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148.ケルベディウロス、決意する

『ウユ、そして、この情報管理センターの者たちに尋ねる』


情報管理センター『BB』の大画面と、現在依頼待機中となっている各人の画面にメッセージが表示された。ケルベからのものだ。

「ん。ケルベ、どうした?」

大画面にまで出されたメッセージに、センター長が首を傾げる。


『お前たちは、我輩の事を今、どう思っている?』


「え?」

「え?」

「え、頼もしい相棒? かな?」

「えっと・・・オチャメな精霊?」

「・・・」


『改めて尋ねる。好ましいか、好ましくないか』


「・・・好ましいよ? どうしたの」

「ウユとケンカしたから不安になった?」

「ケルベ、大丈夫、頼りにしてるから。な、ウユ?」

「・・・はい。頼りにしてマス・・・」

「ほら、よかったな、ケルベ」

「どうしました。何か悩んでいるなら、俺たち、話を聞きますよ?」

と、何か違和感を感じたのか、丁寧な口調でセンター長がこう言った。


画面のメッセージはしばらく更新されなかった。


***


ケルベディウロスは思う。

数時間前、真なる世界に居る者たちと会話ができた。

やっと。やっと、真なる世界を元に戻す、確かな繋がりを手にする事ができた。


やっと、やっと、真なる世界を取り戻せる。


取り戻せる-・・・。


〝時間を動かして、戦争を続けて、で、トートセンクたちを倒して、で、幸せになるのがアンタの願い? ぶっちゃけ言うけどさ、まず、アンタたちが勝つかアヤシイよね。大分長いこと戦ってこの状態だ。アンタ賢そうだから本当は分かってんじゃないの? 意地になって戦ってるだけで、本当は、どっちも勝者になれないってさ。どちらか、一人になっても残った方が勝ちだとか? 無意識に思ってたのだとしたら、アンタたちはすでに負けてるよ。だって、今、残ってるのはトートセンク一人だけだ。で、トートセンクが幸せになってるかって言うと、違うよね”


数時間前に会話をした、セフィリアオンデス-真なる世界を訪れているという者-の言葉が蘇る。

こんなに意識に残るのは、それも真実だと己が知っているからだ。分かっているからだ。


“アンタたちの願いは、「時間を元に戻したい」だろ? でも、それをしたら、私は、逆に、助けたかったものを壊しちゃうように思ったんだ”


“アンタたち、自分の手で自分たちの場所を壊そうとしてる。それを止めてもらったんだよ”


そうだ。と、ケルベディウロスは思った。

そうだ。我輩たちは、全力を持って、エクエウを滅ぼそうとした。

我輩たちは、ウユ、お前たちを、滅ぼそうとした。いや、滅ぼそうとしている。


真なる世界に戻りたいのは本当だ。

キュオザロンに会いたい、皆に会いたい。我輩は我輩の世界に戻りたい。

また元のように暮らし過ごしたい。


時間が止められて、自分たちが真なる世界から締め出されたという認識は恐らく間違っていない。


動かしたらどうなる? 元に戻したらどうなる?


会話相手の一人、セフィリアオンデスが言った言葉が強く残る。

それほど意識に残るのは、自分が、この『BB』と接しながら、ウユたちと接しながら、漠然と感じ始めていた思いを、言葉にされたからなのだと気付いている。


そうだ、元に戻すという事は。真なる世界に戻るという事は。

再び、我輩たちは敵同士となり、牙を向き合うという事。どちらかが滅び尽くすまで。

止められる前の時間の流れのままに。

ウユ、お前たちを、滅ぼすということ。


***


しばらく時間が経ってから、ポコっと、まるで照れたように、ケルベからのメッセージが現れて、皆がそれを見てぷっと吹き出して笑った。


『我輩は、お前たちを、とても大切に思っている』


***


己が変わらねばならない、と、ケルベディウロスは思った。


知らなかったのだ。うかつにも。己が望む未来が変わっていくという事を。

まさか、これほど自分が、敵であるエクエウたちに安らぎを覚えるとは、思わなかったのだ。


それは相手が記憶が無いからこそ、無邪気にふるまわれる本来の彼らの姿で・・・。

そして、遠い遠いはるかな昔に、確かに自分たちにも向けられていた姿でもあった。決して元々自分たちに与えられていなかった姿ではなく。


確かに、何者かが、自分たちの暴挙を止めるために犯したのかもしれない。他者の世界の時間を止めるという愚行。

そう、愚行。行われてはならない多大な干渉。傲慢さの表れ。


けれど。そのような傲慢な干渉を受ける事で、失われるはずだったものの大切さに気付かされたのだ。皮肉な事だと思う。


エクエウ、お前たちを、我輩たちはなぜ滅ぼそうとしたのだろう。

滅ぼされるべき高慢さを、お前たちが身につけたとはいえ。それでも他に選ぶ道は無かったのだろうか。


存在を根絶させようとお互いが結論付けたのは、我輩たちもお前たちも、全て目が濁り狂いだしていたのだろうか。


我輩たちのリーダー、キュオザロンよ。

我輩は今望む。

戦いなど止めてしまおうではないか。お前は我輩の意見に耳を傾けてくれるだろう?


キュオザロン、どこに居る。お前がいたら、何もできないことは無い。

真なる世界の右腕、我輩、ケルベディウロスがお前を呼んでいるぞ。


ケルベディウロスは深くため息をつき、自らをあざけるように笑った。


馬鹿者だ、我輩も。


残っているのは己のみ。

キュオザロンは行方知れず。

他の同胞も、様々に小さき世界に取り込まれてしまっている。

敵なるエクエウも、生まれ変わって記憶すら持たない。


我輩が動かず何をするのか。


そう。

冷静になれ。

現状を知れ。

そうして己の願うものを知れ。

そして動け。

願いを現実にするために。


ただ、時間を動かすだけでは、欲しいものは何一つ残らない。

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