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復讐の鐘が鳴る時  作者: 柊なつこ
一章 荒れ狂うは雷の刃
14/28

人と人とが行き交う大通り。屋台には行列ができ。値切る声、宣伝する声、笑う声、色々な声が町に響き渡る。活気に溢れた都市だ。警邏する兵士も少ない事を見ると、治安もそう悪くわないだろう。早々に腰を下ろす場所を見つけたい所だ。


フリージアが視線を後ろのルーク達に向けると、目をキラキラさせながら辺りを見渡す姿が見て取れる。この表情(リアクション)から察するに、きっと村から出た事がないのだろう。


「...食い物見てたら腹減った」


「...そうだね。村からここまで何も食べないで此処まで来たから。そろそろ私も限界かな」


「...先に宿屋を探そうと思っていたのですが......空腹であれば仕方ありません。先に食事をすませましょう」


時刻は昼過ぎ。食事処には人が溢れかえってる時間帯だ。フリージアは食事をしなくても生きていけるがルーク達は普通の人間。食事は生きていく為に必要な行為なのだ。長い時間空腹を味わっていない事もあり、食事の重要性をどうしても忘れてしまう。これから人間社会に溶け込んでいかなければならない場面はたくさんあるだろう。こういった些細なきっかけが任務の失敗に繋がらないとも限らない。食事は定期的に取るようにしよう。


「...改善点を一つ発見」


「何か言ったか?」


「...いいえ。何も...それより食事を出来る場所を探しましょう」


「あーでも俺達「心配しなくても支払いは私が行いますので」...ほんとすまん」


「お父さん...フリージアちゃんに報酬出せるのかな?」


『報酬なんかあのジジイに払える訳ねぇだろうが...だって死んで――あいたッ! おい!』


反射的に叩きつけてしまった。ダメだダメだ私は一体何考えてるんだ? 私はご主人様の物なんだぞ。


「...申し訳ありません。ご主人様に痛覚があるとは思いませんでした」


『そう言う問題じゃねぇ! ご主人様に対して牙を向いたのが問題って事だ!』


「...分かりかねます」


『...分かりかねます っじゃねぇ! お前、どんどん変化しているぞ!」


変化? 何の事だ。今まで、つまりこの世界に転生してからご主人様に対する気持ち変わらない。ずっと大切だと思っている。きっと、これからも変わらないだろう。私の何処が変わったって言うんだ? 全く分からない。


「親父唯の狩人だかんな...無理かも」


「...問題ありません。報酬は既に頂いております」


『嘘付け! 言ってんだろ? あいつは――いっだ! おい!』


「どうした?」


「...すみません。手を滑りました問題ありません」


「此処にしようよ!」


マリアが指差した建物を見てみると。窓ガラスが割れ、そこからがたいの良い男が飛び出てきた。逃げようと何度も立ち上がろうとするが上手くいかず、何度も転げながら裏路地へと隠れた。今度は違う窓から細身の男が飛び出てくる。体重が軽かったのか先程とは違い、綺麗な放物線を描きながら通りを挟んだ向かいの屋台に突っ込んでいった。そして、暫くしてから大きな歓声が店の中から聞こえてくる。


「あのガキどんな力してんだ! お、おおおお覚えてろよッ!!」


「...」


「......」


一連の流れをまるで鳩が豆鉄砲を食らったかの様な顔で眺める兄妹達。


「...入らないのですか?」


「...あ、ああ、入る...か?」


「ちょっと! 今の見えなかったの?! あんな大きな人が投げ飛ばされたんだよ! 中にどんな魔獣(モンスター)が居るかわかんないのに...入りたくないよ!」


「そんな事言ってももう入れそうな所なんてここぐらいしかないぞ?」


「...じゃあ、お兄ちゃん先入ってよ」


「はぁ?! あんな力で投げ飛ばされてみろ! 世界の裏側まで吹っ飛ばされちまうじゃねぇか!」


「じゃあどうするのよ! お兄ちゃんが言ったんじゃない! ここしかないって」


「...私が入ります」


フリージアはそう言うと返事を待たずに扉を開いた。さっきまで暴れていたのが容易に分かるように店の一角が荒れていた。テーブルや椅子が壊れており、床には料理がぶちまけられている。それなのに客の顔は皆笑顔で、怯える所か隣の客同士で笑いあっていた。そして、皆揃って口にしているのだ。忌々しい名前を。


「聖騎士様万歳!」


「ベルカ様! ライカ様! ストレルカ様に乾杯!」


「信頼と友情の神フィリア様に乾杯!」


何とも賑やかだ。店内を見渡すが投げ飛ばした張本人らしき姿は見られない。気になる所と言ったら三人の子供(・・・・・)に向って人々が喝采を送っている事だ。三姉妹だろうか? 見分けがつかない程そっくりだ。唯一違う所は髪型。一人は活発そうなショートヘアー。もう一人はおっとりとした感じのミディアムヘアー。もう一人は、長い髪を後ろに束ねポニーテールにしている。


「いらっしゃい!」


盆を持った少女が三人を迎える。栗色の長髪揺らしながら席に案内してくれた。


「聖騎士様だって! 聞いたお兄ちゃん?」


「聞きたくなくても聞こえてるっつーの」


『男、女と来て次はガキかよ』


「...ご主人様」


『今はまずい。殺したいのは山々だが、今回は関わらない。どうせお前はガキを殺せねぇしな...』


その後も何やらぶつぶつと言っていたが私に話しかけている訳ではないので無視した。ルーク達はと言うと。一つのメニュー表を仲良く見ながら何やら考えている。何とも微笑ましい光景だ。森を走り回りながら人を殺しまくっていて碌に休憩すら取らなかった。疲れなんて感じないがやっぱり走り回っているよりこうやって座っていた方が楽...な様な気がする。


「あねさま! あねさま! あの人ちょーかわいいよ!」


「...うるさい」


「まー本当ねー」


聖騎士のガ、...子供達の言葉で店中の視線がフリージアに注がれた。このままではこの子達がゆっくり食事出来ないと感じたフリージアはベルトポーチから掴めるだけの金貨を机に置いた。


「...支払いはこの金貨で済ませて置いてください」


「お、おう。フリージアは飯食べないのか?」


「...私は空腹ではないので結構です。食事が済んだら次は宿屋に向いますので私がここに戻るまで待っていてください」


「どこか用事でもあるの?」


少し勉強に(・・・・・)


「勉強?」


ゆっくりと席を立ち上がり店を後にした。


「お前が騒ぐからだろうバカ」


「えー。だってかわいいものはかわいいんだもん」


「まぁーまぁー。ストレルカちゃんも悪気があって言った訳じゃないんだし」


ライカは小さな声でストレルカを怒る。ベルカは微笑ながらライカを諌めた。


「?」


「どうした? ねーねー」


「...何でもない。気のせいか...」


一瞬、ほんの一瞬だったが、感じた事が無い程、いやな気配がした。












『あいつ無視しやがった』


「? ...何の事でしょうか?」


『あのガキが持っていた剣だよ...間違いねぇ、邪神の力を感じた』


「...瘴気を発する以外何も起こりませんでした」


『それが問題なんだよ...まだ目覚めてねぇ』


「...目覚めるには何かを行う必要でもあるのですか?」


『それが分かれば考えてねぇだろうがバカ。...俺様の時は端から覚醒状態だったからな』


「...憎悪(ぞうお)


『は?』


「...私はあの空間に放り投げられた時。私をこんな目に遭わせた者達に対して憎悪していた事を今でも覚えています...ずっと、ずっと怒って、恨んで何も考えたくなくなった時、気付いたらご主人様が側に居ました」


溶岩の様な物が胸の中で沸々と煮えたぎった感じがした。感情を失った今でもあの感じは鮮明に覚えている。


『憎悪の感情があいつを起こす為の鍵になる...か』


「...私があの少年から剣を奪っても。無感情な私がご主人様のお仲間を目覚めさせる事は叶いません」


『誰かを使うしかねぇな』


何時も以上に何かを企んでいる様な声で魔力を垂れ流している。もしかして――


「...あの少年に意図的に憎悪の感情を抱かせるのですか?」


『俺様はそんな事は言ってないぞ? ――おっと...おい、あそこ見てみろ』


「...図書館」


周りの建物より立派な造りだ。勉強をして来ると言った手前何もしないで帰るのは何と言うか...ダメな気がする。それに、もしかしたら今後、何かに役立つような知識があるかも知れない。ご主人様の仲間の目覚めさせ方とか...。


フリージアはゆっくりと扉を開ける。少し見渡し、奥に入っていった。受付の人から説明を受け、更に奥へ入っていく。


「...私は何の勉強をすればいいのですか?」


『神話関係の本をから漁ってけ』


「...了解しました」


神話関係の棚に移動する。余り、清掃が行き届いていない空間には埃溜まるものだ。少し、鼻むずむずしてきた。暫く歩いて、目当ての本棚に到着し、上から順に目で追っていく。『神代における神々の戦い』、『サルハルテと三十九神』、『邪神とその罪』...etc...。実に様々な神に関する題名の書籍が一つの棚にぎっしりと並べられていた。一通り見終わるとおもむろに一冊の本を手に取り、被った埃を払うとぱらぱらと捲っていく。


「...この本に書いてある事は事実なのでしょうか?」


『いいや、それは無いだろう。俺様達が地上で降りていた時代で俺様達を知る人間なんて数える程しかいねぇ。概ね、自分の妄想を書いただけだろうな』


「...そうですか」


『いや、待てよ...おい下から二番目の右から四番目、取ってみろ』


「...下から二番目...右から四番目」


持っていた本を元の棚に戻す。そして、ご主人様に言われた所にある本を取だす。『邪神封印録』と言う題名の本だ。作者は―――


「...ミハエル...オリンエリアス」


『この本棚の中で俺様が唯一聞いたことがある名前だ』


その本を持ち、読める所を探し椅子に座るとゆっくりと本を開いた。


『私は神々と英雄の協力を得て、邪神達を封印する事に成功した。私は之を『十崩器』と名付けた』


「...封印。...英雄。十崩器...」


『十崩器は戦争で協力した強国に分配し、管理した』


「...管理。強国」


『お? 思わぬ発見』


『一つはエルフの国その中でも最強と言われた『アールヴの民』に...。一つはドワーフの都市『ビオランテ』に...。一つは英雄『ヨハネス・ハイディスカス』に...。そして、残り七つは『シャスティナ王国』、『アストラペー王国』、『カラザ王国』、『シエラ王国』、『ティフォナス王国』、『火ノ下和ノ国』、『カルッソス帝国』に分配、封印している』


「...カルッソス帝国。聞いたことがあります...マルクが言っていました」


『成る程な...なぁ、一つ言って良いか?』


「...何なりと」


『ガキの所を出て結構時間が経ってるぞ』


本を読むのに夢中になりすぎた。


「...そろそろ戻りましょう」


『成果はあったな』


そっと本を閉じ、本棚に戻すと受付の人に挨拶をして。図書館を後にした。


「...この国を出国したら次はどちらに行かれますか?」


『...取り敢えずはカルッソス帝国に向う』


「...了解しました」


道中、何事も無く店に到着する。窓ガラスが割れたので分かりやすい。だが、おかしな事に先程まで賑やかだった雰囲気は一変し、何となく暗い感じが外まで漂ってきた。前は感じた白の気配は無い所を見るに聖騎士達は帰ったのだろう。


「...嫌な予感がします」


『あー面倒くせぇ』


扉を開けるとそこに居る筈の兄妹達が居らず。何だか先程よりも店内が荒れている様な気がする。


「...ここにいた兄妹達を知っていますか?」


近くに座っていた男性に聞くと動揺している様子で所々言葉を詰まらせながら答えた。


「あ、ああ。君はあの子達の保護者かい?」


「...はい」


「大変だよ! さっき投げ飛ばされたごろつきが仕返しに来たんだけど。聖騎士様達はもう居なかったんだ...それでそのごろつき達が聖騎士様を罵倒し始めて。それに腹を立てたのだろう、あの子供達はごろつき相手に突っかかったんだ」


「...それで攫われたと」


男性は頷くと攫われていった方向を指さした。


「あっちの方向に走って行ったよ。兵士達には知らせた。あいつらはスラム街の住人だと思う。追いかけるのはやめておいた方がいい...」


「...ご忠告ありがとうございます。ですが私は行かなくてはなりませんので」


「ちょっと! スラム街は危ないんだって兵士達を待った方が――」


男性の忠告を無視し、指された方向に向って走り出す。






















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