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044.第五世界

「あのさぁ・・・」

片腕だけひっぱられて宙に浮きながら、セフィリアオンデスはトートセンクに頼んでいた。

「取引とかじゃなくって、単に、オネガイ言わせてよ。迷子が居たら、そのコにさ、『クリスティンが心配してるよ、早く帰りなよ』って言ってやってよ」


トートセンクは、首をかしげたが、なぜかフと笑った。

「お前に言われずとも、私はそう告げるだろう。セフィリアオンデス。お前も、自分の世界に戻るがいい」


・・・そうだね。


トートセンクは知らない。

自分は、第三世界の住人たちとは事情が違う。確かに自分は別世界から来たが、この体はこの世界で生み出されたのだ。


ふと心配になった。


自分のエネルギーが尽きるとき。体は第五世界に置いていくことになるだろう。

一人残された有翼人種にとって、自分のヌケガラが、より孤独を感じさせるものにならなければよいが。


いやまぁ、でも、大丈夫そうな気もするケド・・・。

ヌケガラが1つ、増えるだけだもんな・・・。


「・・・」

私もどこか麻痺してない、コレ? とセフィリアオンデスは思った。


セフィリアオンデスの左腕をつかんでぶらさげたまま、トートセンクが羽ばたき、スミカの壁を抜けた。入ってきたときと同じように、全身にガスの層を抜けるような圧迫がかかる。


スミカの外。白い大地。


トートセンクがセフィリアオンデスを大地に置く。

降ろしてもらったことに、セフィリアオンデスの口をお礼の言葉がつく。

「あ、ども・・・」


トートセンクは、一瞥だけして、もう何も応えず身を翻した。ふわと宙に舞い、スミカへと帰っていった。

残されたセフィリアオンデスは、白いふわふわとしたスミカの壁をぼんやりと見上げた。


アンタの世界の枠、なんか、相当、強固そうだよ・・・。


珍しく弱気になっていた。


***


第五世界というのは、セフィリアオンデスの世界が勝手に命名した。第五世界の住人は、『第五』なんて呼ばれているとは知りもしないだろう。


なぜ『第五』か。

単純に、セフィリアオンデスたちの世界が発見した順番だ。


***


セフィリアオデスの世界は、鉱石に満ち溢れている。

美しい赤茶色の空。煌めく大地。満ち溢れる大地のエネルギー。素晴らしく完璧な世界。


しかし、そのうち学問として『世界は一つではない』という考え方が持ち上がる。


 +++

 自分たちの世界を鉱石世界と呼ぶとして、反対の状態にある世界があるに違いない。

 なぜなら、この世界は『片方』であると思われるからだ。

 この世界のエネルギーは全て右向きの響きを持っている。なぜ、左はないのか?

 それは、鉱石が、同じものが集まり結晶として大きく育つのと同じ。

 右も左もある中で、右のものだけが集まったのが、この世界なのだ。

 ゆえに、もう片方、左だけの世界もあるはずだ。

 +++


その考え方は、セフィリアオンデスの世界の常識となる。


 +++

 自分たちの世界と、対世界。この二つがそろって一つ。

 +++


そして時代が流れ、また新しい考え方が持ち上がる。


 +++

 自分たちの世界と、対世界。その他にも、世界と対世界のセットがあるはずだ。

 +++


なぜなら、自分たちの世界が発したものでない響きが確かに存在していると分かったから。

対世界からではない。対世界は、真逆な世界で、音も決して伝わってこないと考えられている。

つまり、伝わってきているなら、また別の世界から。


結果として、本当に新しい世界が発見された。

三つ目の世界になるから『第三』世界と名付けられた。

そこも鉱石が溢れていると分かった。世界を超えて、鉱石同士が響きの一部を共有して伝えあっていた。

なお、第三世界にもあるはずの対世界を『第四』世界と呼ぶ。


新しい世界から、明瞭に伝わってくる事柄は少ないけれど、世界が他にもあるということは喜ばしく楽しいことだった。

そして、第三世界の発見は、皆にこう思わせた。


 +++

 世界はもっと多く存在しているに違いない。

 我々が知りえるのは、ほんの一部に過ぎないのだろう。

 +++


新しい世界の発見を夢見て、研究するものも多く生まれた。

そして、『第五』世界が見つかった。なお、対世界を『第六』世界と呼ぶ。


第五世界は、額の耳でのみ聞きとれる音を出していた。鉱石世界の住人には、聞こえる範囲が異なる耳が5つある。

発見時、皆は、一生懸命に額の耳を凝らした。稀にしか聞こえないけれど、本当に小さい響きが確かに聞こえた。


ある時、誰かが言いだした。

第五世界から、火花が散るようなキンキン高い騒がしい音が聞こえる、と。

確かに多くの者がそれ聴いた。


ところが、ある時を境に、ぱったり聞こえなくなる。

心配した者たちは、ずっと耳を傾け続けた。


傾け続け、傾け続け-・・・


長い歳月の後、また誰かが言い出した。

第五世界から、助けを求める、響きがすると。


***


セフィリアオンデスは、座り込んでいた。眼下の景色をじっと見つめる。

ここは、第五世界の鉱石の王からの知識を元にして移動した、スミカから離れたところにある、重要な場所。


トートセンク。アンタ、取り残されちゃったんだね・・・。


眼下に、たくさんの白い塊が立ち並んでいる。大きいのから、小さいの。

大きいのは、山のよう。

小さいのは、背中に羽をつけている。

全てが、見事な彫刻のようだ。


第五世界には、ここと、あのスミカ、そして、一番初めに自分が顔を出し、第三世界の人間も現れたあの場所の、大きく3つぐらいの場所しか存在していない。


異様に小さいこの世界。その端っこの、ここ。


セフィリアオンデスは、腰かけて、ブラブラと足を動かした。

少し高い、見晴らしの良い所から、群れを眺める。


セフィリアオンデスは、小さく歌を歌った。

鉱石世界の皆はよく歌う。第五世界では初めて歌う。


セフィリアオンデスは、歌を歌った。

他にできることが、わからなかった。

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