049.リックデン
「・・・ミト師。毎日、抜け出してましたね・・・。リックデンから聞きましたよ!」
「アルパッサよ。ワシが、そんな事をするわけがなかろう」
「そうですよねー、毎日じゃないですもんねー」
「あぁ。ちょっと年を取っただけで、老人をいじめる嘆かわしい世の中になったもんじゃのぅ・・・」
「リンゴ、食べます?」
「おぉ、ありがとう、くれくれ」
「・・・(ため息)」
「ふぉ、お、ふぉれほ ほうほ あるほっほ」
「師匠、食べながら話さないで下さい。何いってんのか分かりません」
「・・・ぅむ、それはそうと、アルパッサ」
「口に入れたものを出さないで下さいよ!!!」
「ミト様・・・さすがにそれは・・・」
「まったく、ああ言えばこう言いおって・・・もうむむうむ」
「そんなことして、司教として恥ずかしくないんですか!!」
「ほぅふ・・・そんなこと言ってもな、アルパッサ」
「出さずに!! 食べ終わって話してください!!」
ミト師は食べかけのリンゴを手に出したままで言った。
「・・・コテッツァよ。頼みがある」
「はい。ミト様?」
「リンゴ、すりおろしてきてくれまいか。固くてのぅ・・・」
「まぁ。・・・かしこまりました」
コテッツァは随分と薄く切ったのだが、ミト師にはまだ固いようだ。それで、何度も口から出したり入れたりしていたのだ。
頭を下げてコテッツァが残ったリンゴを持って立ち上がる。
「アルパッサ。頼みがある」
「はい、なんですか?」
「ハンカチかタオルをとってくれまいか。手がベタベタでのぅ・・・」
それはそうだろう。
「かしこまりました。・・・今お持ちのは、擦り下ろさなくても良いのですか?」
「うむ・・・このベタベタになってるのをコテッツァに渡せまい。渡すと捨ててしまいかねんしそれはイカン。いつもはゆっくり食べるから良いんじゃが、話もしたいしのー」
「ゆっくり待ちますので、安心してゆっくり召し上がってくださいよ」
「んー ほぅふほ。ほうほう、あるほっほ ほ」
「・・・何です?」
「ほふほほむひゃほ、おひゃほほ・・・」
「ゆっくり待ちますから!」
ミト師はもぐもぐ食べ出した。
***
リンゴを持って調理場へ向かう途中で、コテッツアはリックデンに廊下で会った。
「おぉ、良いもの持ってるじゃないか!」
リックデンは、コテッツアの持っている、スライスされたリンゴを勝手につまみあげて、口に放り込んだ。
「・・・リックデン・・・。ミト様のリンゴなんだけど・・・」
「い? そうか? そんな、こんな薄いの一切れでバレるわけないだろ!」
リックデンは、イヒヒ、と笑った。
「んー・・・まあ、そうだけど・・・」
「薄すぎて食べた気がしない! もうちょっとくれ!」
「ええぇ・・・あー・・・」
コテッツアは真面目に手の中のリンゴの量を見詰めて困惑した。リンゴ四分の一個分、スライスした分全て食べられてしまった。
「ちょっと・・・食べすぎ・・・」
「コテッツアは真面目だなぁ。面白味が無いよ。だから嫁にいけねーんだ」
嬉しそうにイヒヒと笑う。単純に面白がっているのだ。
おっとりコテッツアはムっとした。
あなたみたいな人をずっと見てると、私は幻滅してしまうのよ、男って結局こういう生き物なんだと思っちゃう。
コテッツアはコテッツアなりの反撃に出ることにした。
「リックデン、あなた、ミト様が仕事を依頼しても、動けるの?」
リックデンは突然の話題転換にうろたえた。
「へ!? 何だ、仕事だ!? 何の!?」
「知らなーい」
「なんだよ、何!? あのジィさん、何かやるの!? マジかよ聞いてないぞ俺!」
うろたえるのを見て、コテッツアは溜飲を下げた。
が、
「なんだよ、何言ってた、あのジィさん!」
リックデンはしつこく上から食いつくように迫ってきて、今度はそれにイラっとした。
あぁ、言うんじゃなかった・・・こんな風に後でまた面倒くさくなるの分かってるのに・・・。
迫力に負けるように、コテッツアは自分の考える事態を説明した。
「分からないけどー・・・でもね、なんだかふと思ったの」
コテッツアにはどうしてだか、明確に誰かが言ったわけでもないのに、何かがなんとなくわかることがしばしばある。
だからこそ、例えば仕事においても、のんびりとしていながら、しかし手際よくこなせるのだ。
コテッツアのそんな特質を、幼馴染のリックデンは当然知っている。
「ほらー・・・、『ミト様子ども隊』」
「あ? あぁ、ああ、あれ、良かったよなぁ、俺の輝ける時代の一つだ!」
リックデンは目を生き生きと輝かせて、両手をひらげて何かを迎えるような仕草をした。
もう20数年以上前、2人が10歳前後の頃だ。
まだ司祭見習いだったミトの案で、この年代の子どもたちは、色んな町の子どもと手紙をやりとりをし始めた。
パンデフラデは年中観光客が絶えない町だ。その中には子ども連れの家族もある。
ミトの見守る中、皆それぞれに子ども同士、声をかけて文通相手を作った。
その時、子どもたちのリーダーとなり活動の中心を担ったのが、リックデンとコテッツアだ。
代表としてミトに礼儀や文通の仕方などを教えてもらって、皆に伝えた。
なお、文通の費用は、ミトが発案ということもあり、半分を教会が持ってくれた。とはいえ、教会が半分を出資しなくても、パンデフラデは観光業のために裕福な町だから、子どもたちの交流を喜びこそすれ、発生する費用に苦情を言う親はいなかっただろう。
文通での交流は、子どもによって、さまざまに発展した。
自分の町の工芸品や特産品を贈りあったりしたし、文通相手に再び会いに旅行に出た者もいる。
もちろん中には、熱が冷めて、やり取りの回数が減り、交流が消滅してしまう相手や、文通全てをやめてしまった者もいる。
そして、この活動において最も異彩を放ったのがリックデンだった。




