表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

96/394

096.アト、話す

隣の黒いプラムのいたわりの気持ちに気付いて、アトの両眼に涙が溢れた。

どうしてか分からないけれど。泣いて良いような気がして、余計に気持ちが緩んだ。


オ・・・ゥ・・・

黒いプラムは、ちょっとオロオロとしているような気がする。


オ・・・


『やれやれ・・・』

太く深いため息とともに、柔らかい腕のようなものが、ボタボタ落ちる涙たちをふいた。

『全く・・・小さき世界、その子どもたち・・・泣きたい時は泣くが良い。だが・・・なるほど、“こちらが泣きたい”とよくそちらの者たちが言うはこういう事か・・・』

ケルベディウロスは、何やら別の感慨を得たようだ。


涙をふかれるなんてことになったからだろうか。

まるで、本当に小さな子どものように、アトは涙とともに声が震えるのも抑える事ができないまま、答えていた。

「向こうに行って・・・ヤリがたくさん・・・」

タ、と、ケルベディウロスの触手の動きが止まる。


「僕たちを、殺そうと・・・」

『・・・エクエウ。やはり、生き残って・・・!!』


「翼のある人が、ヤリを・・・僕たちが・・・」

『あの、排他的種族・・・!!』


「僕たち・・・でも・・・」

アトは言いかけて、目の前の、優しいけれどひどく強靭そうな牙をも持つ、目の前の異形のモノを見た。


ケルベディウロスも、自分たちを、殺そうと、するのだろうか。

アトは涙を落した。

「僕たち・・・壊し・・・た・・・」

ケルベディウロスのたくさんの複眼が、アトを見詰める。

「分からないけど・・・でも、たくさん・・・像みたいなものが・・・壊れて・・・それで ヤリで 怒って 僕たちを 殺そうと・・・」


ケルベディウロスの、牙が、動いた。

『・・・我輩に、分かるように、詳しく話してくれ』

アトは涙で濡れた目で、ケルベディウロスを見詰め直した。


オ・・・

隣で、黒いプラムも声を出した。


ケルベディウロスは、ゆっくり話した。

『我輩は、我輩たちは、あの世界から締め出された。今、あの真なる世界が、どのようになっているのか、まるで分かっていないのだ。だから、話のカケラでは、もう何も推察もできないのだ』


リ・・・

鈴の音が、鳴る。声も、少し。どこか ここではない 遠いところで。


『何を見た? 見た全てを伝えてくれ』


オ・・・


アトが迷うのを察したらしい。ケルベディウロスは、先に、その触手でアトの両肩を、ポンポンと叩いた。

『安心しろ。我輩は、お前を殺しなどしない。約束する。絶対だ』

ニィと細められたたくさんの目は、全て どれをとっても歪んでいるのに、その全てはとても真っ直ぐで。

まるで どこかに住む神のような、不可思議な神聖ささえ 見せられた気がした


アトは答えていた。

「よく・・・分からない、んです」


ケルベディウロスの語りかけと自分をなぐさめる動きに、アトは自分の感覚を取り戻しつつあった。

混乱の淵から、ようやく、いつも自分が立っている岸に、上がってきた気分。


『ふむ、では・・・始めから聞かせてくれ。元気よく、飛び出していっただろう。何かを見つけたから、いったのだろう』


リ・・・ン・・・


「・・・人影を・・・見つけて。翼を持つ人がいました」

『数は?』

「ひとり」


『ひとり?』

「はい。それから、もう一人。普通の、小さい人」


『・・・それは・・・我輩のような姿の者か?』

「いえ・・・」


『翼なく、我輩たちでもない者・・・。他にもいたか?』

「他には、誰も・・・いなかった」


リ・・・ ・・・


「たくさん、像があり・・・ました。白い大きな、人の姿をしてた。驚いて、見てて・・・そのうち、翼の人が、僕たちのところに来ました。『何をしにきた』と聞かれて、僕は『人を探しに来た』と答えました」

『ふむ』 


「ツォルセティーナのことを、見たって、言ってました」

『ほぉ』


「・・・」

アトは黙った。

ケルベディウロスも、黙った。


リ・・・ で・・・ ・・・   


『サリシュが心配していそうだ』

ケルベディウロスが、呟いた。

それでも、アトは、話の続きを口にした。今、口にしなければ、もう、言えなくなるような気がした。今のタイミングを逃さずに、出してしまいたかった。

「像が、急に、壊れたんです」

『像』


「変な音がして・・・見ると、像に、どんどん細かいヒビが入っていってた。僕たちの、周りから、入ってたんです。この・・・」

アトは、ふと、隣の黒いプラムを見上げた。


「この人が、尻もちをついて・・・そしたら、どっと、音を出して、たくさんの像が、壊れていった。地面が揺れたみたいで、僕も、尻もちをついて・・・そしたら、たくさん、像が、壊れて・・・何か、した、つもりは・・・ないのに・・・!」

『像・・・。像。エクエウはどうしていた。』


「怒って、僕たちに、ヤリを投げてきました。殺されると、思いました。母の声が、して・・・翼の人が、僕の落とした、母の宝石を持っていて・・・話して、泣いてて・・・でも、目があって、空に、たくさんの、ヤリが・・・。こわ・・・かった」

ガタガタっと、アトの体がまた震えた。


ぽんぽん、と、ケルベディウロスの触手が、アトの肩をたたく。

『エクエウ・・・。像が、何か重要なものに違いないが・・・我輩たちを封じるためのものか? いや・・・答えろ、像と言うのは、どんなものなのだ』


「翼を持つ人と、とてもよく似てました。それから・・・あなたにも、似ているのもありました」

『我輩たちの、姿を、写した、像・・・?』

アトはまた震えた。

「はい」


ケルベディウロスは考えるために口をつぐんだ。

像。そんなものは、自分たちが世界を締め出される前は、ありもしなかった。

ならば、それは・・・。もしや、像ではなく、自分たち、そのもの?


もしや、自分たちそのものというより・・・自分たちの体ではないのだろうか。


自分たちの体・・・。


ケルベディウロスは、思った。


では、他のものは、皆、死んでしまったのだろうか。自分が一人、このように逃れただけで。


他のものたちは・・・。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ