2章 仮セレブになった日
いつの間にか、もう当選日前日になった。
ブルーブリーズロットXの発売日から1月後だ。
久間陽二郎は、今か今かと待ったのだ。
派遣社員になってからの生活は、多少の蓄えは入ったが、自分の雑費で消えるほどの少額しかないのが現実的だった。
注ぎ込んだ宝くじ資金は10万だ。それでもまだ、残高はあるから、よほど高いブレスレットだったと思うしかない。いや、純金宝石類やダイヤもろもろ装飾されたブレスレットだからこそ、買い取り額も相当な額だったろうか。
10万投資は、当選率あるかなんてギャンブル行為も甚だしいが、下手なギャンブルじゃないなら希望は持った方が良いと思った陽二郎。
久間家が安泰になるのも時間の問題だ。父、兄のいない母子でも、運気は訪れてくるのだ。ブレスレットさまさまと言ってもバチなんて当たりゃしない。
飛行機事故で父と兄が死んだが、それでも母と子供一人でなんとか生活してきた。
確かに拾った金品買い取りからが物事の始まりだった。金品を拾わないよりは、拾っていてこんな計画を立てても良いだろう感はあった。
そして、当選日。
6億円の当選者になった陽二郎は、その目を疑った。
宝くじ売場受付窓口から払戻金受け取りが終わると、陽二郎はすぐさま山之手霊場に赴いて、亡き父と兄に号泣しながら報告して帰宅したのだった。
「ただいま!! 母さん、大変だ!!」
「なんなんだい? そんなに慌てて……小さな子供みたいにさ」
「当たったんだよ!!」
「判るように話しなよ!!」
「ロットXの6億がさ」
「宝くじに当選したのかい? エイプリルフールはもう終わっただろうに」
「だから……証拠見せに……これ持ってきたんだよ!!」
スマホ画面と当選資料の番号を照らし合わせた青年は、その母親に確認させたという。
「※※※※※※※※※※……合ってる、間違いない……合ってるじゃないか!? 夢じゃないのかね!?」
「だから、言ったじゃないか。6億だよ!! 母さん!!」
母子は調子に乗ってか、両手を取り合いダンスを踊ったのだった。
証拠品の資料とは、振込額控の用紙だ。6億円だから現金受け取りではない。売場窓口から銀行預金額として振込んでくれるのだった。
「母さん、最初に何をしたい?」
「お父さんたちに報告だろう、そんなの」
「さっき、墓まで行ってきて報告してきたよ」
「用意が良いねえ。後はお前が考えな」
「欲がないな……母さんのためになる物用意してさ、老後でも楽になれる道具の一式は揃えておくよ」
「お前……そんな先の事まで……お父さんたちになんて言えば良いんだ」
「そんな……大袈裟に泣きじゃくってさ、俺は当たり前のこと言っただけだって」
「光一郎、あんたの弟はちゃんと親孝行したよ。もう立派な大人だよ」
「さっそくで悪いけど……ポルシェ欲しいんだ」
「車は、後で良いだろう? まずは、預貯金を大事にしなきゃならないんだ。段取りがあるんだ。何事もな」
「判ったよ。母さん……」
母子二人は、セレブ感覚保った。
こうして久間家の灯火は、真の明るさをともしていったのだった。