No.2
気の赴くままに2話目更新です
「ここは…?」
周りはどこもはっきりしているようでもぼやけているようでもあり、色がないようでも鮮やかでもあるような、そんな場所だった。
意識も考えることはできても、どこか抜け落ちているような、確かに自分は居るのに世界溶けていくような、不思議な場所。
だが、それもすぐに…
「きっと、君なら。世界に抗う力をもつ、君なら。生きて。生きて…」
そんな言葉とともに意識はどこかへと溶けていった…
「こ、こ、は…?」
周りにはなにもなく静寂が支配しているのに、遠いどこかの喧騒が耳を酷く刺激する。だが、それも一瞬のこと。僕は、いやオレ、おれ?俺は狭い路地裏の奥で横たえていた体を起こして意識を覚醒させた。
だが、不思議なこともあるようだ。今まで「僕」なんてのは使ったことなかったのに、それを口には出さなくても使おうとするとは。
さて、今日という日をどう生きてこうか。まずは今の状況。
腹は?空いている、いやいつもだからこれは良い。どこかに腐っていないのが落ちてればいいが、果たしてどうだろうか。
身なりは?ちゃんと汚れてるな。下手にキレイだと奴らにやられるから気をつけないと。…そろそろ雨は欲しいところだけどな。
金はない。どうしようもない。だって浮浪児だぜ?持ってたらこんなことになってない。
そして、こいつら。ナキとサナ。前から馬鹿だ馬鹿だと思っていたが、あの日俺についてきた、筋金入りの馬鹿だ。けれど、俺にとっての唯一の家族だ。血は繋がっていないけどな。
ナキは2つ下の泣き虫で藍色の髪と薄い朱色の瞳を持ってる、まぁ妹みたいなものだ。
サナは感情が表情にあんまり現れないけど感情豊かな、ナキとは髪と瞳の色が逆転してる1つ上の女の子だ。サナは姉を自称してるけど、俺からしたらあんまりそんな感じはしない。よく分からん。
それで、なんだっけ?あぁ、そうだった、今日どうするかを考えてたんだった。
うーん、あ。そうだ、昨日していないことをしようか。うん、そうしよう。
昨日はたしか、休講がでたから本屋に…って、ん?いやいや、違うだろ。奴らの目を盗んで食べ物を探しに行ったんだよ。あ、これじゃ今日も探しに行かないとな…
…え? ちょっと待て。
休講?本屋?
………っ!?
「が、があああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああっ!!!!!!!」
突然襲った頭の割れるような痛みに絶叫をあげ、体が暴れた。どうにも制御できそうもなく、とにかくこの痛みがひいてくれるようにただ願いつつ体をあちこちにぶつけてまわった。幸いと言えばいいのか路地裏であるために、壁という壁に体を打ち付け続けても何かが壊れるでも無く、俺の叫び声だけが響いていた。だが、いくら時が経とうとも痛みは収まる気配を見せず、それどころか更に痛みは加速していった。
そして、ついに俺は、僕は、意識を手放したのだった。
次に目を覚ましたのは日が中点へと昇ったところであった。そして、
「……いったい何やってんだ、サナ?」
「リヴェが暴れて叫んで自分の体を苛めて悦ぶ変態になったと思ったら今度は倒れてその痴態を周囲に晒すド変態になってリヴェの気持ちを尊重してあげようと思ったけどそうするとこれから先一緒に居る予定なのにナキと恥ずかしい思いをしなきゃいけないから急いで引っ張ってきて男の子が嬉しい膝枕してあげてるのうれしいでしょ?」
「…とりあえず起きるわ」
「だめ」
「……」
目に入ってきた光景は見下ろすサナの顔であり、俺自身は膝枕状態というだった。さっきまでの頭が割れそうなほどの痛みは消え失せ、若干混乱していた意識は、ほぼ無表情な顔で一息に言われたサナの言葉とその目線で落ち着きを取り戻したかと思いきや、今の状態と相まって更に混乱に陥るのであった。
なんせ今の俺の頭には前世の記憶があるんだから混乱してもしょうがにゃいと思うんだ、うん。噛んでも仕方ないと思うんだ、うん。
俺、というか僕、転生したのか。
前世では一人称は僕だったけど、今は僕なんて違和感でしかない。そして、何故か転生したと言う事実はすんなりと受け入れられた。
多分だけど、名前をはじめとした自分の情報と他にもいくつかの記憶の欠けがあるからだと思う。
だから、今の俺は前世の自分じゃなくてリヴェスタという少年なんだとも納得できた。下手に記憶が全部残ってて人格が2つとかになっちゃったら大変だっただろうしね。
さてと、ようやっと落ち着いてきたところでもう一度サナの顔を見上げる。相変わらずの無表情で俺の頭をなで続けているが、その目はどこか満足そうでキラキラしていた。無表情でもこれだけ目が語っていればどんな気持ちでいるのかも分かるってものだ。
ま、俺はそれに構ってやることはないのだが。
手をどけさせて膝枕状態からの脱出を図る。何故かなかなかに抵抗を受けたが無事に脱出出来た。すっごい不満そうな目をしていたが…
「サナ、とりあえずありがとう。感謝してるけど、手を退けさせたのは別に俺は悪くないだろ?だからそんな目をするんでない」
「…ケチ。あと感謝が足りないからその代わりとして頭をなでさせることを要求する。ほら頭をよこしなさい」
「だから感謝はしてるって!それでその要求は拒否する!」
「むー」
今度は目だけで無く体全体から不満ですオーラを出し始めたサナを横目に、さっきから心配そうでありつつもなにか羨ましそうな目で見ているナキを視界に入れつつ、俺は状況の整理とこれからのことを改めて考えはじめるのだった。