069.告げられた言葉と渡された秘密
「では、言うぞ。・・・クリスティン、あなたは、本当に素敵な子じゃ。誰がなんといおうと、とっても可愛くて素晴らしい」
嬉しくてクリスティンはにこにこと笑った。
「その笑顔もとっても良い。とっても良い子。クリスティン。あなたが、もし他の人から、それは変だと言われても、あなたがとっても素晴らしいことに変わりはない。たくさん愛するものを見つけていい。今のままでよい。ちっとも変ではない。みんな、あなたほどにはものがたくさん見えなくて、気付いていないことがあるんじゃ。気付いていないから、あなたを、不思議に思う」
おばあさんはじっと優しい目でクリスティンを見つめて、言葉を伝えた。
「困ったときには伝えるのじゃ。自分が思うことを伝えるのじゃ。ちゃんと憶えておいき。世の中に、あなたを分かる人が、たくさんいる。あなたは、あなたの暖かい心のまま、好きな事を思うようにするが良い」
クリスティンはきょとんとした。
たくさん言われすぎた。とはいえ、褒めてもらったようだ。
「あなたは、あなたのままで良い」
「うん」
クリスティンは、頷いた。
「お土産を、あげよう」
おばあさんはそういって、また奥の棚をガサガザとし出した。
「さて・・・。いろんなものをあげたくなるのぅ。あぁ、ふむ、そうじゃの・・・」
一人ごとを言いながら、棚の扉をあけている。
クリスティンはちょっと不思議におばあさんを見ていた。
おばあさんは、四角いような、変わった形の置物を手に持ってきた。おばあさんの手のひらに乗るサイズだ。
「これをあげよう。これは『祭壇』。たくさんの人と、これでお話ができる。世の中にはたくさん、たくさんの人がいる。クリスティン、これを使って、たくさんの人とお友達になるんじゃ」
「箱の、お友達・・・?」
不思議そうに見つめるクリスティンの前で、おばあさんはそれを指で弾いて見せた。
「こう使うんじゃよ」
キィンという音と共に、青い箱は青白い光を放ち出した。幻想的な光に、クリスティンは新しい、見知らぬ場所に自分が放り込まれた気持ちになった。なぜだろう、とても落ち着く。静かな気持ちになる。
老婆が箱に向かって話しだした。
「@#%&・・・$・・・」
『◇○*#・・・』
箱が男の声で話しだした。
「この箱、男の子だ」
「▽*&・・・ひょひょ、可愛いのぅ! ちょっと違う、クリスティン!」
不思議な言葉を話しながら、おばあさんは笑いだした。
「この箱に、『声』だけ届く。ほら、お話してごらん。@+&%▽・・・#○・・、さぁ、クリスティン」
クリスティンは、椅子の上、老婆の膝の上に招かれた。
一緒に机の上の青い祭壇を見ながら、教えてもらった。
「ほら、クリスティン。言ってごらん、『DO912。クリスティン』」
「DO912。クリスティン」
『こんニチは、クリスティン』
変な発音だが、返事が聞こえた。
「わぁ、こんにちは!!」
喜んで、おばあさんを振り返ると、おばあさんはにっこり笑った。
「お話ができたろう?」
おばあさんは、また不思議な言葉を口にした。
箱と、分からない言葉で、楽しそうに笑いあっていた。
会話が終わったようで、不思議な淡い光も消えていった。
「これはの、使うときは、ここをこう指ではじく。それから、『DO912。クリスティン』と、言う。これを使うときの名前じゃ。本当は特別の言葉で話すんじゃが、初めは気にしなくて良い。分かる言葉の人とお友達になりなさい」
「うん」
「そのうち、特別な言葉をちょっとずつ覚えると良いじゃろう。みんな親切じゃから、やさしく教えてくれる。特別な言葉を覚えるとな、もっとたくさんの人と友達になれるぞ。『祭壇』の事も、ちょっとずつ教えてもらうと良い」
「うん」
「一つだけ、守ると約束しなさい」
おばあさんは言った。
「なに?」
クリスティンは聞いた。
「誰にも、見せてはいかん。話してもダメじゃ」
「どうして?」
「困ったことになる。大変なことになる」
「どうして?」
「皆が使える道具じゃなくての。悲しい事にの。あなたのお父さんやお母さんにも、絶対に、見せても話してもダメじゃ」
「どうして?」
「お父さんとお母さんを、困らせたいか?」
「ううん。イヤだよ」
「じゃあ、守りなさい。これは絶対にじゃ。お父さんやお母さん、大切なみんなのために、これは秘密じゃ」
「どうして?」
「話さない事で、話さない相手を守る事ができるからじゃよ」
その言葉に、クリスティンは困った顔をした。良く分からなかった。
「とにかく、秘密のものじゃ。秘密は誰にも話しちゃいけないというのは、分かるかのぅ?」
「・・・うん」
「じゃあ、秘密の箱を、あなたにあげる。秘密にして、使うんじゃよ。お友達がたくさんできる」
「うん・・・」
クリスティンは、その手に渡された『祭壇』とやらを見詰めた。
お友達のできる箱。でも、秘密の箱。絶対秘密。みんなのために・・・。
そしてクリスティンは、布のカバンをもらった。『祭壇』をつめてもらった。
「クリスティン、お家に帰ったら、まず『祭壇』を、どこか見つからないところに隠すんじゃよ。秘密のものじゃからな」
「うん」
おばあさんは、クリスティンが持てる重さになるように調節しながら、粘土や、マッチや、クレヨンなんかもそのカバンにいれてくれた。
「元気での、クリスティン」
「うん。おばあちゃんも、元気でいてね」
抱きしめてもらった。
石見の塔を出ると、パパがとても心配そうに待っていた。
「どうだった?」
とっても楽しかったよ、と答えた。
パパはカバンに気がついたけれど、秘密の箱があったから『秘密だよ』と言ってみた。
パパは驚いて「秘密か」と言ったが、「まぁ、パパの運命も秘密だからなぁ」と言った。
それから、パパに肩車をしてもらって、町に帰った。
とても楽しい運命の日だった。
***
今。
部屋の中、淡く青く光を放つ祭壇を、涙のすじをたくさんつけた顔のまま、クリスティンは見詰めていた。
まさか、こんな事が起こるなんて。
クリスティンは悔やんだ。
部屋に、ダロン・・・ツォルセティーナを、招かなければ良かった。
石見の塔の老婆が思い出された。
こんな時、どうしたら良いんだろう? おばあちゃんは、知っているの?
僕はどうしたら、ツォルセティーナを探しだせる?
どうすれば?
どうすれば?
クリスティンは、ジィっとその青い箱を、睨むように見つめた。
僕は、どうやったら、ツォルセティーナのところに行けるだろう。




