表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

40/394

040.まって

白い世界で。

セフィリアオンデスは、溺れていた。


急に、床が無くなり、下に落ちたのだ。

「あ!?」

と思った時点で、ひやっと恐ろしく冷たい感覚が全身を包んだ。


実は、さっきから、落下と浮上を何度も何度も繰り返している。

そうでなくては、自分が溺れていると把握するのも難しかっただろう。


初めて床が抜けた時、よくわからないまま呼吸ができずもがいていた。

もがいていたら、またも前触れなく、ふと束縛がとけたような感覚。

息がつける。

さきほどまでいた床の上に自分は座り込んでおり、かつ、水滴が全身から滴り落ちていた。

この有翼人種のスミカ、入ったところの、この世界唯一の鉱石の柱がある場所。ずぶぬれの自分がその上にへたりこんでいたりする。


なに? 水にでも、落ちた??


茫然としていると、また床が勝手に消えて、セフィリアオンデスは落下した。そして、いつの間にか戻っている。

これの繰り返しだ。


怒る気力がでないほど疲れる。


ただ、状況は分かっていた。この世界の唯一の鉱石である『鉱石の王』から、この世界の地図と歴史を伝えてもらった後だったから。


・・・いや、それでもだ。

どうして何度も落ちなくてはならないのか。

どうして、そこにいるアイツは、嬉しそうに眺めているだけなのか。


ちなみにアイツとは、この世界の住人、背中に羽を持つ有翼人種である。


「ちょ・・・・!」

ちょっとなんとかしてよ、アンタ、ゲストにこれは失礼でしょ!

と全く言いだしもできないまま、やっと浮上したというのに、またもやセフィリアオンデスの足元の床が抜けた。


ざっぱん。


***


セフィリアオンデスは消耗しきっていた。落下と浮上がもう何十回繰り返されただろうか。もしかして百回を超えた可能性だってある。

またも冷たい感触の中に放り出され、息ができなくなり・・・。セフィリアオンデスの意識は遠のいた。



待って・・・まだ、あと、2日・・・



***


セフィリアオンデース!!


まるで5つの耳を全て防がれたような、どこかぼんやりとした遠くから、自分の名を呼ぶ声がした。

セフィリアオンデスは瞼を開ける。


あぁ、ここは・・・


どこかぼやけたような視界に、赤茶色に煌めく美しい天が見える。自分は、金も内包した水晶―ルチル水晶の大きな結晶の上に、あぐらをかいて座っていた。


「セフィリアオンデス、お帰り!」


どこかにじむような光景なのは、どうしてだろう?

仲間の姿がぼやけてよく見えない。けれど、輪郭が見えて、そこに仲間が居て、自分に向かって話しかけているのが分かる。


「長い旅をお疲れさまでした、セフィリアオンデス!」

「よくやってくれたね、セフィリアオンデス!」

「これで世界が救われたね!」

ぼんやりした仲間の手が、自分の頭をぼんやりと撫でる。


「お帰り、セフィリアオンデス!」

世界の全てが自分の帰還と、自分の達成してきた事柄を喜んでいた。


セフィリアオンデスは口を開こうとした。


待って・・・目的は、達していない・・・。待って・・・待って・・・。

まだ・・・成し遂げていない・・・。


なのに、口が動かない。


「セフィリアオンデスの勇気を皆でたたえてー!!!」

ワァ・・・と、世界中の空気が喜びに充ち溢れる。


待って・・・


言わなくては。言わないと。


そう、

そうだ。


そうだ。


そう、まだ何も。何も、果たしていない!!

あれほど長い年月準備をして、やっと果たせた機会だったのに!!


ザァっと、セフィリアオンデスの体を後悔が駆け抜けた。


何も果たさずに 戻ってしまった!!


セフィリアオンデスの脳裏に、遠い世界で何を行い、何が果たせなかったかが蘇る。


自分は、有翼人種のスミカに行き、救けを求めていた『第五世界の鉱石の王』に会うことができた。

そこで、第五世界の地図と歴史を伝えてもらった。

けれど、そこで、終わり。そこで終わりだ。


腹立たしさに襲われる。自分に対して腹が立つ。

自分のこの世界が、遠い世界に人を送り込む。それにはどれほどの長い年月が必要だったか。

遠い世界からずっと響く助けを求める声に、この世界の皆が、心を痛め、なんとか助けたいと思い- 皆が助けようと、真剣に願い、願い、願い・・・その結晶として、遠い世界にセフィリアオンデスという存在を産み落とした。


それなのに。


またこの世界が、あの遠い世界に思いを形にして送るには、また改めて長い長い年月を必要としなくてはならない。

またアイツを見つけ出し、そしてスミカへ辿り着き・・・自分と同じ道筋を、また始めから辿らなくてはならないだろう。


あそこまで、行ったのに!!


セフィリアオンデスは、悔しくて腹立たしくて涙しそうになった。


「セフィリアオンデス、バンザーイ!!!!」

「救世主ー!!!!」


待って、違うよ、皆。違うよ、まだ、助けがいるんだ! 初めから、また、送る必要があるんだよ!!

待って、待って、待って・・・!!


バンザーイ、バンザーイ・・・

ぼんやりとした声がこだまする。妙に狂ったその音に酔いそうになる。


違う あと2日はあったのに・・・

落下と浮上の繰り返しで、残る2日分のエネルギーを消耗しきってしまったのだろうか・・・


情けない


なんて、情けない


「セフィリアオンデス、バンザーイ!!」


違う、待って!

まだ終わってないんだ! 始まってないんだ!!


私の口、動け!!


セフィリアオンデスは、口を動かそうとした。ひどく動かしづらい。自分の体なのに、思うように動かない。

それでも、必死に声を出そうとした。


「ま っ て !!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ