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021.鉱石

リーん。りー・・・ン


羽根を狙う金茶色の瞳の主、セフィリアオンデスは、駆けながら、自分の身の回りを取り巻き出した音に気付いていた。

細い細い振動。まるで自分を包むベールが1つ追加されたようだ。


タッタッタッタッタ


セフィリアオンデスは右腰のポケットから、ソレを取り出した。先ほど、落下から助けてやった小僧が持っていた青い宝石だ。

それを右手に握り締め、その手を胸の辺り、顔の辺り、頭の上などに移動させ、額の辺りで手を止める。

この音は、セフィリアオンデスに五つあるうちの第二の耳が聞き取れる音のようだ。


リーン・・・


混ざって、別の音が聞こえた。

『アト・・・! アートー!! 答えなさい、アトロース!!』

「ん?」

セフィリアオンデスは、走り続けながら、大きな両眼で額の付近に持つ青い宝石を眺めた。

「アトロース? 誰だそりゃ・・・。あぁ、あの小僧の名前かしらん」

とはいえ、小僧には無断でいただいた品物なので、答えを返すとややこしい事になる。セフィリアオンデスは、聞くだけにして答えないことにした。


『アートーロースー!! アートー!! もぅ! 変ねぇ。繋ぎ方がまずいのかしら? えーと・・・』

リーン!!

音量が倍になった。突然の大音に、走っていたセフィリアオンデスは、トッピョン! と跳ねてしまった。


『アートー!!』

リーん!!

『アトー!! アトロスー!!』

「チッ、煩い女だな」

セフィリアオンデスは、額の位置から手を離した。これ以上耳元で聞くと、耳がしびれる。煩さに苛立って、セフィリアオンデスは、腹辺りに下げたその青い宝石に、ガッと左手で衝撃を加えた。


『あら・・・・?』

声が聞こえたが、小さくなったようだ。ヤッタぜ。


リ・・・

『・・・ァト様・・・ァト様・・・ァト様・・・』

「は?」

セフィリアオンデスは小さくなった音源、右の手の中の青い宝石を見つめた。

音が変わった。

しかも、馴染みのある声のような・・・。


セフィリアオンデスは、また右手を体のあちこちに移動させ、胸の辺りで停めた。第二と第三の耳で受信可能。


『クリスティンです、アトさま・・・アトさま、聞こえていたらお返事ください・・・アトさま! お願い、ダロンを探さなくちゃ! アトさま!』


セフィリアオンデスは、ほっと柔らかい笑みを浮かべた。

あぁ、聞き知っているはずだ。クリスティン。自分とは異なる世界、第三の世界に生きる、小さな友人。


きちんとその声を聞きたくて、セリフィアオンデスは足を止めた。

今は、クリスティンの声だけがその青い宝石から聞こえてくる。

『アト様ー、アト様ー!! ぼく、クリスティンです! アトさま!』


クリスティンは、自分とは別の世界に生きている。けれど、自分の世界に語りかけてくる、稀な、愛しい存在だ。自分の世界で、皆、クリスティンをほほえましく思っている。


クリスティンは身の回りすべてのものを愛でている。その声は、クリスティンの世界とセフィリアオンデスに共通する存在から、世界を超えて伝わってくる。

共通する存在は、主に鉱石。鉱石は歌って喜びその声を伝えあっている。

“存在を認めて愛でてくれるクリスティン坊や! 我らの友、クリスティン坊や!”

そして、鉱石と交流のある自分たち『クリスタルスレイ』-鉱石人種とも自称する-も、やはりその声を愛でている。

違う世界に住みながら、同じく鉱石世界を愛でる稀有な者よ! と。


だが、クリスティンからまるで子守唄のように響くその声は一方的にこちらに響き、こちらから語りかける事が出来ない。

いくら試みても、クリスティンに届いているようには、思えないからだ。

だから、クリスティン自身は、声が他の世界にまで届き、親しまれているなど知りもしないだろう。


今、セフィリアオンデスは、誘惑に駆られた。

稀な愛しい存在、クリスティン。この宝石を使えば、私たちの声がキミに届くだろうか。


***


アトは、ペンダントを探して、キョロキョロと周りを見回した。けれど、基本に白っぽいこの場所で、青は目立ちそうなものなのに、見つからない。


アトはもう一度この景色を見回した。

薄い赤紫色の空。どこか町にでる夜の霧のように、白い粒子が空気にただよっているような色彩。

白い坂道。陰影があるため、ところどころでこぼこしているのが分かる。けれど、基本が白い世界。モノクロ、というには黒が少ない。木などは一切ない。なだらかでない地面だけがある世界。


隣に、黒いフォエルゥが追いついてきた。

駄目元で、アトは尋ねてみる。

「ねぇ、このあたりで、青い石がついたペンダント、見なかった?」

返事は無い。歩いたためか、黒いフォエルゥはやや呼吸が荒くなっていた。


「うーん・・・」

アトは、ちょっとウロウロとしてみた。

けれど、見当たらない。なんだかちょっと面倒くさい。失くすと何が困るのだったか。

そうそう、母たちと会話するのに必要だから、と言っていたな。


まぁ良いか、と、アトは思った。

そんなに長くここにいるつもりは無い。何か聞きたい事があれば戻ればよい。


と、ここまで思ってから、アトは気づいた。

あれ、どうやって帰れるのだろう。

・・・まさかアレを失くすと帰れない、なんて事はないよね・・・。

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