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ソウルウェポン -心の勇者の奮闘記-  作者: 智風
第一章「異世界召喚」
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第八話「初戦闘」

 



「暗いな……」


 迷宮に入り、僕が最初に感じたのはそれだった。とにかく、暗い。

 こんなに暗いと魔物と戦うどころか、満足に歩く事さえ難しい。


「暗いのは入り口だけだ。暫く歩けば明るくなる」


 ぶっきらぼうに言葉を発したのは、二番隊長のモラルドだ。


「どうして入り口より中が明るいんですか?」

「そんなの俺が知るか、恐らくは魔力が関係しているのだろう。 だが、そのお陰で魔物は迷宮からあまり出てこない。人間も魔物も、暗い場所に恐怖を感じるのは同じなのかも知れんな」


 そう言って、皮肉げに笑う。人間と魔物が同じだなんて、騎士が言っていい台詞ではないと思うんだけど。


 しかし、迷宮に関してはこの世界の住人も詳しくは知らないのか。この世界で分からない事があったら、大抵は魔術や魔力の所為だと思ったほうがよさそうだ。


 そうやって考えているうちに、迷宮内が明るくなっていった。


「さて、この辺りから魔物が出始めます。シンジ様、くれぐれも油断は禁物ですぞ」


 相変わらずのモラルドの態度だが、段々とこの扱いの差にも慣れてきた。油断しない様に、周りを警戒しながら進んでいく。

 隣を歩いている信司くんを見ると、かなり集中しているのか口を結んで周りを警戒していた。その歩き方も、足音が殆ど聞こえない。勇者のスペックなのか、はたまた彼自身のスペックなのか、僕にはよく分からなかった。


「――いました……!」


 そう、静かに信司くんが全員に伝える。彼の視線の先を見据えると、二十メートル程先に確かにいた。


 体表はコンクリート色、身体は人間の子供よりやや大きい、手には棍棒のような鈍器を持っている。一目で人間ではないと分かった。


「あれが……魔物……!」


 初めて見る魔物に、僕は恐怖していた。漫画やゲームで見る恐ろしくも少し愛嬌のある魔物を想像していたが、あれはそんなモノではない。

 あれは、悪魔だ。ギザギザとした歯が覗く口から涎をダラダラと垂らし、身体の大きさに似合わぬゴツゴツとした筋肉で出来た身体。あんな腕で攻撃されたら、一撃で重症だろう。辺りどころによっては普通に死ぬ。


 甘かった。半分ゲーム感覚だった。しかし、これはゲームではなく、本物の殺し合いなんだと、今やっと自覚した。


「あれはストーンゴブリンだ。普通のゴブリンと違い大分硬いが、所詮ゴブリン。動きは鈍いし、スキだらけだ」


 あれは、ゴブリンだったのか……確かに、特徴を羅列すれば、ゴブリンだと気付いたかもしれない。しかし、実物を見てしまうとそのおぞましい姿にゴブリンだとは到底思えなかった。


 モラルドの物言いから察するに、彼や騎士からしたら、ゴブリンなど雑魚に等しいのだろう。

 倒せて当たり前だという空気が出来上がっていた。


「透さん、ストーンゴブリンは隙だらけです。気付かれない内に攻撃してください」


 信司くんの言う通り、確かにストーンゴブリンは間抜けにも明後日の方向を見ていて、僕らには気付いていない。


 ……やるしかないのか?

 僕が生き残る為には、魔物を倒してソウルウェポンに認めて貰うしかない。

 僕は、死ぬわけにはいかない……!


「――ッ!!」


 自分を叱責し、剣を抜く。

 剣を持つ腕は震えていたが、両手で柄をしっかりと握り、僕は走り出した。


「グギャァ? ギャッ!」


 二十メートルあった筈の距離が、五メートルにまで近づいた頃になって、ようやくストーンゴブリンはこちらの存在に気付いた。

 ゴブリンが鈍感で良かった。そう思いながら、僕は手に持ったショートソードを振りかぶりゴブリンに向けて振り下ろした。


「はぁっ!」

「ギギャアッ!!」


 やった……と、そう思った。

 しかし、振り下ろしたショートソードから伝わる感触に、僕は驚愕した。


「ギャギャッ!」

「うわぁッ!!」


 ストーンゴブリンの振り回した棍棒をバックステップによって、紙一重で回避する。


「あ、危なかった……」


 いや、それよりもさっきのは何だ?ストーンゴブリンを切った時の感触、あれはまるで岩石だ。


 肩口から袈裟斬りに振り下ろすつもりが、肩のところで刃が止まってしまったのだ。

 そういえば、先程モラルドが普通のゴブリンよりも硬いって言ってたな。しかし、これは硬過ぎだろう。


「透さん!首を狙ってください!」


 どこを切ればいいのか分からなくなっていたところで、信司くんから声が飛ぶ。

 首!?そうか、首なら柔らかいかもしれない!


「ギャッ!ギャ!」

「っと……」


 ストーンゴブリンが出鱈目に武器を振り回してきたが、それを距離を取って避けていく。

 ストーンゴブリンの動きはお世辞にも早いとは言えない。僕は攻撃をかわしながら相手の動きを観察する。

 暫く避け続ける事に専念していると、段々ストーンゴブリンの動きが読めるようになってきた。


「ッギャア!」


 ブンッ!

 と、振り下ろされるストーンゴブリンの棍棒。それを敢えてギリギリのところで僕は回避する。

 そしてガラ空きの首元目掛けて剣を振り下ろした。


「……セイッ!」


 ザンッ!と、手に握るショートソードから首を切断した感触が伝わってきた。

 声を出す事もなく地に倒れ伏し、やがてストーンゴブリンは動きを止めた。そうしてやっと、僕は魔物を自分の手で殺した事に気がついた。

 吐き気がした。人型の生き物を自分の手で殺してしまった事に不快感が込み上げてくる。


「はぁっはぁっ……うっ…」


 必死なって、吐瀉物が込み上げてこないように我慢する。

 そうやって奮闘していると、信司くん達がこちらに歩いてきた。


「おめでとうございます透さん……って大丈夫ですか?」

「はぁっはぁっ……だ、大丈夫……」


 大丈夫なワケがない。今にも吐きそうだ。


「まったく、あんな雑魚相手にどれだけ時間をかけるつもりだ」


 不快な声が耳に届く。モラルドか……。

 今は言い返す気力もないので、黙って我慢する。


「あんな雑魚は私たち騎士にかかれば瞬殺だ。なあ、お前たち?」


 そんな自慢されても、正直困る。

 逆に、国を守る騎士が迷宮一回層に出る魔物相手に苦戦してたら、国は終わりだ。


 そんな事を頭の隅で考えていると、信司くんがモラルドたちを睨みつけた。


「あなた方は……ストーンゴブリンを瞬殺できるのですか?」

「はい!そこの偽物とは違います!」


 モラルドは信司くんの怒った態度に気付かずヘラヘラと笑ってそう答えた。

 しかし本当に、人の気分を逆なでするような事ばかり言う奴だ。


「つまり、あなた方はストーンゴブリンの弱点が首だと知っていたのですね?」

「え?」


 信司くんの言葉に固まるモラルド。

 こいつ……知ってたのに、教えなかったのか?

 そう思い、モラルドを睨み付ける。


「い、いや……なんの事だか……」


 とぼけるな!

 目が泳いでるし、こいつ嘘が下手すぎだろ!


「では、貴方はストーンゴブリンの弱点は知らなかったと?」

「そ、そうです! 私たちはストーンゴブリンの弱点など、初めから知りませんでした!」


 苦しい言い訳だ。


「そうですか。それならあそこにいる、ストーンゴブリンを瞬殺してきてください」


 そう言って信司くんが指差す先には、一匹のストーンゴブリンがノロノロと歩いていた。


「ハッハッハ、あれくらいの雑魚、余裕ですよ」

「……分かっていると思いますが、いつも通りのやり方でお願いしますよ?」

「……いつも通り、とは?」


 モラルドは信司くんの言葉の意図が分かっていない。


「そのままの意味ですよ。 いつも通り、首を狙わないで(・・・・・・・)瞬殺してください」

「……え?」


 モラルドはストーンゴブリンの弱点が首だとは知らなかったと言っていた。それなのにいつも瞬殺していたという事は、首ではなく身体を切って倒していたという事だ。


「ストーンゴブリンの弱点を知らなくても瞬殺できるんですよね?」

「い、いや……それは……」


 出来る筈がない。あの岩石のように硬い皮膚を剣で切断するなど、話に聞いた『力の勇者』でもなければできないだろう。

 モラルドが悔しそうな顔でこっちを睨んでいるが、完全に自業自得だ。


「どうなんですか?」

「……す、すみません」

「何を謝っているんですか?」

「その、嘘を吐きました」


 子供か……。


「どっちですか。弱点を知っていた事ですか? それとも、瞬殺出来ると言った事ですか?」


 前者は嫌がらせで嘘を吐いた事になり、後者はただの見栄だ。

 一見後者の方が罪は軽いように見えるが、それは違う。

 間違っても、『瞬殺出来ません』なんて言ってしまったら、この国の騎士はゴブリン相手に手こずっているという事になる。

 それはモラルドも分かっている筈だ。……分かってるよね?


「……弱点を知っていたのに、教えませんでした」

「そうですか」


 そう言って、信司くんは話を打ち切った。もう話す事はないとでも言うかの様に。


「では、先に進みましょう透さん」

「う、うん……」


 信司くん、凄い怒っているみたいだけど、何か気に障るような事でもあったのかな……気になるけど、ここは迷宮の中だ。

 余計な思考は捨てて、先へ進む事に集中する。


 パーティ内はギスギスした状態で先へと進んで行った。









迷宮の中で余計な話しをしていますが、しっかりと周りは警戒しています。

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