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066.石見の鏡に

イシュデン領主イングスは、妻サリシュと息子アトロスのいる隠し部屋から運搬室に移動した途端、自分を探している声を聞いた。


何だ?


妻と息子に食事を運ぶ約束をしてはいたが、イングスは、声のする談話室に向かう。

すると、キョロキョロと明らかに自分を探しているメチルがいた。

「イングス様!」

「どうした?」

言いながら、ひょっとして、夕食の席に現れない自分たちを探していたのかと思ったのが、メチルの答えは全く違ったものだった。


「イングス様! 大変です、石見の鏡に、死体があるってー・・・!!」

石見の鏡は、居城の北西にある池だ。


死体だと?

「どういうことだ? 誰がその話を・・・?」

メチルと談話室の出入り口に歩きながら、脳裏に様々な可能性や疑問が浮かんだ。


死体・・・まさか、今捜している商人の娘が・・? 娘は、誤って池に落ちて行方不明に?

いや、今日の食事の席でクリスティンが話した状況からすると、彼女は祭壇のために姿を消したはずだ。

石見の鏡・・・あの池の一帯は確かに奇妙な場所だが、祭壇と関わるような場所とは思えない。石見の鏡がそんな土地だと書いた記録を読んだこともない。


が、イングスは顔をしかめた。


そんな記録が無かったかどうか、自分の記憶など、当てにならない。自分がどれほど覚えているのか確証が無い。

妻サリシュならば何かを覚えているかもしれない。彼女は自分のために、知識のために、あの部屋で過ごし続けてくれているのだから。


談話室を出て、メチルに案内されて中央階段を下っていく。

開け放たれた玄関から、ワイワイと騒がしく複数の人間が話し合っているのが聞こえる。


案内の中、メチルが一生懸命に説明をしてくれた。

「あの、トルカとザティが、来て、それで、石見の鏡に、死体が浮いているって、言いました。それで、今、捜索隊を出さないとって・・・。父がイングスさまを探してます」

「ふむ・・・」

階段を降りながら相槌を返す。


メチルの言う父とはグィンの事だ。グィンが詳しく話を押さえてくれているだろう。


トルカとザティは、息子アトロスと同級生の子だ。

二人で、石見の鏡周辺まで、行方不明の子を探しに行ったのか。そうに違いない。

それで、死体を発見したと言うのだろう。


だが、死体?


イングスは一つの可能性に気がついた。

それは、死体に見える別のものかもしれない。木の可能性。別の生き物の可能性。


だが、本当に、その二人が見つけたのが、死体・・・人間の死体であったなら?

それが誰かと言う事が問題だ。

だが、そんなところで亡くなるなど・・・


イングスは心のどこかで深く悲しむ自分に気がついた。


そんな場所で亡くなるなど・・・この土地を知らない人間でしかありえない。

つまりは、外から来た、商人や・・・その子どものような。


まだ確認したわけではない。

だが、イングスはメチルには悟られないよう、心に溜まった息を深く静かに吐いた。

瞼を閉じて、冥福を祈った。

無意識に、それは、商人の娘のために。


***


「寒くなってきたな」

イシュデンの北西、石見の鏡という池のふちで。

イシュデン領主の息子アトロスの、友人の一人、キロンが腕組みをしながら呟いた。


「トルカたち遅いな・・・日が暮れてしまう」

隣の、やはりアトロスの友人の一人、アルゲドも寒そうにしている。

が、ふと思いついて、二人の間に座り込んでいるフォエルゥの背中に両手をつけた。

「おい、フォエルゥが暖かい」

「おぉ」

二人で、フォエルゥの白い毛皮に擦り寄ってみる。

「フォエルゥ、お前、本当に素敵なヤツだな」

「暖かいし、頼もしいし、最強だよな」

キロンとアルゲドが口々に褒めるも、フォエルゥはただ退屈そうに、その場に座り込んでいる。


ここは、町の北西にある、石見の鏡という池のふちだ。


商人の子どもが行方不明となり、町を皆で探したが見つからないし、誰も探していない場所も探した方が良いと、友達のザティの提案で、アルゲドとキロン、そしてトルカとでここに来た。

アトも誘おうと思ったが用事があったらしく来れなかった。だがトルカの頼みで、アトからフォエルゥを借りている。


石見の鏡周辺は変な生き物が多く住む場所なので、フォエルゥがいるとやはり心強い。具体的にどう活躍するというのはないのだが、何とはなしに思い切って進めるのも事実。

四人と一匹で道を進みつつ森の中を少しはいってみたり、ウロウロと、人の気配が無いかどうかを探していた。


この場所は探すには広すぎるし奥が深すぎる・・・それをお互い感じつつ口にしつつ進みながら、初めに気付いたのはアルゲドだった。

「おい、あそこ、何か浮かんでるぞ」


皆でアルゲドが指差す方向に目を凝らした。それは、石見の鏡という池の、真ん中の方だった。

遠かったが、目を凝らすと、確かに何か池の上に・・・。


トルカは困惑していた。

「浮かんでるっていうより・・・立ってない? そんなはずないよね、あそこ、池の中だし・・・」


池の上は霞んでいて、はっきり見えないが、池の真ん中あたりと思われる場所に、何かとても小さな山のようなものがある。

確かに、浮いているように見えるが、遠くだし霞んでもいるので、立っているかもと言われればそんな風にも見える。

気味が悪い、と、皆が思った。


「・・・あれ、人じゃない・・・?」

と、ザティが言った。

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