028.スミカ
白い世界。セフィリアオンデスは、ほぼ全力で有翼人種の後を追いかけていた。
タッタッタッタッタッタッタ・・・
「あのヤロウ!!」
そこそこの上空を、まったく振り向きもせず、先に飛ぶ有翼人種に、セフィリアオンデスは走りながら悪態をついた。
「ゲストって言葉の意味、知ってる!? 知っててこの扱い!? ンキーッ!!」
青い石との引き換え条件。
それは、有翼人種のスミカへ自分をゲストとして招くこと。茶を振舞ってもらうこと。加えて、クリスティンの頼みである、ダロンって子を探すこと。
青い石は、先に手渡した。有翼人種は、石だけもらって、ハイ、サヨナラ、なんてことはしないと思ったからだ。
果たして、青い石を受け取った有翼人種は、石をじっと見つめた後・・・背中の羽根を広げてバサァっと飛び出したのだ。一切の声がけなく。
「チッ・・・まったく、ついていけるからいいけどさ! 『ついてこい』とか、なんとか、あるだろがっ!」
慈悲も気遣いも感じられない速度で飛ぶなんて! それがゲストに対してすることか!
あぁ、ついていける自分を褒めてあげたい。ま、私の移動能力、半端ないけど。
タッタッタッタ・・・
「ん?」
セフィリアオンデスは、ふと、自分が今まで踏みしめたことのない場所に入り込んだことに気がついた。
あ、そういうことか。
セフィリアオンデスはこの世界の一つの特徴を知った。
今まで自慢の脚力でこの世界を駆けまわったのに、「スミカ」に全くたどり着けなかった。絶対あるのは分かっているのに。
そして、今。
走っているこの大地は、初めて踏みこむ場所だ。それがセフィリアオンデスには分かる。
どうやら、この世界は、自分が思う以上に形がいびつだ。
今までいた場所は、例えるなら袋の内部。そして、「スミカ」は、袋の外側にある。そんな感じがする。
今までは、ただ、袋の中をぐるぐる走り回っていただけだったのに違いない。
セフィリアオンデスは、自分より大分遠くを飛ぶ有翼人種の姿を、怒りを無くした目で見た。
やはり、ちゃんとスミカへ案内しているのだ。
セフィリアオンデスは全ての耳が拾う音に耳を傾ける。
聞こえる。
自分たちの仲間、この世界唯一の鉱石が、自分を呼んでいる声が響いてくる。
セフィリアオンデスは、走りながら無意識にスゥと両眼を薄く閉じた。
長かった。ここまで辿り着くのに、これほど時間がかかるなんて。
あと3日、だ。
大丈夫。私たちの友人。この「第五世界」の鉱石の王。
あなたの願いのために、私はこの世界にやってきた。
お待たせしたけど、もう、今すぐ会えるから。
あなたの願いは 私が叶える。
***
スミカへと向かう中、自分を追うセフィリアオンデスの悪態が耳に響いた。
有翼人種のトートセンクは、大切なスミカへの道案内しながら、眉を不快にしかめた。
お前がついてこれる速度で飛んでいるのだがな。
だが、そもそも異世界の住人に自分と同じ礼節を求めるのが無理というものだ。
トートセンクは、セフィリアオンデスが自分を見失わずついてきているのを響きで把握しながら飛び続け、スミカへスルリと辿り着いた。
スミカは、幾重の光と音の層を組み合わせて造られている。
光の屈折率、音の振動の仕方が異なる層を組み合わせることで、空間を幾つもの部屋として独立させた場所だ。
自分が好んで使っている上層部の出入り口から、トートセンクは内部へ降り立つ。
セフィリアオンデスもそのうち到着する。トートセンクは、地上部の出入り口をセフィリアオンデスが出入りができるよう、念じておく。
「茶を振舞え、だったな」
スミカへ辿り着いたトートセンクは己の右手の中、手渡されていた青い石を見つめた。
今は何も光らず、何も響いていない。だがそれでも優しい気持ちになった。トートセンクはその石のために少し微笑んだ。
さて・・・茶、か。
トートセンクは石を服の帯にしまいこみながら一瞬思案した。
茶を出せというのは、つまり、摂取できるエネルギーを出せということだ、と、トートセンクは思う。
トートセンクは、スルリ、と壁の層を移動させ、隣の部屋にふんわりと移動した。
そこは、有翼人種がエネルギー摂取の場として集う部屋だ。
その部屋の中をそっと浮かぶように移動する。
部屋には、大勢の仲間の「球」が浮かんだままになっている。たくさんの球。それは、仲間自らが造り出した、各々用の食器だ。
両手で球を抱くような仕草をして念じると、生み出すことができる。自力で、薄い光と音の層を作り、固定するのだ。
簡単に生み出すことができる分、繊細なモノ。衣服が触れるぐらいならいいが、背の羽が不用意に球に当たると、それはパリンと壊れて散ってしまう。
トートセンクは、己が仲間の球を壊さないよう、つとめて静かに部屋の中を進み、奥に無事に辿り着いて壁に手を伸ばした。
・・・ットン・・・ットン・・・
壁から、光る黄色いエネルギーが、とても静かな音を響かせて、上から下へと ポツリ ポツリと 流れている。
これが、有翼人種が口にするエネルギーだった。これが、エネルギーの全て。
トートセンクは、その光る黄色い小さな粒を、左手で受け止め・・・。
ゲストとして、と、いう言葉を思い返し、一旦手を引っ込め、自分の胸の前で「球」を持つ仕草をした。
フォン
小さな風が生まれる音とともに、トートセンクの掌の間に球が生み出される。
「・・・」
脳裏に、頼もしい仲間との― 先達との― 記憶が蘇った。
『どうして わざわざ そんな入れものを造るのですか?』
『ふふ トートセンク これは 大人の礼儀というものですよ』
記憶の中、皆が自分を見て微笑んでいた。
『トートセンクも 一人前になれば 自然とこういう風に エネルギーをいただくようになるのさ』
トートセンクは眉をしかめた。
一人前?
私は、
まだ、
半人前なのだ。
パリン
己の手の中、球を壊してしまった微弱な振動でトートセンクは我に返った。
ヴォン・・・その直後にスミカが響いた。
地上階の入り口を セフィリアオンデスが通りぬけたのだ。




