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023.セフィリアオンデスとクリスティン

アトは、黒いフォエルゥを見上げた。


何か名前で呼びたい気がするけれど、それには、まだ早い。そんな気がする。

昔、自分が警戒の声を名前につけてしまったように。まだ自分は黒いフォエルゥのことをよくわかっていないのだから。


「もしキミに名前があるのなら、分かれば良いな」

アトはそう言って、立ち上がった。


黒いフォエルゥは、じっと、立ち尽くしていた。

本当に言葉がわかっているといいな、と、アトは思う。


それから気持ちを切り替えることにした。

さて、と。えーと。

「・・・青いペンダント、は・・・無くても大丈夫だろうし。僕は、人を探して欲しいって言われてここに来た。女の子が行方不明らしくて、ここに居るらしいんだ。正直、なんで僕が探すのか分からないけど、頼まれて引き受けたからには探してみないとね」


“・・・ウ・・・”

「え」

アトは驚いた。黒いフォエルゥが、まるで、頷くように、体をゆすったのだ。

「キミ、何か知ってるの?」


黒いフォエルゥは、今度は、体を左右にゆすった。Noといっているように思えた。

やはり、言葉が通じている! アトの心がパァっと喜びに湧き上がった。

「僕、とにかく、さっき会った人、あの小さい方の人、あの人がそうかもしれないから、後を追うよ」


黒いフォエルゥは、ゆっくりと、頷くように体をゆすった。


***


一方。セフィリアオンデスは、ペンダントから聞こえる声に、誘惑に抗えずに声をかけた。

「クリスティン、聞こえてる?」


すぐに、喜びの一声が返ってきた。

『あっ! アト様!?』


「ごめん、私はセフィリアオンデス。初めまして、クリスティン」

『えっ・・・は、はじめまして。セフィリアオンデス・・・』


会話が出来た!

セフィリアオンデスは喜びに身をゾクゾクとさせた。

あぁ、皆に教えてあげたい!


「“アト様”に、用事? 私にできることなら、やってあげるよ、クリスティン」

むしろ、『私』という部分を、『私たちクリスタルスレイ一同』と言い換えても良い気分だ。


『えっ・・・あの・・・』

「何かが欲しいのかい? 取ってきてあげようか」


『・・・友達のダロンが、聖域を通って、聖域の世界に行っちゃったの』

「なんだって?」


『お願い、ダロンを、探したいんだ!! どうしたら良い? 僕も、聖域に入りたい!』

「クリスティン。クリスティンは、こっちに来なくても良いよ。良い子だからね」

どうして私が味方をするかクリスティンは分からないかもしれないな。などと思いながら、セフィリアオンデスは、諭すように告げた。


『どうして?』

泣きそうな声に、セフィリアオンデスは答える。

「代わりに、私が、その世界に居るよ。探してあげる」


セフィリアオンデスは、本日初めて会った2人の存在を脳裏に描く。

大声で吼えていた黒いのと、無鉄砲な小さいのが居た。どちらかに違いない。

他には、あの有翼人種と自分ぐらいしかいない。


『・・・今、聖域の中に居るの?』

「んー、多分ね。で、探してるのはどっち? 大きいの、小さいの?」

『髪が短くて、ほっぺたにプツプツニキビがあって、首の左側にアザがあって・・・』


妙に細かいところからの説明で、セフィリアオンデスは、キョトンとした。

だが、髪が短いのなら、小さい方のようだ。


クリスティンの説明は、続いている。服は麻で出来ていて、袖のところが破れていて・・・人差し指にケガの痕があって・・・。

あぁ、こういう子なのだな、私たちのクリスティンは。

セフィリアオンデスは楽しくて笑いそうになって、しかしクリスティンへの好意のためにそれを悟られまいと噛み殺しそうとした。


「クリスティン、あのさ、背丈はさ、小さいよね?」

『えーと、僕と同じぐらいだよ』

「そっか」

クツクツクツ、と、セフィリアオンデスは笑みを漏らした。

「クリスティンは、どれぐらいの背丈なのかい」

『えーと・・・80フィルト』

フィルトとは、恐らく長さの単位だろう。

単位名を聞いて、セフィリアオンデスは気がついた。自分の大きい小さいの感覚と、クリスティンの感覚が同じかどうかわからない。世界が違うのだ。単位だって感覚だって違うだろう。

クリスティンと同じ背丈というのは、どちらだろう。

ハッキリと、どちらか分かるといいのだが。


セフィリアオンデスは、自分の手にある青い宝石を見つめた。

一つ閃く。

「えーと、クリスティン。青い宝石を持ってる子かい? ペンダントだけど」

『ううん、それはアト様だよ。アト様、そこに居る?』

「ううん。じゃあ、ダロンってのは、ものすごい声で、オウオゥ吼える方の子だ」

セフィリアオンデスは答えが出たような気分がした。

『・・・』

「その子なら、さっき見たよ、帰れって言えば良いのかな」

『・・・』

「声かけといてあげるよ。クリスティンが心配してるから帰れってさ」

『・・・ダロンは、大きな声、きっと、出さない、と、思うなぁ・・・』

少し長い沈黙の後で、途切れ途切れ、クリスティンが答えてきた。音が悪いのではなく、考えながら話しているのだろう。

「でも、その子しか、いないと思うよ。あとは、アト様って子」


『・・・ダロンは、たぶん、泣いてると思う』

「え? 泣いてる? 吼えてるってこと?」

『ううん、きっと、吼えないと思うよ・・・。ダロンは、口に、留め金がついてるもの』

「留め金? どういうことだい。聞き捨てならないね。口に、留め金?」


『普通の人には見えないし、僕も見えない留め金の方』

具体的なものではなく、精神的な表現のようだと、セフィリアオンデスには分かった。


おかしいな。見た二人とも、そんな風には思えなかった。

自分の見ていない誰かが、この世界に入ってきているのか。

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