表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

45/394

045.小箱と手紙

イシュデン。

食堂で食事を終えたアトは、今、父からの手紙と小箱を開けようとしていた。

ずっと気になっていたのだが、まず義手がなくて開けられなかったのだ。メチルが義手を取りに行ってくれた間に、マチルダさんが来て食卓を整えてくれ、お腹も減ったから、先に食べる事にしたのだ。


そして今。片付けの邪魔にならないように隣の談話室に移ったアトは、床の上にクッションを置いてあぐらをかいて座りこんで少し考えた。


手紙と小箱。どちらを先にあけようか。

小箱からの方が、すぐに手紙も開けられそうだ。うん、先に小箱から開けよう。


小箱には、簡単な留め金がついている。ひっかけて前に倒せば外れるタイプで、アトは容易に留め金を外した。

きちんと蓋をあけるのが面倒くさかったので、両足で箱を固定し、義手で押し開けた。

開けた瞬間、フワリと木の匂いがした。


「・・・」


中に入っていたのは、木彫りのようだ。

なんだろう、丸く彫られている・・・? 香りからして、ひどく最近作られたものだろう。


このままでは全体が分からないので、座っているクッションの上で箱をひっくりかえした。中身を落として取り出してみると、それは小さな木彫りの、胸像だった。丸く見えたのは、頭部の部分を上から見たからだ。


アトはそれを見つめた。

とてもキレイに彫られていた。どこか頼りなさげな表情の・・・男の子にも見えるが、女の子にも見える。誰の姿だろう?


義手の指を固定してから、持ち上げて見つめてみる。

「・・・」

もしかして、居なくなった、商人の子だろうか。

誰が彫ったんだろう。


昨日、広場で遠くにチラっと見たその子の顔を思い出そうとしたが、昨日みた時は遠くて暗くて、表情もよく分かっていない。

とはいえ、こういう顔をしていたのかもしれない。


もう一度見つめる。とても淋しそうな顔にしている。

なんだか、どこかへ消えてしまいそうな表情で、アトは胸にため息がつまるような気持ちがした。

こんな表情をして、実際、どこかへ消えてしまったんだろうか。


アトは一旦その胸像を床に置いて、今度は手紙を開けることにした。

簡単に開くように配慮して留めてある封を開ける。


父からの手紙だ。


***


息子 アトロスへ


突然色々あって驚き疲れているだろうと思う。まず休んで体力を戻すように努めなさい。


その上でアトロスに頼む事がある。行方不明の来客のことだ。

イシュデンの中を皆で探すが、恐らくは領地内にはいないだろう。

アトロスが探しに行く場所に、居る可能性が最も高い。


アトロスはあまり物事に動じない性格だが、さすがに混乱してはいないだろうか。

アトロスは昨日は運命の日であり、そして母にも会い、そして、変わった場所に行き、戻ってきた。

なお、父の私情だが、アトロスが戻ってきて安堵した。


あの場所について、色々と父に聞きたいと思っていることだろう。

いずれ話すことがあるだろうが、まず今、アトロスに頼みたい事は、行方不明の子どもを探し出す事だ。


世の中は、見えるものだけで作られているのではない。見えないものからも作られている。

その一つが、アトロスが昨日、今日の早朝に行ってきた場所だ。


いつもより少し早く、夕食のために食堂に来なさい。

食堂でなく、2階の運搬室で待っていなさい。


そこから母の部屋に連れて行くから、アトロスには、また昨日の場所に行って、探してもらいたい。

そのためにも、それまでに体を休めておきなさい。


この手紙と共に、アトロスには小箱を渡す。

箱の中には、探す子の姿を映した像が入っている。

クリスティンが彫った像だ。客人が言うには、生き写しとの事だ。その像を頼りに探しなさい。


それから、あの場所では名前が、我々が思う以上に特別な力を持っているそうだ。


行方不明の子どもの名前は、イシュデンでは「ダロン」としていたようだが、本当は

「ツォルセティーナ」という名前だ。

外の町では、豊穣の娘、という意味の、よく愛されて使われる名前だ。


アトロスと同じぐらいの年齢の女の子だ。背はアトロスよりやや低いかもしれず、ほぼ同じぐらいのようだ。


では、夕食前に、運搬室に。


父 イシュデン=トータロス=イングス

 

***


アトは手紙を読み終わって、まず、こう思った。


ツォルセティーナ。

なんて、変わった名前なんだろう。

初めて聞く名前だ。それなのに、外の町では、普通に使われている名前みたいだ。


そういえば、とアトは思った。

物知り博士のオクロドウさんも、変わった名前だなと思ったんだった。

でも、外の町では普通の名前なのかもしれない。


オクロドウさんは、町の外から、『霧の研究がしたい』といってやってきた女性だ。もう5・6年は経つ。

見た目がちょっと変わっていて、暗いグレーのドレスのような服を何着も持っていて、いつもそれを着ている。

やせていて背が高く、大きな黒ブチの丸メガネをかけている。

ちなみに、背は父より高い。居城ではデルボが一番背が高いが、次がオクロドウさんだ。


年齢については、暗い服の印象のせいで、アトにはさっぱり分からない。父と同じぐらいのような気もするし、しかし実は結構若くて20代ぐらいなのかもしれない。

しかし、女性の年齢をたしかめるようなことをしてはいけないらしい。


色の明るいドレスをきて、メガネを変えたら美人なのじゃないかなぁ、と、学校の皆に言ったことがある。が、霧の研究が本当に好きらしく、オクロドウさんの部屋となった『霧の観察部屋』から、さっぱり外に出てこないので、居城に暮らすアトはまだしも、町の皆はさっぱりオクロドウさんの顔を拝んだ事がないのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ