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079.語られた体験

今やこの世界の唯一の住人、トートセンクは語った。


***


自分は一人、幼なかった。自分以外は皆成人で、その姿は全て美しく気高かった。

自分が物心ついたときには、すでに戦いは始まっていた。皆それぞれスミカから飛び立ち、また戻ってくる。


自分は戦いに行ったことがない。

ただ、皆の飛び立つ様子がとても美しく、見るのがとても好きだった。


皆が時折歌を歌ってくれた。戦いの様子も話してくれた。宙からの武器の生み出し方も教えてもらった。

それら全てに技術が感じられて尊敬していた。

先達は様々な自分の成長をとても喜んでくれた。


いつからか先達の帰還の様子に疲れがにじみ出していた。皆疲れをあらわにしだした。

歌よりも、気が狂ったように叫ぶようになった者もいた。いつからか見なくなった者もいた。

きっと、先達は、はっきりと私に事実を告げないようにしていたのだ。


ある時、全員が、器にエネルギーを頂いて、皆で飲みほした。まるで儀式のように見えた。

また戻るとの決意の表れだったのだろう。皆、空になった器を残したままにした。いつもは、片づける。また器の形を解いて宙に戻すのだ。いつでも生み出せるものだ、残しておく必要がない。むしろ羽根に当たって邪魔になるからな。

だが、先達は、この日は、『戻ってきて片づける』・・・それを決意し、意図的に器を残したのだ。


・・・実は、今もスミカに、先達の器が残っている。あの日のままにな。


食堂を出ていきながら、皆、扉のところで様子を見ていた私に声をかけた。頭を撫でたり、肩を掴んでみせたりした。

先達は、私を見ると、力が出ると言って可愛がってくれていた。


その後、私はいつものように皆が飛び立つのを見送った。それは美しく思えた。

まさかあれが最後だと思わない。


だれ一人戻ってこない様子に、私は迷った。

スミカの外は危険だから、成人するまで出ないように言い含められて育っていた。


だが、誰一人戻らず、あまりにもおかしい、という思いが日に日に強くなる。

だが、結果、私は先達の指示を守る事にして日を過ごした。戻ってくると思っていたのだ。


そのうち、ついに私は成長して、成人になった。背中の羽根の振動数が変わるのだ。それで分かる。

やっとの思いで、私はスミカの外に出た。


少し探しただけで、この場所を見つけた。

先達だ。そして、話だけで聞いていた、戦うべき相手。

呼び掛けたが動かなかった。触ってもみたし、可能になった共鳴音も出してみた。だが無駄だ。


腹が立って・・・敵に、先達に教わったヤリを向けた。だが、壊れなかった。何も歯が立たなかった。

もしかして、先達も同じなのかもしれない。何物にも壊されないのかもしれない。


見ろ。あそこ 場の中央。

今まさにヤリで敵を貫こうとするあの人。あれがナナキーナ。一番気高く強い女性だ。皆をまとめていた。


恐らく対峙しているのが、敵の頭のキュオザロンだ。一番大きい。それにナナキーナの相手なのだから。

ナナキーナを食いちぎるかのように、大きな牙をむこうとしている。


全力で、ぶつかろうとして-ぶつかる直前に、何かが起こった。


見ろ。

他の者たちも。まさに敵に向かい・・・そしてぶつかる前。全て、その動きの途中で止まっている。


そう、止まっている。

確かに。先ほど、お前に語られた話にもあった。そう、時間が止められている。

これは、エクエウの行いでも、クォルツの行いでもない。我々はこのような術を知らない。


外部の干渉だと、あの柱がお前に伝えたのだな。

そうかもしれない。そう、それしかあり得ない。


だが、なぜ私のみが残された? 幼かったからか。その場に居なかったから、という推察はおかしいように思う。恐らく、この影響はこの世界全てに広がっている。


セフィリアオンデス。大地が失われた、と言ったな。


やはりそうか。

先達たちに聞いていた様子と、全く違うのだ。おかしいと感じていた。

スミカの外は、こんなに狭いところだったのかと疑問に思っていた。それに、敵側のスミカも見当たらない。隅々、どこを探しても。

つまり、失われたのだ。敵側のスミカがあった部分も。


世界全てに影響が出て、大地さえ失われているのに、なぜ自分一人だけを残した?


・・・私が未熟だったからだ。それしかない。

世界に干渉する大きな力にとって、私は未熟で、そのことで干渉の影響を受けなかった。

干渉する対象というものがある。その対象が、私の中に、充分に無かった。だから干渉を受けず、一人残るハメになってしまった。


止めるなら、全てを止めれば良いものを。中途半端なことをする。中途半端な者たちだ。


だが私は残ってしまった。

先達と同じ年齢になった。そのうちに越すかもしれない。


先達はずっとこのままだ。


私は、ここで、ずっと先達たちを守っていく。

ここは・・・私の聖域だ。


私が異世界の者を追い返す理由はこれだ。

ここを荒らされる可能性を排除する必要がある。万が一にも、先達に影響を出してはいけない。


いつか必ず、先達は戻るだろう。戻る以外にないではないか。


きっと、干渉の力が弱く・・・解ける日が来る。永遠に続くものなどありえない。

だから、必ず戻る。


戻ってくる。

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