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048.おっとりコテッツァ

花の都パンデフラデ。


「あら? アルパッサ」

師匠の部屋へ向かうアルパッサに、館の世話人の一人、コテッツァが声をかけた。

コテッツァはアルパッサよりは二周りは年上の、ゆったり、おっとりした言動をする女性だ。いつものんびりしているくせに、なぜか仕事は的確にすませていて、アルパッサは今でも時々面食らう。


おっとりコテッツアは、アルパッサがミト師の元へ向かっているのを様子で察したらしい。

「ミト様は、今、眠っておいでよ?」

「え」

「なんだか、ひどくお疲れのようだったわぁ・・・」

トローン、とした口調だったが、アルパッサはその内容にブルっと震えた。


寝たきりだったのに急に動いたから体に負担が!?


ダッ! っと、アルパッサは、走ってはならない廊下を思いっきり駆け出した。

取り残されたコテッツァは「まぁまぁ・・・」と少し不思議そうに、しかしさして気にも留めない風に呟いたが、アルパッサの耳にもう届くはずはない。


ダダダダダダダ!!


ガチャ!! ・・・ガチャ! ガチャ! ガチャ!


「開かないっ!! 何だっ!? 鍵ッ!? 鍵!!」

珍しい事に、鍵がかかっていた。


アルパッサは、自らの着衣であるダブダブの司祭見習いの衣服を上から下までバババっと手で押さえ、左手袂口に右手を突っ込み、いくつかの鍵をまとめてあるものを取り出した。


「えぇーいぃ!!」

たった5・6本の鍵なのに、全てが似ていてどの鍵かすぐ判断できない。

闇雲に鍵穴に突っ込んでみては、ガチャガチャとドアノブを回し開こうとするが、開かない。


ガチャガチャガチャ!!


と、その時だ。


ゴン☆ (ガン!) (ガッチャン!)


アルパッサは、脳天に衝撃を受けた。その勢いで額はドアにぶつけ、鍵の束は取り落とす。

「なっ・・・、だっ・・・!!!」

両手で頭を押さえて振り返ると、館の世話人の一人、リックデンが真顔でアルパッサを見下ろしていた。

二周り年上の、力コブ自慢の男性だ。明らかにアルパッサに脳天チョップを食らわせたくせに、『お前、一人で何やってんだ』という表情をしている。


「リック、デンー!! 何すんだー!!」

脳天と額の衝撃に、不覚にもアルパッサの両目には涙が滲んでいた。


「大げさなヤツだなー。そんなに痛いわけないだろー、おっ、演技か!? やるなぁ、アルパッサ!」

「こっ・・・!! 痛いに決まってるでしょうがっ!! 何なんですか!!」

一応、口調を目上の人用に丁寧に直しつつ、アルパッサはリックデンを睨んだ。


「アルパッサこそ、何やってんだ? ドア壊す気か?」

「違いますよ! ミト師に会おうとー・・・!!」

アルパッサが言うな否や、リックデンが、ガンガン、と、ミト師の部屋のドアを叩いた。

「ミト様ー!! ミト様ー!! アルパッサが来ましたよー!!!」

それからリックデンは、扉に耳をつけて部屋の様子を伺いながら、アルパッサにこう言った。

「気配が無いぞ。また、抜け出してどっか行ってんじゃねーか、あのジィさん」


アルパッサは眉をしかめてリックデンを見上げた。

「・・・『また』・・・『抜け出す』・・・?」

「あれ? おぉ!? いー? 知らなかったか、アルパッサ?」

リックデンの顔がパァっとにやけた。人が知らないことを自分が知っている事に喜びを感じる性格なのだ。


アルパッサは不愉快そうに頷いた。


「いつも、このぐらいの時間は、泉の傍で見かけるぞ~。リスにエサやったりな、木の間に作ったブランコで遊んでらっしゃるぞ」

「マジですか」

「マジだ」


「くそぉ」

だまされた感を味わいつつ、アルパッサは、ようやく床に落ちた鍵の束を拾いあげ、先ほどより冷静に鍵を当てていった。2本目で開いた。


キィ


引き開いたドアから、アルパッサと、そして、リックデンもが部屋の中をうかがうと・・・。

司教でありアルパッサの師匠であるミト師は、スゥスゥとベッドの上でお利口に眠っておられるところだった。


「・・・」

アルパッサは無言でリックデンを見上げたが、リックデンは一瞬気まずい表情を見せたものの、あっという間に真面目そうで何を考えているか分からない表情を作って、何も言わずに立ち去っていってしまった。


「・・・」

いや、謝れよ。と思いつつ、いやしかし。

アルパッサは、無言で師匠の部屋に入り、ドアを静かに閉めた。


スゥスゥと寝息を立てておられるが、本当に寝ているとは限らないのがこのお方だ。

だから、アルパッサは口に出して呟いてみた。

「ミト師・・・。本当に、いつも抜け出してたんですね・・・」


ス・・・ピー・・・!!

起きてるのかわざとなのかそれとも本当の寝息なのか分からない寝息をミト師はしていた。


アルパッサはため息をつきつつ、ベッドの傍に椅子を持ってきて、腰掛けて師匠が起きるのを待つことにした。

師匠の寝顔を見つめながら思った。


師匠、本当に、年なんだから、無理しないでくださいね・・・。


***


「で、本当はいつから起きてらっしゃったんですぅ?」

ニコニコと、おっとりコテッツァがアルパッサの隣、ミト師のベッドの隣でリンゴをむきながら言った。


実は扉の鍵が閉まっていたのは、コテッツァの仕業だった。本当にミト師が疲れているようだったので、静かに眠れるよう、コッテッツアァが気を利かせて鍵を閉めたのである。


しかしアルパッサが駆けていった後に心配になり-(鍵を閉めちゃったけど、ドアノブを壊さずにアルパッサはドアを開けられるのかしら?)-コテッツァもミト師の部屋にリンゴ持参で来た。

なお、その時ミト師はまだ寝息を立てていたが、コテッツァがほっぺたをつつくとムニャムニャと起きたのである。

コテッツァはにっこり笑んだが、アルパッサは正直若干天を仰いだ。


「今起きたに決まっておろう」

どこか皆に神の言葉を伝えるような厳かな口調で、ミト師が答えた。

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