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050.師弟の会話

リックデンは、全ての文通相手と、交流が途切れることが一切無かった。

普段の言動からは想像できなかったが、リックデンはこの文通において非常に筆まめだった。かつ、相手から常に返事が来るということは、相手も交流を楽しみにし続けられるほど、内容が楽しかったようだ。

リックデンの文通相手は、しばしばパンデフラデを訪れ、リックデンと会って遊んだ。


そして、成長とともに、リックデンは大陸中に素晴らしいネットワークを持つことになった。

騎馬技術の優れる町、機械技術の優れる町、科学技術の優れる町、芸術の盛んな町、学術の盛んな町・・・。

成長とともに、彼らは、お互い身に付けた技術を披露しあい、高めあい、助けあう関係となった。必要ならば、物資を送り、必要ならば、可能な限り駆けつける。


ミトが教会の修復の時に、技術が足りなくて大変困っているのを知って、リックデンが友達を呼べるかもしれないと申し出た。

そして結果、リックデンの頼みのために、わざわざ遠方の東の町から、騎馬に乗って友人が駆け付けた。


ミトは感嘆した。

あの文通が今もなお生きていることに。リックデンが太く育てた友情に。そして、身に付けた技術とともに示される、子どもたちの成長に。


ミトは、それ以来、時折リックデンに教会として頼みごとをする事になった。

そして、文通とは別ルートで独自のネットワークを作り上げていたコテッツアとを含めて、彼らを面白がってこう呼んだ。

教会を助け活躍する子どもたち、『教会子ども隊』。


リックデンとコテッツアは、喜んでこう訂正した。『ミト様子ども隊』

ミト様のために活躍する子ども隊。

二人とも、優しい兄のようなミトが大好きだったので。


今。リックデンは、子ども時代からの信頼と友情で繋がっている友人たちを思い浮かべた。

何か、彼らの助力を得る必要がある事が、起こるというのだろうか・・・?

何か困ったことが起こらないと良いんだが。


やはり子ども時代からの付き合いのコテッツァの性格と、意味不明ながら未来を当ててしまうようなところがある事も、リックデンは知っているのだから。


***


もしゃもしゃ、ごにゅん。

ミト師はリンゴを飲み込んで言った。

「水が欲しいのぅ・・・・」

「どうぞ」

アルパッサが傍の水差しからコップに水を注ぎ、差しだす。


「うむ、ありがとう、アルパッサ」

水を口に含むようにゆるゆると飲んで、一旦コップをアルパッサに返したあと、ふー、と、ミト師は体から力を抜いた。

「知っておるか。この歳になるとのぅ、気をつけんと、気管に食べ物が入るんじゃよ」

「そうなんですね・・・」


「か弱い老人から、一言、若者にモノ申して置くかのう・・・」

「・・・なんですか?」

まるで演技のような弱々しさで話すので、アルパッサは軽く警戒した。


「人生なんての、たった一度きりじゃぞ。なんだかんだ言ってもな、そりゃ、色んな兼ね合いで、妥協して選んだり進んだりすることも多いもんよ」

「・・・はぁ・・・」

なんだ、真面目な話だった。意表をつかれて、アルパッサはちょっと間の抜けた相槌を打った。


「だからの、アルパッサ。人からどう思われるかなんて事で、自分の本当にしたい事や言いたいことを変えんでも良いんじゃ。勿体なかろう。そうでなくてもな、選びたくても選べない事はあるもんじゃ。だからこそ、自分の心持ちで選べる事は、自分の心に素直に沿ったものを選べ」

「・・・」


「あ、でも、司祭の座は譲るからそこは宜しくの。まぁ、ワシが死んだら」

「縁起の無いこと言わないでください! まだ人生これからですよ、師匠!」


ミト師は笑った。

「これからか? 長く生き過ぎておる」


「もっとお歳を召した方で元気な方居られるじゃないですか! 図書館のマーゼさんとか!」

「あぁ、マーゼか。あの人はー元気じゃのー。さすが我らがマドンナじゃのー」

マーゼはミト師の世代より上の方だが、どうやらミト師世代の憧れの人だったようだ。


「師匠だって、まだ死なないんでしょう? 朝に自分で言ったじゃないですか! やる事があるからまだ死ねないって!」

「あぁ、まだ死なんよ。でもまぁ、聞いておけ」


「・・・」

不服だがアルパッサは黙った。

師匠が居なくなるなど不吉すぎる。認めない。

が、人はいつか死ぬ。そして、師匠は、もう随分と若くはない。

自分がいくら師匠の死を否定しつづけても、いつかは居なくなる時が来る。


「もし、ワシが居なくて困る事があったらの。司祭の仕事について分からない事があったらの。知っておるかの、ワシには、むかーしむかし、ワシの元から出て行ったヤツがおるんじゃが、そいつを頼ってみると良かろう。出て行ったが、この町の司祭見習いとして学んでおるからの、内情も他の司祭より分かってくれるじゃろうし、助けてくれるじゃろうよ。そういうヤツじゃからの。名前は、セトロと言う」


アルパッサが応えた。

「ハグイト領のウツパットーン司祭の元にいったという方ですね」

「なんじゃ、そこまで知っとるのか」


「いえ、先ほど、先代の日記を・・・・それで、記憶いたしました」

アルパッサの記憶力は並ではない。

「あぁ。なるほどの」


アルパッサが無言で鍵をミト師に返すのを、ミト師は静かに受け取った。

「ちゃんと読めたか」

読めたかとは、先代の日記の事だ。

アルパッサは、うつむいた。

「・・・師匠・・・あの・・・、失敗、しました」


「何をじゃ!?」

「マーゼさんに、見つかりました・・・・」


おおぅ、と、ミト師は天を仰いだ。

「あの人はさすがじゃのぅ」

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