表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/394

018.薄い赤紫色の空の下

止めなくては!!

一瞬の思いで、アトは足を踏み出した。


グラリ


体が傾いた。宙に浮く。右足の下には、何の地面も無かった。


とっさのことに、何が起こったのか分からなかった。妙にゆっくりとした速度で世界が流れていく。

自分の体が、どこにも一切触れていない、宙に浮いている感覚。まるで世界から自分が切り離されたような・・・。


オオォオオッォオヲヲオ・・・

黒いフォエルゥの 雄たけびだけが、届く。肌を震わせる。


助けなくちゃ、と、アトは思った。


とても大声で、助けを求めている。助けてと呼んでいる・・・


助けなくちゃ・・・


思考さえ宙に浮かぶ中、不意に、アトの右腕が誰かにグィっと掴まれた。

え、と思ったのもつかの間、その手はアトの腕からすり抜ける。


何? 誰?


アトが右側を見ようとして、今度はシュルンッという音が耳のすぐ傍でした。


バシッ!

アトの体に、何か紐のようなものが巻きついた。巻きついた、と感じた瞬間、グィっと上にひっぱられた。

「痛っ!」

思わずアトの口から言葉が零れ落ちたその瞬間、ドスン、と、体が地面に着地した。

切り離された時間が再び元に戻されたような感覚がした。


「シィッ、静かに!」

目の前に、金茶色の瞳があった。大きく吊りあがった目で、アトを見つめていた。

誰だろう。アトは目を瞬いた。


アトの体の束縛がフッと解けた。

見ると、目の前の金茶色の瞳の主が、細いロープを自分の腕に巻き直していた。どうやら、あれでアトを落下から助けてくれたようだ。


アトは目の前の人の様子を眺めた。

白い肌。たくさんそばかすがある。

短く刈り立てた、金茶色の髪。大きくとがった耳には、赤色と緑色のピアスがついている。いや、それは左耳だけで、右耳からは、長く細い金色の大きな輪っかが1つ、耳辺りからぶらさがっている。


アトと同じぐらいの背格好か、少し小柄だ。

黄土色の服を上下ともに着ている。足首まですっぽりと袋のような布で覆っている。靴ではなく、サンダルを履いている。


その人は、左上を、まるで動物が獲物を狙う時のように首をすくめて見つめだした。

とても厳しい雰囲気だけれど、先ほどの声と体つきから女性のようだ。


あ。と、アトは思った。


行方不明の、商人の娘を探してほしいと頼まれた。

この人だろうか。


「あの・・・」

アトが声をかけようとすると、瞬時に、キッと金茶色の大きな瞳で睨まれた。

「静かにって、言っただろ!!」


なんだなんだ。アトが、自覚が無いながらも、不満げな顔でもしたらしい。金茶色の瞳の主は、さらにきつく小声で畳み掛けた。

「ジャマするなら突き落とすよ!」

その顔は結構な迫力があった。黙った方が良さそうだ。


金茶色の瞳の主は、アトが黙った様子をキツイ視線で認めてから、再びアトの左側へ顔を向けて、ジィっと何かを伺っている。


オォオオオオオオ!!!!


また咆哮が聞こえて、アトはハッとした。アトも左に顔を向けた。

白い大きな翼が見えた。アトは一瞬キョトンとした。大きな鳥? いや、翼の向こうに、人の後頭部がある。下には足もある。

人の背中に、大きな鳥でも乗っかっているのだろうか。


バサァ、と翼が羽ばたき、ドッとアトの方に風が来た。

一瞬風に押されたが、その向こうを見てアトは思い出した。


黒いフォエルゥ!

思い出した! 槍と、黒いフォエルゥ!

助けなければ!!


アトは咄嗟にその場から踊り出していた。先ほど転がり落ちたことなど忘れていた。

「あのヤロ! 助けなきゃ良かった!」

後ろで金茶色の瞳の主が毒づいたが、アトの耳には入らない。


地面を蹴って白い翼に体当たり・・・けれど、白い翼は先ほどの羽ばたいて上空に位置を移していた。体当たり先を失ったアトは、勢いでバランスを崩して坂を転がった。


その先に、黒いフォエルゥ。


***


『緊急通知』とやらを聞いて、自分の立場に気付いて、声を限りに叫んでいた。

何を表したいなどとは自分でも分からない。けれど叫ばずには居れない。


自分は、何なのだ、この自分は、一体!

この世界は何だ!

何のために居る、何のために!


・・・全てが分からない!


青い部屋。自分の居る場所。この世界。自分とは無関係になされる会話。


力の限りに声を張り上げる。吼えるように。


怒声が響いた。

「お前の世界に帰れ!! お前がくる場所ではない!!」



そう、どこにも、どこにだって、自分の居る場所など無い・・・!

世界のただのヒトカケラの場所さえも!!


ドーン!


突然、何かが勢いよく、前方から自分の膝に当たった。体が崩れ・・・後ろに倒れ・・・。


ドスン、と尻もちをついた。


何、だ・・・? 


***


坂から転がり落ちたアトは、黒いフォエルゥに、足の裏からぶつかった。本当に丁度、足の裏がどーん、と黒いフォエゥルに当たった形で、アトはノーダメージと言っていいぐらいの当たり方だった。


が、そんな当たり方をされた相手、つまり黒いフォエルゥは、大きな体を後方へ崩し、ドーン、としりもちをついた。

“・・ォ・・・・”


「ご・・・ごめん!! えーと・・・フォエ・・・ルゥ・・・みたいなの」

アトは慌てて、地面にへたりこんだまま、向かいの黒い巨体に侘びを入れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ