ううん。私もお兄ちゃん起きる少し前に目を覚ましたけど。その時には誰もいなかった...。―――そう言えば一瞬だけフリージアちゃんが部屋から出て行った様な...一瞬起きただけだから分からなかった」


マリアの話を聞きながらベッドから身体を投げ出す。少し、部屋を見渡すとふと引き出しの上に眼が止まる。引き出しの上にはトルエラと所々に血の滲んだ手紙が置いてあった。


「マリア。この手紙なんだ?」


「分かんない。私が起きた時にはもうそこにあったから」


マリアも知らないとなるとおそらくマリアが見たと言うフリージアが置いていった物なのだろう。宛名がルークとマリアへになっている所を見るとまず、間違いなく俺たちに宛ててて書かれた手紙だ。それに、この字は―――。


「...親父」


「え! これお父さんの手紙なの!? ―――本当だ。これ、お父さんの字...嘘」


封を開けようとした瞬間、横からマリアに手紙を取られてしまう。そして、乱暴に封を破り捨てるとマリアは食い入るように文章を目で追っていく。しだいに顔色が悪くなっていき、手から力が抜け、その場にへたり込んでしまった。ルークはベッドから飛び降りると床に落とした手紙を拾い上げる。


『俺の息子達へ


もし、俺かアンナに何かあった時の為に子の手紙を残す。


メゾキア公国に居るナターシャにお前たちの事を頼んである。だから、俺達に何か遭ったらまず、メゾキアを目指せ。それから――』


これから俺たちが如何すればいいのか、如何したら何とかなるのかが全て、この手紙に書いてあった。


『――ルーク。マリアを守ってやってくれ。マリア、無茶はするなよ、お前はルーク以上にお転婆だからな。お前達は俺とマリアの宝だ。今まで、失い続けていた人生。アンナに出会って。お前たちが生まれて。四人で暮らすことが出来て、俺の人生、悪くなかったよ...。きっと、アンナも同じ事を言うだろう。最後に...生まれてきてくれてありがとよ。


父より』


「...ねえ。お父さん、死んだの? ......」


「......」


俺はマリアの言葉に答えることが出来なかった。頭の中が真っ白になっていたのだ。親父が死んだ? 有り得ない。でも、実際目の前にこんな手紙があるって事は親父はもう...。


「...お兄ちゃん」


「......」


静かに涙する妹に対して抱きしめることしか出来ない自分に腹を立てるルーク。下では客であろう人の声が聞こえてくる。恐らく、二階は宿で一回は酒場か何かをやっているのだろう。抑えていていた泣き声がどんどん大きくなっていく。それに呼応するように抱きしめる力を強くする。空気の読めない笑い声が恨めしく思い始めた頃、扉は開いた。


「...泣いているのですか?」


日も落ち、夜の帳が世界を覆う時。廊下から差し込む蝋燭の光が二人の目を刺激する。少ない時間ではあるが共に行動した者の声が聞こえる。無機質ではあるが、傷ついた二人の心にじんわりと染み込んでくる心地よい声だ。僅かな光を反射させる銀髪を靡かせ片手には不思議な槍を、もう片手には食べ物の入ったバスケットを持っている。


「...フリージア」


鉄仮面を被っている様な表情。『フリージアお前は一体何なんだ?』喉まで出かけていた言葉をグッと押し留める。手紙の余白に乱暴に書かれおり、所々読めないが書いている言葉は分かった。グチャグチャに血で書かれたであろう言葉。何で、アルクが最後にそれを書き足したのかルークには分からなかった。今はそんな事より、疲れた身体を休めたかった。 





 





















『フ■ー■アを■のむ』

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