042.トートセンク
あ゛あ!? アンタ、ゲストにその扱い方はどうなの!?
セフィリアオンデスは、荒い動きに苛立ちを感じたが、相手は一向に気にした様子はない。グィ、と光るものを差しだしてきた。
「飲め。『茶』だ」
・・・。
とにかく、差しだされたものは飲もう、とセフィリアオンデスは思った。
その光るものを持とうとした。しかし力が入らない。
有翼人種はじっとただ待っている。
ようやく手にすると、セフィリアオンデスの両手の中で、淡い光が宙に浮かんでいた。
「これ・・・何?」
「お前が所望しただろう。我々が口にするエネルギーだ」
なるほど。
「どう飲んだら良いワケ・・・?」
有翼人種が、バカかお前、と、表情で語った。
「そのまま、いただけば良い」
・・・。
不親切に文句を言いたいが、今、セフィリアオンデスには余力が無かった。良く分からないなりに、『茶』として出てきたからには、口から飲んでみよう。
光に、顔を近づけ、唇を当てる。
ホワ・・・
「!」
すっと、体にエネルギーが流れてくるのが分かった。
光そのものが意志を持っていて、セフィリアオンデスに力を与えようとしてくれているような、親しみやすい感覚が通り、新しい力で体が満たされていく。
空になった両手を、セフィリアオンデスが驚きをもって見つめている中、有翼人種トートセンクは、支えていた左手をセフィリアオンデスの首根っこから外した。
そして、立ち上がる。
その動きにセフィリアオンデスが顔を上げ、トートセンクを見上げた。
トートセンクは、背中の羽で宙に浮かんだ。
「立ち去れ、セフィリアオンデス」
セフィリアオンデスは不覚にもキョトンとしてしまった。
「お前との取引・・・青い宝石との交換条件は、これですべて満たした。立ち去れ、セフィリアオンデス」
そうだった。
セフィリアオンデスは、思い出した。
そうだ。茶を飲ませろと言った。そこで終わりだ。
だが、まさかこんな茶の振舞われ方をするとは予想しなかった。
もうちょっと、なんというか・・・。
ここまで来たのに、こんな状態で終われない。
さきほど幻を見たことで、余計に、自分がここに来た意味と果たすべき目的を強く意識した。
「待ちなさい、アンタ!」
茶は、想像以上にセフィリアオンデスの体に活力を取り戻させていた。
ゆるゆる立ち上がって、セフィリアオンデスは、すでに自分を見ながらも上に移動中の有翼人種を睨むように見つめる。
「聞きたいんだけど! アンタ、名前なんて言うの!?」
ちなみに、セフィリアオンデスの方は、有翼人種に会ったそうそう、自分から名乗ってやっている。
挑むように名前を聞かれた有翼人種は、不快そうに迷惑そうに顔をしかめた。
そのまま、立ち去ろうと身をひるがえしかけて、動きが止まる。
もう随分と上空から、セフィリアオンデスに顔だけを向けてこう言った。
「スミカが正しく機能していると分かった礼として、我が名を伝えよう。我が名はトートセンク」
トートセンク。
セフィリアオンデスが見上げる中、名前を告げたのを最後、有翼人種トートセンクは、今度こそ身をひるがえして、このスミカの上方へとその背中の翼で渡っていった。
***
トートセンクか・・・。トートセンクめ・・・。
残されて、セフィリアオンデスは、がっくりときていた。
うつむけば、自分が、『第五世界の鉱石の王』の上に居ると分かった。また床が抜けるので、ここに運ばれたのだろう。
自分の足元が『第五世界の鉱石の王』だと分かり、セフィリアオンデスはドカっと腰をおろしてあぐらをかいた。上半身を後ろに傾けて、両手も後ろにつく。
有翼人種たちのスミカの中を見回した。
白くて淡くて。とても静かで。
静かなはずだ。もう、有翼人種はトートセンク一人しかいないのだから。
大昔は、たくさんの有翼人種がここで暮らしていた。それは、この『第五世界の鉱石の王』に先ほど伝えてもらった知識だ。
翼をもつ有翼人種たちは、上から下からこのスミカに戻ってきた。『第五世界の鉱石の王』にとっても、このスミカにとっても、それは美しく楽しい光景だった。
「・・・」
自分が、もし、世界で一人になってしまったら、どういう気持ちがするかなぁ、と、ぼんやりとホールを見上げながら、セフィリアオンデスは思ってみた。
どういう気持ちがするかなぁ・・・。
寂しく、虚ろで・・・。
・・・きっと、もっと、そんなもの以上の感情を知ってしまうんだろうな・・・。
ゴロン、と、セフィリアオンデスは、第五世界の鉱石の王の上に寝転がる。うつ伏せになって、鉱石の王に話しかける。
「なんかさぁ、もー、なんていうんかさぁ・・・。でもさぁ、私も一人残されたら、『昔の仲間以外はいらない』って、思うんかな。そう思わないと、保てないんかな、自分の世界を」
タスケテクレ ミテイラレナイ
鉱石の王が、助けを求めてくるのが分かった。
「『マカセロー!』って、胸張って言いたいんだけどね」
セフィリアオンデスは、少し困って瞼を閉じた。
名前ってさ、相手に、自分のことを教えるために言うもんだよ。トートセンク。
アンタ、ただ、自分の世界がそのままであるって教えてもらえたから、その礼だって名前を私に伝えたね。
アンタの伝え方は、私の存在を認めたからって伝え方じゃなかった。
名前を教えてる時でさえ、アンタは、ただ、自分の世界のみに目を向けてる。




