メゾキア
今回は比較的早くに投稿する事が出来ました。
まるで城の様に大きな建物。
国のどの建造物よりも大きく、世界的に最も影響力のある組織の重要な拠点である。
その建物の中心である円形の空間、一人の男が轟音が響き渡った。
三十九もの玉座が置かれた円卓はその半分以上が空席であり今は十五人の老若男女。
鎧を着ている者やローブを身に纏っている者。人間、森の麗人と謡われるエルフや鍛冶全般に対して天才的な才能を有するドワーフ。
実に様々な者達が玉座に座している。
...いや、訂正しよう。
正確には十三人だ。残りの二人はなにやら揉めている様だ。
「貴様一体何を考えている!」
「...貴方の考え及ばぬ所を考えている。聖騎士ガルフ」
「っく! 減らず口を...いいか? 貴様は国境を無断に越境し、結果的に一つの村を滅ぼした! クレアが大公をとりなしていなかったら今頃貴様の国とメゾキア公国で戦争が起こっていた所だ!」
髭を生やした堀の深い厳格を体言したかの様な老人が一人の男...セルマの胸倉を掴み、睨みつける。
クレアと呼ばれる金髪の美女はばつの悪そうな顔を横に逸らした。
すると、一人の少女が玉座から立ち上がり入り口の方へと足を進める。
「ん? ナターシャ殿。何処に行かれる!?」
セルマの胸倉を掴みながら顔を少女のに向ける。
「...下らん」
ナターシャは振り返る事無く一言だけ残すとそのまま出て行ってしまった。
これで空席は二十六になる。通常、会議の途中に出て行こうとするとガルフが黙っていない。
だが、最古参であるナターシャは別である。
後輩は先輩にたいして強くでれないように聖騎士の間でもそれは変わらないらしく......何時もの事なのかガルフは小さく溜め息を吐くと直ぐに目線をセルマに戻した。
「条約もそうだが今どんな時期か分かっているのか? 原因不明の聖騎士の裏切り、それに対して神々は使途様を我らの世界にお送りくださると言う天啓がウルスラに下った。近い内、このオルトリニアの地でお迎えする。それを貴様と来たら......」
セルマを突き放すと自分の玉座に戻り、深く座ると鼻の付け根を押さえながら深く息を吐く。セルマは襟を正すと同じように自分の玉座にへと腰を降ろす。
「...三姉妹はどうした?」
「何時もの事です。メゾキアの近くで確認されたのが最後。また見失いました」
「クソッ! ヒノモトのあいつといいなんで残った奴らはこんなのばかり何だ...」
「ガルフ殿それは失言です! ...それに、セルマも手ぶらで帰って来たと言う訳ではございません」
「...すまない。確かに失言であった許せ。それで、一体それはどう言うのはなんだ?」
「はい、メゾキア公国の国境付近の村、カノン村付近の「それは私から話そう」...と言う事のなので続きは聖騎士セルマ殿にお任せします」
説明を邪魔されたクレアは不機嫌そうな顔でセルマに残りの説明を投げ渡した。
「戦力が拡大しつつある盗賊団のアジトが判明したと言う報告を受け「貴方が別の目的で彼の地に出向いた事は此処にいる皆が知っている事、前置きは無しにしましょう」...では本題をお話いたしましょう。―――」
「...ご主人様。もう間もなくメゾキア公国に到着いたします」
『あーあ...、意外と長かったな』
「...徒歩で向いましたので遅いのは当然かと」
『まぁでも、おやつがたんまり手に入ったしよしとするか』
「...後で選別が必要です」
淡々と一定の速度で歩く少女。
フリージアは自分の相棒であり主人である槍に向って感情の篭っていない声音で話し出す。
近くから見ると槍に向って話すおかしな少女に見えるだろう。実際すれ違う人からおかしな目で見られていた。
おもむろに腰のベルトポーチを開けるとぎっしりと宝石と金貨が詰まっていた。
『それは着いてから考えりゃいいだろ』
此処まで間に何度か盗賊に出会った。
勿論、盗賊如き何百人襲ってきたところで私はビクともしないが...何と言うか、盗賊が多すぎるような気がする。
餌があちらから来てくれると思えばいいとご主人様はおっしゃっていた。
物は考えようである。
ご主人様の言うとおり魔力の源は幾ら合っても足りない。
それに盗品を奪えば、旅の資金になる。因みにこのベルトポーチも盗賊から奪った。
出来ればもう少し大きなリュックみたいなのがあれば良かったのだが......メゾキアに着いたら買おう。
だが今はそれよりも―――
「...到着次第、依頼を果たします」
『分かっているつーの。これで何回目だ? あ!?』
「...申し訳ありません」
少しづつすれ違う人が多くなってきた。
出来るだけ目立たないようにする為についさっき鎧を解除し、ベルトポーチと一緒に盗賊の拠点で見つけた布切れを魔槍に巻きつけた。
本当はローブか外套なんかで自分自身の身体も隠したいのだがそれはご主人様に却下されてしまった。
理由は単純、ダサいから...らしい。
魔槍や鎧を隠してもこの姿を隠さなくては意味がない様な気もするが...こればかりしょうがない。ご主人様の命令は絶対なのだから。
『見えたな。あそこがメゾキアの入り口だろう』
そうこうしている内に着いてしまった。
荷車を付いた人や馬車、人が門に向けて列をなしている。後ろに並ぼうとした時、何処からか声が聞こえてきた。その方向に視線を向けるとそこには子供達が...。
「ったく親父の奴...先に行けとか言うんだったら金ぐらい持たせろよな...」
「しょうがないじゃない。お父さんかなり急いでたみたいだし」
「いっその事これ売っちまうか?」
塀に背中を預け座っている少年は腰に挿してある一本の剣を抜き取る。柄や刀身が黒い不思議な直剣だ。こんな剣、そうはない...。
『―――おい、あのガキ』
「...分かっております」
ご主人様に似た気配を感じる。顔は余り覚えていないが森で遭遇した子供達だ。私は並んでいた列を抜け少年達の方へ歩いていく。
「...質問、いいでしょうか?」
「行き成りなんだ...よ...」
少年は間抜けな顔で私を見つめてきた。私の顔をに何か付いているのだろうか? まぁいい、話を続けよう。
「...返答をお願いいたします」
「お、お、お兄ちゃん美人! すっごい美人さんだよお兄ちゃん!」
「うっさい黙ってろ! ―――ごほん! ...えっと俺達に一体何の用だ? ...でしょうか?」
少年はあまりの美しさに思わず敬語使ってしまう。今まで使ったことがなかったのだろう。たどたどしい、聞く人が聞くと敬語とは言えない程不恰好な言葉だ。
「...私に対して敬語は結構です。それより、貴方が持っているこれについて問いたいのです」
「これか? ほらよ」
「ちょっと! ダメじゃない大事な物人にわたしちゃ!」
「べ、別にいいじゃねぇか! 見せるぐらい」
「どうせお兄ちゃん。美人だからでしょ? 本当お兄ちゃんは―――」
フリージアが直剣を指差すと、少年は特に渋る事無くフリージアに渡した。喧嘩する兄妹を尻目にそれを鞘から抜くと、刀身から黒い煙のような物溢れ出して来た。つい最近見たからこの煙の正体は分かっている。...瘴気だ。
「...ご主人様」
『感じるぜ...間違いねぇ。俺の仲間だ...眠ってるようだがな』
「...では」
『奪え』
冷酷な言葉だ。
この子供達から奪う事は大して難しくはない。
何十人の騎士達を殺す事が出来る力を持っているのだ。だが、はたして私は何の罪も無い一般人を...子供達を殺す事が出来るだろうか? 答えは応だ。
私はご主人様の物。私は復讐する為にこの世界にやって来たのだ、人として人生を送る為じゃない。そんなものは契約した時から諦めてる。
この兄妹殺すんだ。...兄妹? ―――まさか...。
「...貴方達、名前は?」
「俺のな「私マリア・フォースって言うの、貴方の名前は何?」っておい! たく...俺はルークだ」
間違いない。彼の子供達だ。
「...私はフリージアと言います。貴方達のお父様であるアルク・フォースより依頼を受けて貴方達を探していました」
「親父が? 依頼って事はあんた冒険者か?」
「...冒険者? いいえ、違います。一先ずここで話すには酷な内容なのでメゾキアに入国してからにいたしましょう」
冒険者って何? この世界にはそんな特殊な役職があるのか...。
『おい。フリージア。また俺様の命令を無視する気か?』
「...いいえ。貴方様のご命令に背く気はございません。...しかし、先程ご主人様は優先的に彼の依頼を遂行することをお許しになりました。ですから、ご主人様のご命令通り、優先的に依頼を遂行中です」
『屁理屈こきやがって...まぁいい。急いでやることじゃねぇし、それに今の現世を楽しみたいしな』
「...寛大なご配慮に感謝します」
「ねぇあんた、さっきから何一人でぶつぶつ言ってんだ?」
「...貴方ではなくフリージアとお呼び下さい。......唯の一人ごとなのでお気になさらず。それより、何故、貴方達は入国しないのですか?」
「お父さんが待ってろって言ったんだけどね、渡された物の中にお金が入ってなかったから入国できないの」
マリアはため息を吐きながらずた袋をごそごそと漁る。やっぱりない...っと愚痴をこぼす。
「...お金は私が支払います。ですから、入国して適当に宿屋を探しましょう」
「俺達は有難いけどよ。代わりに何かしろって言われても無理だぜ?」
「...ご安心を、金銭に関する心配であれば問題ありません」
フリージアは立ち上がり再び門の方向へ歩いていく。
ルークとマリア急ぎ足でフリージアの後ろを追っていった。そして、また列の最後尾に並ぶ。
しばらく経つと兄妹達は顔をしかめ始めた。その原因は臭いにある。
商人や旅人などの国と国を行き来する人達の移動手段は歩くか馬と言った選択肢しかなく、途中、宿泊できる施設も乏しい。
仮に、宿泊できたとしても着ていた衣服を洗ったり、風呂に入ったりは出来るとも限らない精々、桶にお湯を張り、そこから布で身体を拭くと言った最低限の事しか出来ないのだ。
すると、必然的にそういった者達の身体は汚れていく。そして、汚れていくと臭くなっていく。
そんな人達が一箇所に集まるとどうなるか? 絵に書いた様に明らかだ。
「...少し我慢してください」
「「...はい」」
兄妹達が門から離れた場所にいた理由が分かった気がした。フリージアであった。
冒険者とは
古の時代、今より瘴気の森が多く、人間が生活可能である地域が少なかった。そこで、領土拡大の為ある国が未開の土地に傭兵や木こりを派遣したのが冒険者の始まりである。冒険者は銅等級、銀等級、金等級、白金等級、五色白金等級の五つの等級で構成されており、それに見合った依頼をこなしていく。また、その依頼も幅広く、庭の草むしりや家具の修理と言ったものから飛龍の討伐、希少鉱石の採取などである。等級が高いと一つの依頼に対しての報酬が非常に高く。夢を見て冒険者になる者が後を絶たない。
「次!」
三人は臭いに耐えながら待つ。そして、自分達の番がやってきた。
歩いて進むとそこには受付があり、鉄格子の様な物で補強され、手が入れれるような穴がある。そして、受付には鎧を着た兵士が一人とその奥に剣を携えた兵士が二人、人目を憚る事無く、何やらカードゲームに興じていた。そして、門の両脇にもう二人ずつ、槍を持った兵士が気だるそうに立っている。
「...三人、入国をお願いします」
「......にゅ、入国手形はあるかね?」
フリージアの顔を見ながら一瞬固まる兵士。だが、直ぐに元に戻り仕事を再開する。がしかし、気の抜けたような声だった為、兄妹達は少し聞き取りずらそうに耳を傾けた。
「...無いと入国出来ないのでしょうか?」
「いや、そう言う事では無いのだが...入国手形が無い、つまりその人の素性が保障されていないと言う事になる。つまり、入国させるにはこちら側のリスクが高いと言う訳だ。入国して暴れられたら困るからね。だから、入国手形を持っていない者は持っている者より多く入国手数料を支払うことになっている」
「...理解しました。幾ら、支払えばいいのでしょうか?」
「メゾキア金貨五枚...それか、メゾキア金貨五枚に相当する他国の金貨だね」
それを聞いた後ろの二人が小さな声で話しかけてくる。
「すまん。金がいるとは聞いてたけど金貨五枚もいるとは思わなかった」
「やっぱりお父さん来るまで待とうよ。金貨五枚だよ? しかも一人辺り...つまり十五枚。十五枚あればあんな事やこんな事―――」
「妹の言うとおり親父を来るの待とうぜ。さすがにフリージアも金貨十五枚なんて持ってないだろ?」
「...持ってます」
「持ってんのかよ!」
「フリージアちゃん。お金持ちなんだねー」
兄妹達の事は置いておきベルトポーチから金貨を適当に十五枚出すと受付の兵士に渡した。
「...これで足りるでしょうか?」
「あ、ああ。大丈夫だ足りてるよ。それじゃあ通っていいよ。ようこそメゾキアへ。次!」
「...ありがとうございます。...行きますよ」
『こいつらの表情。見ていて飽きねぇな』
「...そうですね。賑やかな事は良い事です」
この子達はまだ知らないのだ、父親が死んだ事を......。