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147.ケルベディウロスと『BB』の者たち

トートセンクはしばらく考えた。

「ヤリを」

ふと思いついて、宙からヤリを取り出す。

「セフィリアオンデス、場所をもう一度示して欲しい。どの場所だ」


「そこだって。ていうか、あんた、煮詰まるとヤリしか手段ないんか」

「何も無いより良いだろう」


シュッ。

トートセンクは、セフィリアオンデスが改めて指し示す場所に向けてヤリを放った。


グニャリ。

見事にヤリの軌跡が曲がったのを、トートセンクとセフィリアオンデスは見た。


「まさか、一体なぜ・・・」

信じられないと、トートセンクが呟くのを、セフィリアオンデスが突っ込んだ。

「いやだから、おかしいって言ってるじゃん、ソコ! 絶対、なんかあるってば!!」


***


大陸の北西に、ローヌという島。

その島には、島以外には極秘の情報管理センターがある。


『BB』と呼ばれるその情報管理センターは、世界中の情報を『祭壇』を通して集め、蓄積・管理している。

そして、求めに応じて、かつその情報に相応しい料金を払えるものに対してのみ、情報を提供している。


そんな『BB』で働き出してはや7年、今年27歳となったウユが、一回りは年上の先輩にからかわれていた。

「いや、ケルベに、言わないで欲しいと頼まれていたからね?」


ケルベというのは、『BB』にはなくてはならない、精霊のようなものである。『BB』ではケルベに様々な依頼をし、ケルベも心よくそれに答えて情報を集めたり、相手が信頼できるかの確認まで行ってくれる。


ウユは反論した。

「酷い! 私だって、もう27ですよ!? 七年も勤めてるのに、どうしてまだ新人扱いなんですかー!!」


あはは、と話を聞いていたほかの先輩が笑う。

「だって次の子まだ入ってないし。ウユが一番若いからじゃない」

「だからって、ずーっと、7年も! ケルベが、システムにメッセージとか出せるって全然知らなかったですー!!」


先輩たちは、しみじみ、うんうんと頷いた。

「そうだねー。よくそれで、7年もコミュニケーションとれて頑張ってたよねー」

「酷い! 酷いです!」


そうなのだ。

ウユはローヌの、そして世界において最高峰といえる情報センター『BB』に勤めて早7年。なのに、『BB』の精霊・番人とも言われる『ケルベ』という存在に、ずーっとからかわれ続け、『システムにメッセージを出して意思を伝えることができる』という初歩的な部分さえ秘密にして遊ばれていたのである。


それがつい昨日、ローヌの隣の大陸のイシュデンという辺鄙な町に嫁いでいったサリシュと『祭壇』を使ってやりとりしていたら・・・。

ケルベがシステム画面にメッセージを出してきた。


その時の驚きといったら無い。しかも緊迫したメッセージで、ウユは『これは大変な事が起こっている』と感じたのだ。余程の事なのだ!と。


サリシュとの通信が終わって、ウユは、その場にいた先輩たちに興奮して、「今のは一体!?」と話をした。

サリシュたちとの会話は、一部の、他の依頼を受けている最中の人間を除いて、情報センター全体で共有していた。(何か異常性を感じたセンター長が、ウユとサリシュたちの会話をスピーカー通話にして全体に流していたためだ)

先輩たちは、緊迫した会話内容に、まじめな顔で神妙に「どうしたんだろう」「心配ね」と答えた。


ただ、ケルベの「システム画面にメッセージ表示」については、「あはは」なんて乾いたような引きつったような笑いを返したのだ。

先輩方は嘘のつけない人ばかりで、ごまかすのが下手である。

その態度にこれは変だと気がつき問い詰めたウユは、七年もの間、自分がケルベにからかわれ新人扱いされている事実を知った。


というわけで、事実発覚から半日以上経過している今も尚、ウユは腹を立ててご機嫌ナナメである。


「ケルベ、ウユがこんなに怒ってるよ? どうするの、好きな子をこんなに怒らせて?」

先輩の少し笑いを含んだ言葉に、画面に文字が打ち出される。ケルベの返答だ。

『ウユは面白い。飽きない』

「ケルベッ!! 面白いって何! 一生懸命仕事してるのにっ!! 酷い!」


あははは、と先輩たちが笑う。

「ケルベに気に入られているんだよ。良い事だよ」

『お前たちは面白い』

「あれ、僕たちも?」

画面に出されたメッセージに、また皆で笑った。


「ほらほら、セフィナさんから依頼が来てるよー、みんな仕事に戻った戻った」

自分もニヤニヤ笑いながら、センター長が皆を促して場を収める。


ウユもぶすっとしながら、モニターに向かいなおして座り、

「ケルベ、依頼です」

と話し出す。


『機嫌を直せ。我輩はお前を気に入っている』

「ぷーん」


***


ケルベディウロスは、分裂し、小さき世界の様々な場所に意識を同じように向ける事ができる。


小さき世界のローヌの『BB』はケルベディウロス無しでは成り立たない情報機関だ。

だから、今日も変わらず、いつものように、ケルベデゥロスは『BB』にも意識をおき、依頼を受けてやる。


今日は、ウユが機嫌を大変損ねていて、それがまた面白い。


『BB』はケルベディウロス無しでは成り立たない。

だから、自分の重要性を利用して、ケルベディウロスは、『BB』に勤める者達を選ぶ実権を手にしている。

つまり、ケルベディウロスが気に入った相手しか、『BB』には入れないのだ。


今の『BB』には、真なる世界で、自分と敵対している種族、エクエウの生まれ変わりの者たちばかりを集めている。


『BB』は和気あいあいとしている。

真なる世界のエクエウたちが、遠い遠い昔に、仲良く暮らしていた姿を思い出させる。

あぁ、本来のエクエウどもは、このような者たちだったのではないだろうか


ケルベディウロスは思わずにおれない。

懐かしさと、そして、敵対した憎しみと。


だが、彼らもこのように生まれ変わった。彼らはそのうち死んで、いなくなる。

なぜなら、この小さき世界の生命サイクルは驚くほどに、信じられないほど、早く。生まれて死んでいくのが一瞬の出来事なのだから。


長い時を経て、この世界に生まれだした『エクエウの生まれ変わり』たち。

彼らと過ごせるのもほんの一瞬のことなのだ。


彼らが居なくなるのもあっという間で。

ケルベディウロスはいたたまれなくなる。

取り返しのつかない事になるのではと焦燥感が募る。


真なる世界を早く元に戻さなければ。

この者たちを、早く在るべき世界に戻さなければ。


ウユ、お前は、ロットティーンという名のエクエウだった。

ナナキーナの次に力のある者。

我輩と敵対する者。我輩と戦う相手。我輩が滅ぼす者。


早く真なる世界を元に戻し、お前たちを本来の姿に戻し・・・。

そうして我輩たちは、また己の牙を相手に向けて戦うのだ。

戦い、滅ぼし・・・。


・・・・・・。


何のために?

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