091.セフィリアオンデス、聞き取る
なんで・・・こんなことが!
セフィリアオンデスは、周囲を見回す。足元からも、ピリピリと、伝わってくる状況。
未だ、白い粉じんが宙に舞っている。セフィリアオンデスは、ゴホっと咳き込み、右手で口元を覆った。
周囲を見る。白いもうもうとした空気。
多数あった「第五世界の住人たちの体」が、形を残さず砂と化し、そこここに白い山を作っている。
だが、幸いというべきか、自分たち側の背後の「体」の数々は、崩壊を免れ、残っていた。
・・・だが、崩れたの方が多そうだ。
景色の中、ひときわ目立つ、ひときわ大きな、黒い、異世界の住人。じぃっとそこに在る。
その傍に、もう一人の異世界の住人。へたりこんでいるようだ。
セフィリアオンデスは上空を見上げた。トートセンクを。トートセンクは、己の両の手のひらを見詰めて、宙に止まっていた。
セフィリアオンデスは左右両方の奥歯をかみしめた。
なんで・・・こんなことに・・・。
第五世界の住人よりも、第三世界の住人たちの体の方が、比較にならないぐらい強くて硬かった・・・
って事・・・?
遠く崖の上から見ていたせいで、何があったのかはっきり分からないけど・・・。でも、特に黒い方が暴れたとか、そんな感じは一切しなかった・・・。
フ、とセフィリアオンデスの上空、トートセンクが動いた気配がした。
セフィリアオンデスが見上げる。
トートセンクは、とてもゆるやかに、まるで、本来の時間を引き延ばして見せているかのように、とてもゆっくりと、自分の右腕を伸ばし、それをツと背中に払い・・・。
ゆらりと、宙から槍を取り出した。
「!! ちょ・・・アンタ、トートセンク・・・!!」
トートセンクは無言で息を深く吸い込み、そして吐く息と同時に、異世界の住人二人に向けてその槍を放った。
シュッ
放たれる軌跡。
ドッ
貫かれる、黒い体。
突き刺さった大地が、衝撃に震える。
その後に。
リ・・・
鈴のような音が、宙を渡った。
『もしもし、アトー? 聞こえるー・・・? ごめんね、遅くなっちゃってー・・・アートー・・・』
***
リ・・・
声が。聞こえる。懐かしい、同胞の。先達の。話す声。
『アートーロースーー!! 返事してー! ごめんね、調べものしていて遅くなったの・・・! アトー!?』
トートセンクは、服の帯に大切にしまっていた、青い光を放つ宝石を取りだした。少し前にセフィリアオンデスから取引で手にいれた石。この声が聞こえたから、手にいれることにした、青い石。
手が、震える。
「あなたは?」
声までも震える。
『あ、アト?』
この声の響き。先達の声。自分たち、エクエウの声。
「あなたは?」
体が全て震え始めた。両手で、青い宝石を、包むように、受け取るように。まるで飲み込みさえしそうな近さに寄せて。
「あなたは?」
重ねて尋ねながら、トートセンクは 自分をコントロールできないでいた。
こぼれてくる意図しない声、呼吸。
話せない。
青い光が、なぜか、にじんで。よく見えない。
***
セフィリアオンデスの、すぐ傍、空から、トートセンクの泣く音が聞こえる。
タ・・・ ト・・・
すぐ傍、空から大地へ。足元の白い砂の山に吸い込まれていく滴の数々。
他方。すぐ目の前から、早いテンポの息遣い。
ハッ ハッ ハッ ハッ・・・
第三世界からやってきた、小さな方。クリスティンが『アト様』と呼ぶ方の、早い呼吸。
く・・・ ス・・・ く・・・ す・・・
黒い大きな方のゆっくりとした呼吸。ゆったりと、変わらない息遣い。
イィ・・・・・・
未だに震える、トートセンクの放った槍。黒い体の前から後ろへ。大地に突き刺さる。
「・・・」
セフィリアオンデスの神経は張り詰めていた。神経全てがキリキリとした。全ての感覚が妙に昂っていた。
『え??? えぇ・・・と、私? あら? えーと、アトロスは? あら? またあの子、通信器を落としたの・・・!? えーっと、え・・・、私、アトロスの、母親なのだけど・・・』
セフィリアオンデスの第二の耳で受信可能な高い声。
場違いに明るく思える。
どうして、今、この声が聞こえるんだろう。でも・・・今聞こえて、良かったのかもしれない・・・。
第二の耳でのみ受信可能。トートセンクの声と同じ。・・・きっと、トートセンクの仲間の声に、近いんだ。
神経が、張り詰めている。
だからこそ、セフィリアオンデスはその音にも気が付いた。
何・・・?
何か・・・誰かが、話してる。
セフィリアオンデスは、体にある5つの耳、それぞれに集中し、音の選別を図ろうとした。
最高の能力を持って、第五世界に作り上げたこの体。最高の『耳』。
確かに、何か、聞こえてる!
そして、拾った。
“ ト・・・ イウ・・・
ト ・・・ イエ
ふあん
かいしょう
・・・ ・・・
・・ケレド ・・・
ナン ・・・ いったい
ドウシテ コレホド・・・・
イ エ
デモ
・・・
・・・ マネイテハ
ならない
ハメツを
ふせぐ
一手に
ナル
で ショウ ・・・ ”




