052.教会の協力者
「・・・弟分・・・」
アルパッサは呟いた。
今日、ソラ様を訪れた時、アルパッサは、ミト師が言うのを、うんうんと頷いてみせていた。そう指示があったからだ。
頷きながら、変な話だとは思ったが、ミト師の計画のために必要なのだと思っていたし、事実は違えど、建前上、プラム様が自分の弟分になるんだな・・・と、人ごとのように感じていたのに。
まさか、本当に、そんな話だったなんて。
「アルパッサよ。お前は、見習いから、司祭代理となれ。ワシは、お前の弟分のプラム様の指導にあたる。たっぷりとお話を聞かせて差し上げたいのぅ。ジジィになった分、色んな話のストックがあるからのぅ・・・・楽しみじゃ」
ミト師は本当にうれしそうにニコニコしていた。
「まぁ、病がうつるかどうかの判断で、状況は大きく変わる。じゃが、アルパッサよ。『祭壇』についてはお前も学ぶ必要があろうし、ワシも今から学ぶ必要があるしのぅ。じゃから、たまにはお前も、塔に来るが良い。お前は扉越しになるかもしれんがの、ワシと、アルパッサと、プラム様、三人仲良く学ぼうの」
アルパッサには、師匠の話はまるで夢物語のように聞こえた。
しかし、ミト師は微笑みながらも、まっすぐにアルパッサを見詰めていた。決して現実から浮かれ離れたまなざしではない。
ミト師は本気だ。現実にすると決めている。
アルパッサは、まるで、掴みどころのない煙のような生き物が二匹ほど自分の胸の中を旋回するような気持ちを味わった。
何かが不安で、どこか逃げ出したい。
今聞いたことを否定したい? いや、否定ではない。どこかが泣き出したい。そして、どこかが怒っている。
自分の気持ちの中に、色んな場所があって、色んな場所がそれぞれ違った感情を訴えている。
「アルパッサ。頼りにしておるよ」
ミト師が微笑んでいた。
色んな気持ちの中から、泣きだしたい気持ちが大きくなった。
なぜ泣きたい? 悲しいのか? 悔しいのか?
けれど、聡明なアルパッサは冷静になろうと努めた。
師匠の頼みだ。自分を認めてくれている。
アルパッサは応えた。
「はい、かしこまりました」
言ってしまったら、ブワっと泣けた。
こんな時に泣くなんて、なんて頼りない。そう呆れる自分も感じながら。
***
チーン☆
鼻水をかんだアルパッサに、ミト師は言った。
「アルパッサよ。頼みがある」
まだちり紙を鼻に当てた状態であったアルパッサは、その状態のままで答えた。
「ふぁい、はんでひょう」
「コテッツアを、呼んできてくれ。すりおろしリンゴはまだかのぅ」
こんな時にあなたはリンゴの頼みですか?
と、無言で、しかし顔に出して、アルパッサは丸めたちり紙をゴミ箱に捨てた。
「わかりました、呼んできます」
「うむ、頼んだぞ。あと、リックデンと、マーゼも呼んできてくれまいか。皆ですりおろしリンゴを食べようのぅ」
その人数では、一人当たりスプーン1さじしか当たらないような。無意識に計算しつつ、アルパッサは立ち上がり、ふと気がついた。
そろそろ、オヤツより夕食にした方が良い時刻のような気がする。
***
司祭ミトの部屋で、司書マーゼと、世話人リックデン、世話人コテッツア、司祭見習いアルパッサがいつもより少し早く、少し簡単な夕食をとっている。
皆、ミト師と同じように粥をいただきながら、司書マーゼは言った。
「ミト師は、私の母の事を、覚えておられますかしら?」
「勿論ですとも」
ミト師は静かにうなずいた。
司書マーゼはミト師より随分年上で、ミト師はマーゼに敬意を払っている。
マドンナだからとはしゃぐ影はすっかりどこかへ身を潜めて、落ち着いた雰囲気だ。
師匠、いいかっこ見せようとしてますね?
アルパッサは何だか、分かりやすい師匠に楽しくなった。
マーゼは話を続ける。
「私の母は、直感が本当に鋭い人でした」
「そうでしたね」
ミト師はうなずく。
リックデンと、コテッツア、アルパッサは、年長者同士の、自分たちが会ったことも無い人についての話を、ただ静かに聞いている。
「母は、皆には、自分の直感の鋭さを隠そうとしていました。けれど、母が隠そうとしてもどうしても隠せないほど鋭かった」
ミト師は驚いたように、しかし話を邪魔することがないように、無言でうなずいた。
「母は、家族には、本当のありのままの姿を知っていてもらいたいと言っておりましたわ。ですから、よく話してくれました。『家族だから話すのですよ、けれど、これは家族だけの秘密よ』と言われました。嬉しく思っておりましたわ。家族であることの証明のように思えましたの。けれど、どうして秘密なのかは分かりませんでした」
まるで懐かしむように、マーゼが穏やかな笑みを浮かべて話している。
「母は、『本当の事でも、見せるタイミングというものがある。今はまだ、皆に知ってもらうタイミングではない』と言っていました。私が尋ねる度に、タイミングについて話して聞かせてくれました。例えば、母はこう言いました。『お花に、お水をあげる場合、朝早くにあげるでしょう? お昼にあげないわよね? お昼にあげると、太陽でお水が温かくなってしまって、お花は辛くなってしまうわ。それと同じよ。タイミングが違うと、悲しい結果になることがあるの』」
皆で静かに聞いている。




