024.約束と取引
「えーと、ダロンって名前の子なんだね?」
『うん・・・』
「とにかく、探してあげるよ。このセフィリアオンデスがね」
『ありがとう!! セフィリアオンデス!』
パァっとクリスティンの声が明るくなった。
名前を呼んでもらったセフィリアオンデスは、上機嫌になった。
皆が羨ましがるはずだ。これは、危険を冒している私への、褒美の一つに違いない。
クスクス笑っていると、上空からの冷ややかな声が落ちてきた。
「生憎と、そんな者がこの世界に紛れ込んだ形跡は無い」
セフィリアオンデスはキッとして上空をにらんだ。あの有翼人種が、いつの間にか、自分の真上に留まっていた。
せっかくの交流に水を差しやがって!
「盗み聞き!? 有翼人種のマナーってあったもんじゃないね!」
しかし、いつもなら、自分から近づいたり声をかけたりしない有翼人種が、ひらりとセフィリアオンデスの前に降り立った。
「セフィリアオンデス。確認したい。それは何だ」
セフィリアオンデスは、耳を疑った。コイツ自ら何かに興味を持って質問してくるなんて!
有翼人種は、青い宝石以外、全く目にも留めていない様子だ。じっと見ている。
「有翼人種が、石に興味があったとはね」
セフィリアオンデスは、嘲笑してみた。
だが、相手はただこう言った。
「声が、聞こえたのだ」
セフィリアオンデスは得意げに笑ってみせた。
「そうさ! 私、クリスティンと会話したんだ!」
「途中で消えてしまった。私が、ここに辿りつく前に」
ん? なんだ、今来たのか、コイツ?
セフィリアオンデスはキョトンとした。
いや、『途中で』って、言った? アンタさっき、確実に、盗み聞きしてたよね、会話聞いて、コメントしたよね!?
「あの声の主は、誰だ」
「何いってんの、クリスティンだって言ったの、聞いてなかった?」
セフィリアオンデスは、思わず尋ねられた質問に素直に返す。
「その者の前に、他の者が声を出していた」
そういえばそうだっけ。ある意味ゲンコツで黙らせたんだったけな。
「会わせてくれ」
「はあ!? 何いってんのよ、アンタ。自分が何言ってるか分かってる?」
「声が、聞こえたのだ」
何でそんなに固執しているのか、この有翼人種。いつもこちらの言動全て無視しやがるくせに。そんなに声が重要か・・・?
と、ピンと、気がついた。
あの声。第二の耳でのみ受信可能だった。それは、目の前の、有翼人種の声と、同じ声だ。同じ質だ。
まさか、コイツ。
セフィリアオンデスは推測した。その推測は、多分、間違っては居ないだろう。
「・・・」
セフィリアオンデスは、ギラリ、と有翼人種を見た。右手から、輝きがぼんやりと落ち出したあの青い宝石を見せてやる。
「欲しい? この青い宝石」
有翼人種は、じっとそれを見つめている。
なんだか切なそうに見える。
チッ、と、心でセフィリアオンデスは舌打ちした。
もー、皆、聞いてくれる? コイツ、本当に、馬鹿じゃない? どー思うよ、ホント。
もっとも、心でいくら愚痴ったところで、自分の世界の皆に届きはしないが。
「取引、してやっても良いよ。この、大切な宝物の代わりに、アンタが持ってる、私の欲しいものを頂戴」
セフィリアオンデスは挑むように告げる。
「分かった。応じよう。・・・欲しいのは、私の羽根だな?」
あっさりと応じられた答えに、きっぱりとセフィリアオンデスは返す。
「違う」
「違う?」
有翼人種は不審の眼差しでセフィリアオンデスを見た。
「お前がずっと狙ったのは、私の羽根」
「それでは見合わない」
セフィリアオンデスは即座に答える。
「私が求めるのは、アンタのスミカへの招待状さ。そして、茶を一服振舞ってもらおう。ゲストとしてね」
「何を・・・。お前を、私のスミカへ招くだと?」
「イヤなら断れば良いだけ。それに、こっちの要求はまだ終わってない。クリスティンから頼まれたの、聞いてたでしょ。ダロンって子を探すのを手伝ってもらおう。アンタなら、超簡単に見つけられる、違う?」
有翼人種は、じっとセフィリアオンデスの顔を真顔で見つめている。
生憎と、こっちも真面目さ、と、セフィリアオンデスは思った。
「・・・分かった。受けよう」
有翼人種は答えた。
「だが、先ほども言ったが、ダロンというのがこの世界に入ってきた形跡は皆無だ」
「探すのよ」
セフィリアオンデスはにらむように言った。
「アンタは、万能じゃない。知らないところで紛れこんだ可能性だってあるさ。探すのよ。私たちのクリスティンのためにね」
有翼人種は、珍しいものでも見つけたような顔を、静かにした。
「盗人は、仲間意識が強いらしい」
などと言った。
お前、許さん。そもそも、盗人という判断はアンタ側からだけのものだ。
セフィリアオンデスは苛立ちながら、静かに思う。
「分かった、探す努力はしてみよう。居ないと分かっていてもな」
冷たい物言いだったが、今は不満を表すことはしない。
「じゃ、まず先にスミカへ入れて」
セフィリアオンデスは、ぎゅっと右手の青い宝石を握った。心の中で、惜しんだ。
クリスティン、話せて嬉しかったよ。
ごめん、皆。クリスティンと話せる青い宝石、取引で使っちゃった!
でも、許してくれるよね! だって、目的はどうやったって果たさないとね!




