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065.再び

忘れないために、そのために。部屋にこもることを、母は選んだのだ。


「忘れない事って・・・そんなに・・・大切なんでしょうか・・・」

自分が何を言うのか把握しないまま、アトは思った事を口に乗せていた。

「外に出ず・・・皆に、忘れられても・・・?」


母は、また真剣な眼差しでアトを見ていた。

「アトロス。必要だと思ったの。このように過ごす人が、必要だと思ったのよ。それに・・・」

「はい」

「本当に『亡くなった』と皆に思われるなんて・・・本当にそんな風に忘れられるなんて思わなかったのよ」

つまり母自身、イシュデンの霧の影響がこれほどのものとは思っていなかったのだ。


「私、自分を犠牲にしつくすつもりは無いわ」

「え」

なにを言うのだろうと、アトは瞬く。

そんなアトに、母はにっこりと笑った。

「私は生きてるのよ。霧についての対策を本気で考えて、絶対、また皆と一緒に過ごすことにするわ!」


***


「それにしても、本当にイングス、遅いわね」

母は部屋の中央の棚の上に置いてある時計で時刻を確認しながら言った。

「何かあったのね・・・」

「・・・そう・・・でしょうか・・・」


戸惑うアトの前の食事トレイに、母は目をやった。

「ご飯、食べたわね。先に、探してきてくれないかしら? 『祭壇』を使って消えたのは間違いないみたいだもの。アトの行く場所に居る可能性が高いの」

「『祭壇』・・・?」

「あぁ・・・そうね、便利な道具なんだけど、なぜか、使う人によっては、行方不明になっちゃうみたいなの・・・。この部屋でいう、アレよ」


母は淡く青く光る暖炉を振り返り指差した。

「昨日も使ったでしょう?」

「はい」


母が立ち上がったので、アトも立ち上がる。母について奥に向かいながら、アトはまた口に疑問をのせた。

「腕のこと、聞こうと思ったのですが・・・」

「あぁ・・・」

母が振り返ってアトの腕を見つめた。

しかし、アトは慌てて発言を打ち消した。

「あ、でも、今は止めます・・・ごめんなさい、なんだか、思ったこと全部口に出てしまって・・・」


そんなアトに、母は嬉しそうな笑顔をみせた。

「言葉に全部してくれて、有難う。アト」


そう言われると何故か照れる。

「いえ・・・」


アトは、なんだかいつもの自分の調子に戻りたい、と、思った。

なんというか、全部口に出すのも良いけれど・・・全て自分のペースにしてしまいそうな気がして、他の人に失礼になってしまいそうな気さえしてきた。

現に、行方不明の子を探そうというのに、自分は別の質問ばかりしている。少し反省。


とはいえ。なんだか、さっきまで何が何だか分からなかったのに、たくさんの事を聞けたのは、たくさん口にした結果だ。最後は本当に思いつくまま口にしちゃってたけど。

こういうのも悪くないな、とも思う。


「えぇと・・・僕、探してきます」

アトは暖炉みたいな、『祭壇』と言われるものの前に立った。

そんなアトの様子に、母も頷いた。

母は胸元から、小さな手鏡を取り出して、アトのポケットに入れてきた。

「これ、連絡用よ。そうだわ、ペンダント、どうしたのよー・・・まぁ後にしましょ」

母も思ったこと全て口に出てくるようだ。

「とにかく、今度はそれを落とさないでね」


アトは頷きを返事にして、祭壇の前に立った。

祭壇は青白い光を放っていて-・・・昨日と全く変わりがない。


アトは足を踏み出した。


***


アトの母、サリシュは息子が『祭壇』を通って姿を消す様子を見詰めていた。

普通は壁に当たるだけなのに、息子の身体は、そこに壁など存在しないようにスルリと向こう側に消えていく。

サリシュは、行方不明の子どもが見つかる事を祈りながらも、息子自身の無事も祈っていた。

 今はあなただけが頼りよ、アト・・・。


だが、息子の姿が完全に向こう側に消えた途端、祭壇が、ボゥっと紫色の炎を吐きだした。

「・・・ケルベ!?」

サリシュは驚愕した。この色は、故郷ローヌの情報機関『BB』使用時に、番犬のような精霊がこちらに顔を出した証拠だ。けれど、なぜ今!? 『BB』に繋いでもいないのに!

「何!? 何の用!?」


だがその炎は、一瞬燃え上がった後に気配すら消した。


どういう事!? 今のはどうして!?

思わずサリシュは自らも祭壇に近寄った。しかし、足を踏み出しても、目の前には光る壁があるだけだ。

「ケルベ。どういうこと? あなた、アトに何の用があるの?」

両手で光る壁を押さえるようにしながら、サリシュは呻いた。


・・・いえ、その前に、知る必要があるわ。


サリシュは気づいた。


ケルベ。ローヌ島の独自の、世界最高の情報網、『BB』の番犬。精霊。番人。

恐らく、『BB』が発足した時から、ずっと、今に至るまで存在し続けている。


ケルベディウロス。あなた、一体、何者なの?


ケルベディウロスについて、知る必要がある。

サリシュは呻いた。

「ケルベ。アトに何かしたら・・・絶対に切り刻んで・・・油で揚げてやるから!!」

実際そんな事など出来ないなんて、サリシュには一切関係ない。


それからやっともう一つの可能性に気がついた。


ケルベ。もしあなたがアトを助けてくれたら・・・。

できる限りのあなたの願い事を、私、一生懸命叶えるから。


自分には決して踏み込むことのできない光る壁を前にして、サリシュは祈った。

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