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006.店

クリスティンは喜びの奇声を発した。

「何か来るー!! 外から、何か来てるー!!」

「ええ!?」


ローサは、クリスティンが門に向かっているのだと気がついた。

全くこの子は!! ロバートたちはなんだってこの子を一人にさせておくのか! ローサは、思い浮かべたクリスティンの両親を非難した。


一方のクリスティンは、知っていた。耳に届く音は『今まで聞いたことのない音』であることを。

角を曲がると、案の定、今まで見たことのない形の馬車が、今まで会ったことのない人たちをのせて、門をくぐりこちらに向かうところを見た。

キヤァ、とクリスティンは奇声を発して喜んだ。


息切れしつつも、ローサが、町の一番外側の家の角を曲がった時、そこには大きな幌馬車が留まっていた。

馬車の周りをピョンピョン跳ね飛ぶクリスティン。

全くこの子は!

とはいえ、ローサも外からの者に興味がわいた。

「あなたたちは誰だい」


自分と同じぐらいの年代の男が、答えた。

「△*◎×□・・・・」

「えぇ? 何ていったんだい???」

ローサは困惑した。なまりが酷いにしてもあまりにも何を話しているのか分からない。いい大人なのに、きちんと話せないなんて?


代わりに答えたのはクリスティンだった。

「果物を売りに来たんだって! 織物とかもあるって! 見せて、見せて!! ◇○%#@!! ◇○%#@!」

最後の方は、男に向かって話しかけていた。ローサはあっけに取られた。


***


チーン。鐘が鳴った。最後の授業の終了の合図だ。


義手を外している今日-なぜなら、カエルのために洗わざるを得なくなったからだ-、アトはトルカの手助けもあって教科書をまとめ、鞄をたすきがけにかけた。

教室を出たところで、先に出ていたキロンに声をかけられた。

「おい、『セレスティン』がいるぞ」


キロンの指差す方を見ると、確かにセレスティンが、ガミガミとルナード先生に怒られていた。

「全くお前は! 今日の授業はもう全部終わったぞ! 学校は昼に始まり夕に終わる、今は何時だ!?」


アトは少し軽いため息をついた。居ると分かった瞬間、彼に石見の塔について聞いてみたいと思ったのだが、この状況では諦めた方が良いだろう。


「セレスティンて・・・なんで、ああなんだろうね」

傍で、トルカが呆れて呟いた。


「『セレスティン』だからだろ」

キロンが言い捨てる。


アトは、セレスティンをじっと見つめた。

どうして、彼は、3歳なんて幼さで『運命の日』を迎えたのだろう。早く聞いておかなければならない事情があったのだろうか。


アトは思った。自分も、腕が欠けているから、早く『運命』を聞くことになったのだろうか。何かを補うために。


まだ続いているルナード先生の説教を後ろに、アトたちは、学校を出た。


***


アトが、友達のアルゲドとトルカとキロンと共に、帰り道に町の広場に向かうと、普段と違う賑わいがあった。


「なんだ?」

真っ先に、背の高いキロンが呟いてその賑わいの中心を確認しようとした。

「メチルがいるぞ」

やはり背の高いアルゲドがキロンに告げると、キロンは言葉を話さなくなった。


アトたちはキロンをそっとしておいた。

キロンは幼いころから、アトの身の回りの世話をしてくれているメチルの事が好きだ。そして、すでに昔、皆で散々キロンをからかった。結果、一切キロンが口をきいてくれなくなり、皆で深く反省して深くお詫び申し上げた経緯がある。


「メチルが何かしてるの?」とアトは尋ねた。

「いや・・・。あれ、誰だ? ひょっとして、町の外から、人が来たのか?」と、アルゲドが言った。


イシュデンに、町の外から誰かが来る事は、滅多にない。


***


買い物客、というよりも、見物客がたくさん居た。アトたちも混ざった。


見慣れない幌馬車を後ろにして、どうやら品物が置かれている様子だ。

真ん中には、八百屋のローサさんが居て、皆に声をかけている。

ローサさんの右側に、見知らぬ、アトの父ぐらいの年齢の、ヒゲ面でターバンを巻いた男性が、妙に沈んだ顔で、手で品物をすすめるようなジェスチャーをしている。この人が町の外から、これらの物を売りにきたように思える。

背伸びをしたり動いたりして確認できた品々は、見慣れない野菜や果物のようだった。照りやかな緑色の果物。美しい曲線の黄色い果物も。甘く不思議な香りがする。つぶつぶが沢山ついている細長い果物もある。


同じく授業帰りらしい、学校鞄をかけたままのメチルがアトたちを見つけた。

「アト様!」

にっこり嬉しげに笑う。アトは直感した。メチルは、ただ見ているだけでなく、これらを買いたがっている。

「メチル、何か買うの?」

「そうなんです! 今日の晩御飯にしてもらおうと思って! アト様、どれが食べたいですか?」

「うーん・・・」

見たこともない形状である上に、いやに濃い色の果物。一体、美味しいのだろうか・・・。

「アト様、荷物、一緒に持ってもらえます?」

メチルがアトを真摯な顔で見つめた。「皆の分買うと、一人で持てないかも・・・」


アトは返答に困った。

「あ、ごめん、今・・・」

義手を外して来ている。メチルは一体どのぐらいの量を買うつもりなのだろう。

メチルもアトの状態に気が付いた。

「あ、そうでした・・・」

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