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027.パパの運命

父は、目線をクリスティンに合わせようとした。しかしクリスティンは、母の寝巻きに顔をうずめて、目線を合わせようとしない。

両親は困惑した。可愛い息子が、こんな風に自分たちと目を合わそうとしないなんて。


母は、父に、『アレを見て』と目くばせをした。目線を追って父も見る。

クリスティンの背後、棚の中、静かに青く光るモノがあった。


あれは?

ひょっとして。


父母は目くばせをしあって、声に出さないながら、同じ思いを抱いた。軽く頷き合う。


母はクリスティンの髪を撫で続けた。

「・・・うん、そうね、悲しいのね・・・? そうなのね・・・?」


父は、まだ目線を合わせようとしないクリスティンと同じ目線の位置を保ったまま、そっと声をかけた。

「クリスティン。・・・これは、パパが、こうじゃないかと思って言う事だよ。きいてくれるかい」


静かな呼びかけに、クリスティンが少しだけ顔の向きを変えて、ほんの少しだけ父の顔を見た。目が合うと、クリスティンはコクンと頷いた。鼻をグシュッとすすりあげた。


「もしかして、これは、石見の塔の老婆さまと、クリスティンが何か約束をしたのかな。『誰にも言っちゃいけないよ』って」

父の言葉に、クリスティンが驚いて息を飲んだ。母の寝巻きにしがみつきながら、父の顔をはっきりと見た。

あたりだわ、と母は髪を撫でながら、思った。

そうか、と、父は思った。


「じゃあ、クリスティン。パパの『運命』の話を、今、クリスティンとママに教えてあげるよ」


パパの運命の話?

クリスティンは、何故父がそんな話をしようとするのかを不思議に思った。じっと父を見つめる目からボロリと涙が落ちる。


「まぁ」

と、声を出したのは、母だった。

クリスティンの髪を撫でている手を止めて、クリスティンの両肩に手を置く様にして、言った。

「私、その話、ずーっと教えてもらってないのよ!」


***


どこか世界の片隅で 背の大きな羽根で空を舞うように飛ぶ者がいて


その世界の片隅で それを勢いよく追う金茶色した者がいて


腕の先の無い少年が 消えたトモダチを思って途方にくれる



またどこか世界の片隅で 涙を落とす子どもに父が話した。


「いいかい、これは、秘密のお話だよ」


***



クリスティン。 

約束というのは、守るものだね。破らないようにするのが『約束』だね。


でも、実は、その約束を破った方が良い事がある。


例えばね、そうだね、

お昼には家にかえってきなさい、絶対だよ、とパパがクリスティンに言ったとするね。ママの誕生日祝いをするとかね。

クリスティンも うん、と答えたとしよう。

クリスティンは、パパに、『絶対お昼に家に帰ってくる』という約束をしたことになるね。


約束は守るのが当たり前だよ。クリスティンはちゃんとお昼に家に帰ってくる。


でも、こういう日だってある。

クリスティンが家に帰ってくる途中で、誰かが木から落ちかけていて、「助けて」って泣いている事だって起こったりする。


助けていたら、お昼に絶対帰るというパパとの約束が守れないかもしれない。ちゃんとお昼に帰らないと、もしかしてママのお祝いがちゃんとできなくなってしまうかもしれない。

どうしよう?



皆、時々ね、自分が守ってきた約束を破って、もっと大切に守りたい事に出会ったりする。


パパが言われた、パパの運命は、とても変わっていたんだ。

パパの運命は、皆に、『約束を破ることを、考えさせてみること』だったんだ。



クリスティン。

石塔の老婆様との約束について、今、もしかして、考えてみてもいいかもしれない。


クリスティンはあれからもう随分お兄さんになったね。


クリスティン、その約束を守る事で、何を守ってきたのかな。

その約束は、破ったら、何か困ったことになると、言われたのかな?


もし良かったら、教えて欲しい。

話せるところがあったら、その部分だけで良い、パパとママも、一緒に考えてみて良いかな。

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