079.語られた体験
今やこの世界の唯一の住人、トートセンクは語った。
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自分は一人、幼なかった。自分以外は皆成人で、その姿は全て美しく気高かった。
自分が物心ついたときには、すでに戦いは始まっていた。皆それぞれスミカから飛び立ち、また戻ってくる。
自分は戦いに行ったことがない。
ただ、皆の飛び立つ様子がとても美しく、見るのがとても好きだった。
皆が時折歌を歌ってくれた。戦いの様子も話してくれた。宙からの武器の生み出し方も教えてもらった。
それら全てに技術が感じられて尊敬していた。
先達は様々な自分の成長をとても喜んでくれた。
いつからか先達の帰還の様子に疲れがにじみ出していた。皆疲れをあらわにしだした。
歌よりも、気が狂ったように叫ぶようになった者もいた。いつからか見なくなった者もいた。
きっと、先達は、はっきりと私に事実を告げないようにしていたのだ。
ある時、全員が、器にエネルギーを頂いて、皆で飲みほした。まるで儀式のように見えた。
また戻るとの決意の表れだったのだろう。皆、空になった器を残したままにした。いつもは、片づける。また器の形を解いて宙に戻すのだ。いつでも生み出せるものだ、残しておく必要がない。むしろ羽根に当たって邪魔になるからな。
だが、先達は、この日は、『戻ってきて片づける』・・・それを決意し、意図的に器を残したのだ。
・・・実は、今もスミカに、先達の器が残っている。あの日のままにな。
食堂を出ていきながら、皆、扉のところで様子を見ていた私に声をかけた。頭を撫でたり、肩を掴んでみせたりした。
先達は、私を見ると、力が出ると言って可愛がってくれていた。
その後、私はいつものように皆が飛び立つのを見送った。それは美しく思えた。
まさかあれが最後だと思わない。
だれ一人戻ってこない様子に、私は迷った。
スミカの外は危険だから、成人するまで出ないように言い含められて育っていた。
だが、誰一人戻らず、あまりにもおかしい、という思いが日に日に強くなる。
だが、結果、私は先達の指示を守る事にして日を過ごした。戻ってくると思っていたのだ。
そのうち、ついに私は成長して、成人になった。背中の羽根の振動数が変わるのだ。それで分かる。
やっとの思いで、私はスミカの外に出た。
少し探しただけで、この場所を見つけた。
先達だ。そして、話だけで聞いていた、戦うべき相手。
呼び掛けたが動かなかった。触ってもみたし、可能になった共鳴音も出してみた。だが無駄だ。
腹が立って・・・敵に、先達に教わったヤリを向けた。だが、壊れなかった。何も歯が立たなかった。
もしかして、先達も同じなのかもしれない。何物にも壊されないのかもしれない。
見ろ。あそこ 場の中央。
今まさにヤリで敵を貫こうとするあの人。あれがナナキーナ。一番気高く強い女性だ。皆をまとめていた。
恐らく対峙しているのが、敵の頭のキュオザロンだ。一番大きい。それにナナキーナの相手なのだから。
ナナキーナを食いちぎるかのように、大きな牙をむこうとしている。
全力で、ぶつかろうとして-ぶつかる直前に、何かが起こった。
見ろ。
他の者たちも。まさに敵に向かい・・・そしてぶつかる前。全て、その動きの途中で止まっている。
そう、止まっている。
確かに。先ほど、お前に語られた話にもあった。そう、時間が止められている。
これは、エクエウの行いでも、クォルツの行いでもない。我々はこのような術を知らない。
外部の干渉だと、あの柱がお前に伝えたのだな。
そうかもしれない。そう、それしかあり得ない。
だが、なぜ私のみが残された? 幼かったからか。その場に居なかったから、という推察はおかしいように思う。恐らく、この影響はこの世界全てに広がっている。
セフィリアオンデス。大地が失われた、と言ったな。
やはりそうか。
先達たちに聞いていた様子と、全く違うのだ。おかしいと感じていた。
スミカの外は、こんなに狭いところだったのかと疑問に思っていた。それに、敵側のスミカも見当たらない。隅々、どこを探しても。
つまり、失われたのだ。敵側のスミカがあった部分も。
世界全てに影響が出て、大地さえ失われているのに、なぜ自分一人だけを残した?
・・・私が未熟だったからだ。それしかない。
世界に干渉する大きな力にとって、私は未熟で、そのことで干渉の影響を受けなかった。
干渉する対象というものがある。その対象が、私の中に、充分に無かった。だから干渉を受けず、一人残るハメになってしまった。
止めるなら、全てを止めれば良いものを。中途半端なことをする。中途半端な者たちだ。
だが私は残ってしまった。
先達と同じ年齢になった。そのうちに越すかもしれない。
先達はずっとこのままだ。
私は、ここで、ずっと先達たちを守っていく。
ここは・・・私の聖域だ。
私が異世界の者を追い返す理由はこれだ。
ここを荒らされる可能性を排除する必要がある。万が一にも、先達に影響を出してはいけない。
いつか必ず、先達は戻るだろう。戻る以外にないではないか。
きっと、干渉の力が弱く・・・解ける日が来る。永遠に続くものなどありえない。
だから、必ず戻る。
戻ってくる。




