043.女の子を見た
こう言ってやるのは、酷だろうか? 置かれた立場を分かっていないのだろうか?
トートセンク。己の世界の枠を広げてごらんよ。
アンタと姿かたちが違っても、生きてるものはたくさんいるよ。
それとも、今まで気にしなかったものを友人と認めるってことは、今までのアンタの世界を否定しちゃうことになるのかな。
でも見てごらん。アンタが追い出そうとしても、この世界には私や第三世界からも誰かが迷い込んできたりする。この世界、アンタが思ってるよりも、全体のたった一つでしかないんだよ・・・。
別にさ、他を見なくて過ごす生き方だってある。
でも、気付いて、目を向けても、良いんじゃないかな・・・。
アンタは、今、それをしても良いんじゃないかな・・・。
「どーしたモンかねぇ・・・」
セフィリアオンデスはつぶやいた。
とりあえずは、このスミカから出た方が良いだろうか?
ここの床は、ちょっとしたキッカケで、自分を『浄化装置』へ落としてしまうに違いない。
第五世界に生きる者として第五世界に生み出されたこの体だが、有翼人種の体とは異なるため、床が反応してしまうのだろう。
「・・・あれ。そういや、女の子見たね・・・」
セフィリアオンデスは思い出した。
床の下、溺れているときに、少女を見た・・・あれも幻だったのだろうか?
トートセンクに聞いてみるか?
いや、鉱石の王から得た知識から考えると、床の下の世界は、また別の世界に繋がっている。恐らくトートセンクに尋ねても答えは返ってこないだろう。
とはいえ、せっかくの交流ネタだ。聞いてしまえ。
「トートセンクー! ちょっとさ、聞きたいことあるんだけどー! トートセンクー!!」
うるさすぎて無視できないほどに、セフィリアオンデスは連呼することにした。
***
「そんな者は、知らん」
トートセンクが、実に不快気に、セフィリアオンデスの目の前にいる。
セフィリアオンデスが超大音量で連呼しまくった結果、とうとう再び現れたのだ。
「あのさ、もう一度見てきたいんだけど、どうせまた延々と落下と浮上を繰り返すハメになるだろうし。一度浮上してきたら、またこの柱の上に運んでくれない?」
セフィリアオンデスの発言に、トートセンクは不快気に首をかしげた。
どうして自分がそんなことに手を貸さないといけないのだ、と思っているとみた。
「一度で良いからさ!」
トートセンクは、ジィとセフィリアオンデスを疑わしげに見つめている。
「クリスティンが、探してるコ。あんたにも探してもらう、って、言ったよね!? 言った、言った!」
そうだった。茶を飲んで終わりではなかった。クリスティンが探しているコを探すことも、約束させていた。
我ながら非常に素晴らしい取引をしたものだ。
トートセンクが、眉をひそめてから、忌々しそうにため息をついた。
「一度。それで、全ての契約は終了する。それで良いな」
セフィリアオンデスは肩をすくめた。
「なんでよ。たった一度の人探しで、あの取引条件が完了するって思ってんの?」
トートセンクは冷やかにセフィリアオンデスを見やった。
「恥を知れ」
「は。何言ってんの」
「お前の要求は、尽きることが無い。限度というものを知らない」
ムカっと腹が立った。
「ざけんな、トートセンク。アンタ、取引条件、飲んだだろ!? それで良いって言っただろうが! しかも、人探しだってのに!」
トートセンクは動じず、ただ冷ややかにセフィリアオンデスを正面から見詰めている。
コイツ、自分の論が正しいことを疑おうともしないヤツだ。と、セフィリアオンデスは思った。
自分の価値観が正しく、その他以外は切り捨てる。世界がクソ狭いことこの上ない。
「トートセンク、この どアホ!!」
ちなみにセフィリアオンデス自身は、すぐ頭に血が昇るのが欠点だとは気付いていない。
キィー! とセフィリアオンデスはいきり立った。
「アンタに頼らない、良いよ、一人で見てくるさ!」
セフィリアオンデスは、そのまま鉱石の王の頂からとび跳ねた。床に身を投げる。
ベシィ!!
セフィリアオンデスは全身床に直撃した。
「ぅ!!」
トートセンクがため息をつく。救いようのないバカかなにかだと思ってのため息に違いない。
なんで床のままなんだ、この床ー!!
セフィリアオンデスがキィ、と床に怒りをぶつけたとき。
床がそれを感知してセフィリアオンデスを下に落とした。
ざっぱん。
***
セフィリアオンデスは、落下した。
とたん、冷たさが全身をつつみこみ、床に直撃した痛みが、冷たさに塗り替えられる。痛いのより寒い方がセフィリアオンデスにとってはマシだ。
セフィリアオンデスは目をしっかり開けて、水中を見た。
暗い。薄暗い。周りを見回す。
何も見えない。
あのコはどこだ? もうここには居ないのだろうか。
両手両足で、もがくように動いてみる。
いないのか・・・?
「おー・・・いー・・・」
ガボッっと冷たい塊をまた飲み込む。
クルシイ デモ ・・・
グィと、左腕を、持ち上げられた。はっとセフィリアオンデスが上を見る。
淡々とした表情で、トートセンクが翼を広げて空中に浮いていた。
「居たのか」
はぁ、と、セフィリアオンデスは呼吸した。
「ぃや、居なかった。・・・ありがと、トートセンク」
なんだかんだ言いながら、自分の体が再び床に現れた後、トートセンクが左腕を掴んで床から持ち上げてくれたのだ。
「一度。これで終わりだ」
トートセンクは淡々と告げた。
「・・・そうだね」
セフィリアオンデスの体から、力が抜けた。
やはり、自分が見たのは幻だったのだろうか。何十回と落ちて、たった一度しか見なかったし。それに、トートセンクの協力なしでは、あの水の世界の探索は不可能だ。




