051.ミト師の計画
「なんていうか、ネルザ家の女性は皆、第六感というか何かが優れておるんじゃろうのぅ・・・」
「・・・そう、なんですか?」
「うむ、マーゼもそうじゃが、マーゼの母君なんてもっとすごかったわ。無くし物は見つけるし、嘘も浮気も一発で見抜くから、皆恐れておったわ・・・」
なんだか恐れるレベルがズレている。
「・・・そう、ですか」
「コテッツアも良い感じにぼんやりしておるが、実は色んな事を見抜いていそうじゃしのー」
ちなみに図書館のマーゼの孫が、おっとりコテッツアだ。
「・・・・師匠。思い出しました。マーゼさんから、伝言を受け賜りました」
「おぉ、なんじゃなんじゃ!」
マドンナからの伝言に、ミト師は無条件に顔を輝かせた。
「まず、プラム様とソラ様の話をされました。そして、ミト師にこっそり伝えてほしいといわれました。申し上げます。『わたくしにできることなら、何でも』・・・以上です」
ミト師はしばらく黙って考え事をした。
アルパッサも無言で師匠が行動を起こすのを待った。
「アルパッサよ。プラム様を助ける計画じゃがな・・・。プラム様は、あの、壊れた風車の塔でずっと暮らしておられる。プラム様はご病気じゃ。うつるのか、うつらないのか。または、実はもう治っておられるのかもしれん」
静かに師匠が話す。
「マーゼとコテッツアは、プラム様について、通常人が持つ『思い込み』などには左右されず、特有の直感で判断できるかもしれん。塔から出しても安心だと、二人が言うのなら、思い切った行動も取りやすいの」
それほど直感が信頼できるのか。アルパッサは意外な気持ちで聞いていた。
師匠は話を続ける。
「じゃが、それとは別にの。人にうつる可能性があると我々-ワシとアルパッサ、ワシら二人じゃ-ワシらが判断した場合はの。プラム様に塔に出ていただくのは難しかろう。じゃから、ワシがこの教会を出て、プラム様のお傍、風車の塔で暮らそうと思う」
アルパッサは話の意味がよく分からず、やや首をかしげる風に、心持ち前のめりになった。
ミト師は、アルパッサの様子を一度確認するように言葉を切った後、もう一度言った。
「わしは余生を、プラム様と風車の塔で過ごす」
二度告げられて、アルパッサはやっと告げられた内容が意味することを掴んだ。
師匠は、この教会から出て、病がうつるかもしれない、風車の塔に行くと言っている。そこで暮らすと。
師匠は、もう、塔から出てこない。皆に病をうつすわけにはいかないから。
一生、師匠は塔で過ごすつもりなのだ・・・。
アルパッサは口を開きかけた。
だが、何も言葉が出てこない。心が空っぽになってしまった。
口を開きかけ、けれど何の言葉も発しないアルパッサに、ミト師は言った。
「病がうつるのなら、プラム様は、塔から出るのは危険じゃ。皆に病をうつす危険は冒せぬからの。じゃがだからと言って、一生、一人閉じ込められて過ごすなど。だからワシは、今後をプラム様と共に過ごそうと決めた。これはワシの罪滅ぼしじゃ。この歳になるまで、プラム様に何の救いの手も差し伸べず、長い年月を何も変わらせずに過ごしてしまった」
ミト師は、静かに息を吐く。
「この歳になってからで恥ずかしい。じゃが、今動ける事を感謝する。あの方の傍にワシがおり、何かを語ることで、あの方が喜んでくだされば良い・・・ご自身が生きている事を、実感してくださるとよいのぅ・・・」
「・・・ミト師、しかし・・・・」
アルパッサは、何をどう言っていいのか分からない。
ミト師はアルパッサをじっと待つような目をしたが、アルパッサが言葉を失っているのを見て、穏やかに話を続けた。
「丁度、というべきじゃろうか。プラム様は、本来司祭がお持ちの『祭壇』をお持ちじゃ。ワシは、『祭壇』を口実に、プラム様のお傍で暮らすことにする」
アルパッサは、今日、領主ソラ様を二人で訪問した時に、師匠がソラ様に申し出た事を思い出していた。
ミト師は話を続けている。
「先代の日記を読む限り、司祭の修行をしなかった者が『祭壇』を使おうとすると、この世から姿を消してしまうらしい。それなのに、プラム様はずっとあそこにおられる」
少し考えるように慎重に続ける。
「ならば、プラム様は、修行無しに『祭壇』が使える者だった、という事になるのじゃろう。それは、生まれつき『司祭』としての才能をお持ちの方じゃ、と、言いかえる事ができるんじゃないかの」
ミト師は、アルパッサを見た。
「アルパッサよ。今日、ワシら二人でソラ様に会った時、ワシが申し出たのを聞いておったろう? そして、ソラ様の了承を得た」
『プラム様には、司祭の道具をお使いになる資質があった様子。じゃからワシはプラム様も、弟子としてお迎えしたいと思っておりますのじゃ』
確かに、師匠はソラ様にプラム様の事を申し出た。そして、ソラ様は、顔をしかめながら、首を傾げるように、それでも了承した。
それは、きっと何もできないと思っているからなのだろうと、アルパッサは思ったのだけれど。
ミト師は続ける。
「そう、プラム様を、ワシの弟子にする。プラム様にお話しして、否定されなければ成立じゃ」
ミト師はウィンクしてみせた。
「アルパッサよ。プラム様は、お前の弟分になるんじゃよ。弟の面倒を見て差し上げるんじゃよ」




