081.移動
光の中、銀色のフードの人が自分に語る夢を見た。
けれど、気がついたらいつも通り。自分は暗闇にいる自分のままだった。
あぁ、やっぱり変わらない。
悲しくて震えそうになった。
ピカッ
+++++
道を開いてサシアゲマス
世界を救って欲しいのデス
+++++
白く上から光が降りてきた。言葉がまた響いた。
白い光は、まるで薄く波打つように降りてきて、世界を白に染めてしまった。
また夢? その方が幸せだと思った。
白いカーテンからぼんやり景色が浮かび上がる。
はっきりとはしない視界。
白く白く 夢の中。
もう二度と目を覚まさない。自分に誓う。
***
白い世界。
トートセンクは、異変を感じ取った。この世界の住人であり、エクエウという種族であるトートセンクは、この世界のどこに誰が居るのかを感知する事ができる。
トートセンクはその方角を遠く透かすような目をした。
セフィリアオンデスが気付く。
「ん? どうしたの」
「また異世界の者が迷い込んだようだ」
不機嫌にトートセンクは答えた。
セフィリアオンデスは肩をすくめた。
「私も異世界から来たオトモダチだけどね」
馬鹿にするかのような目をトートセンクはセフィリアオンデスに一瞬送り、それから体を飛ぶべき方に向ける。
「払いに行くが、お前はどうするのだ。ここに居ても良いが、ここで動くな」
一瞬思案して、セフィリアオンデスは答える。
「この場所で暴れる気は無いよ。それに、ついでだし一緒に行くよ。っていうか、後を追いかける。どんなのが来たのか見てみたいよね」
「分かった。では、こちら方向に真っ直ぐ来い」
ん?
セフィリアオンデスが瞬きするうちに、トートセンクはその翼でザァっと宙を飛んでいってしまった。
「いや、トートセンク」
もう遠く消えたトートセンクに向かって、セフィリアオンデスは小さく呟いた。
「私がついていけるような飛び方、してくれないワケね?」
***
アトはようやく、昨晩、翼を持つ人や黒いフォエルゥ金茶色の瞳の人などを見た、不思議な世界の入り口に来た。
あのケルベディウスの事で、随分と足止めを食っている。急がなくては。と、アトは思った。
今日は夕食後にこちらに向かったが、もう何時になってしまっているのかさっぱり検討がつかない。
まず、むこうの場所への出入り口と思われる四角い枠から、顔だけ出して向こうの様子を伺ってみる。
昨日は勢い良く足を踏み出して、転落してしまったから、足場を確認した方が良いと思ったのだ。
「あ」
むこうの景色に、アトは喜んだ。今日も、黒いフォエルゥがそこにいた。
アトは首だけ出した状態で、呼びかけようとして、そういえば名前を知らないんだ、と思い出した。
「えーと・・・こんばんは!」
呼びかけながら、昨晩の二の舞にならないよう、注意して白い場所に足を踏み入れた。
黒いフォエルゥが、呼びかけに気付いたのだろう、ゆっくりとアトに体を向け、声を出した。
オォ・・・オォオオオ・・・ゥ、オォ・・・ゥ・・・オォオオオオ・・・
とても嬉しそうに、アトには聞こえた。
斜面を駆け下りて、アトは黒いフォエルウの傍に立つ。
「また会えて嬉しいよ! キミ、ここの人なのかな?」
オォ・・・オォオオオ・・・ゥ
わさぁ、と、黒いフォエルゥがアトの上から覆いかぶさってきた。
アトは、無意識に両手を広げて迎えようとした。
が、
「わ」
黒いフォエルゥの体重がずん、と、自分にかかって、アトは慌てた。
つい、いつも一緒に居るあのフォエルウを迎えるつもりで両手を広げたのだけれど、今目の前にいるのは、フォエルゥとは違う存在なのだった。
フォエルゥならば、力の加減を良く知っている。それは、フォエルゥがずっと長くアトと一緒に過ごしてきたから。
そうだった。
今更ながらに、アトは自分が勘違いしていた事に気がついた。
似ているからといって、同じじゃない。また違う存在。そう、当たり前のことなんだけど・・・そうだった。
ギュウウウウ・・・と、黒いフォエルゥはアトを締め付けようとした。
「え、えぇ?」
アトが慌てた声を出した直後、バキッ、という音がした。折れた衝撃がアトに伝わった。
黒いフォエルゥも、気付いてそれで身をゆっくりと離した。
アトは腕を見た。右腕の、木製の義手が折れていた。普通の腕なら手首に当たるところから、肘に向かって外に裂けるように割れている。
アトはヒヤリとした。
鋭利に割れた義手から・・・緑色の液体が垂れていた。
・・・まさか、この黒いフォエルゥの、血?
義手が割れて、黒いフォエルゥがケガをしたのだろうか。
「キミ、大丈夫?」
黒いフォエルゥは、ゆっくりとかぶりを振った。それから、そぅっとアトのまわりを、包むように手を広げ、動かした。
「えっ」
アトは自分を包むように広げられた両手を、内側から見つめた。
人の手のひらにとても似ていた。
しかし、随分と黒い上に、黒い長い体毛がかかり、ケガをしているかどうかよくわからない。
「大丈夫?」
ウォオオオ・・・
黒いフォエルゥは悲しそうな声を出した。
そんな時だ。
「またお前たちか。さっさと帰るが良い」
空から声が降ってきた。
アトは声の主を求めて、右側上空を仰ぎ見た。つられてか、黒いフォエルゥもそちらを向いた。
翼を広げて、あの白い衣装を着た人が空に浮かんでいた。昨晩より近い位置にいるので、不機嫌そうな表情がはっきり見える。
アトたちが返事もできずに見つめ返しているのを不思議に思ったのだろうか。翼の人はツィと傍まで降りてきた。
「なんだそれは。妙に刺々しい」
「え」
この、ささくれだつように割れた義手の事に違いない。 と、アトは思った。
「武器か」
「いえ。僕の腕の代わりです。今、割れてしまったので・・・」
「腕の代わりだと?」
オ・・・
なぜだか、黒いフォエルゥが、アトに向かってそぅと手を動かし始めた。
おずおずと手を伸ばし、そっと、そっと、アトに触れようとしている。




