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ソウルウェポン -心の勇者の奮闘記-  作者: 智風
第一章「異世界召喚」
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第七話「前準備」

 

 ようやく話が終わり、僕たちはそれぞれの部屋へと戻っていった。早速、明日から戦いの日々が始まる。大貴くんと正弘さんはパーティメンバーを集める為に明日は迷宮に入らず、仲間集めをするみたいだ。パーティメンバーを集め終わったら、それぞれの勇者は別々の地域に移動し、各地にある迷宮を攻略しなくてはならないらしい。

 それが一番、効率がいいんだとか。


 今日みたいに一緒に食事する事も、今後は無くなるのかもしれないな。明日には僕と信司くんは迷宮に入るわけだし、それが終わったらみんなバラバラだ。

 そもそも明日を無事に乗り切れるかどうかもわからないんだけど……


「あぁー緊張するー」


 ベッドの上で頭を抱える。

 明日は上手くいくだろうか?いきなり魔物と戦闘になっても怯えずに戦えるだろうか?騎士の人たちと上手くやれるだろうか。

 色々と不安に思う気持ちはある。だが、それ以上に安心できる要素もあった。

 それは信司くんの存在だ。きっと彼がいれば、どんな状況に陥っても上手く立ち回り、最善の方向へと導いてくれるだろう。

 他力本願なのは分かってる。半分盲信の様なものだ。でも、それほどまでに彼は僕にとっての救いになっていた。


「信司くんがいれば、大丈夫さ」


 そう自分を励まして、僕は目を瞑った。

 大丈夫だ……きっと大丈夫……。



――――



 朝になった。

 結局、あんまり寝れなかった……。


 身体を起こして外を見ると、憎たらしい程に太陽の光が差し込んでいる。


「はぁ……」


 溜息しかでない。


 コンコン


 部屋のドアがノックされた。

 また昨日のメイドさんだろうか。朝からあの無愛想な顔を見せられると思うと、気分が滅入るなぁ。

 そんな事を考えながら、ドアに向かい、ガチャり……と、ドアを開ける。


「って、えぇ!?」


 現れたまさかの人物に驚く。

 そこにいたのは昨日のメイドではなかった。


「おはようございます。 透さん」

「お、おはよう」


 本当に、彼は僕を驚かしてくれる。


「朝からどうしたの? 信司くん」


 僕の部屋に訪れたのは昨日のメイドではなく、赤坂信司だった。



――――



 彼のスペックには、本当に驚かされてばかりだ。

 信司くんは朝食に向かう途中に僕を迎えに来てくれたらしいのだが、なんと彼はメイドを連れていない。

 確かに、昨日は僕の部屋の前で別れた。だから僕の部屋の場所を知っている事はそんなに驚きではない。

 僕が驚いたのは、彼が食堂までの道を完璧に記憶している事だった。


「あれ?案内のメイドさんは?」


 そう質問した僕に対し、彼は――


「昨日通った道は覚えたので、必要ないですよ?」


 ――と、素で返したのだ。

 記憶力が良いっていうより、彼は賢いのだろう。何度も思うが、流石『知恵の勇者』に選ばれただけはある。

 因みに僕は方向音痴だ。



 五分程歩けば昨日のホールに辿り着いた。僕たちは、早速自分たちが食べる料理を皿によそい、席に着いた。

 昨日よりも人が少ない。朝だからというのもあるが、まだ時間が早いというのも理由の一つだろう。


「あれ?透さん、それだけですか?」


 僕の皿に余り食べ物が乗っていないのを見て、信司くんが首を傾げる。


「うん。余り食欲がなくて……」

「そうですか……でも、食べないと力が出ませんよ?」

「それは分かってるんだけど、どうしてもね……」


 僕を心配してくれているのは嬉しいのだが、迷宮に入る事を考えるとどうしても緊張と恐怖で胃がキリキリと痛むのだ。

 僕は昔から緊張に弱い体質だった。


 朝食を食べている間も、僕の緊張が和らぐように信司くんが色々と言葉を掛けてくれていたが、僕はそれに対して、側からみても辛そうに見えるであろう笑みを返す事しかできなかった。

 信司くんには、悪い事をしたな……



 結局、朝食は殆ど喉を通らなかった。

 食事を終えた僕と信司くんは、昨日の広場で騎士の人達を待っていた。昨日、広場に集合するように言われたからだ。


 十分程待っていると、騎士の人達が

 数人歩いてきた。


「おはようございます、シンジ様」

「「「おはようございます!」」」


 先頭を歩く騎士が挨拶をすると、その後ろにいる騎士たちも信司くんに挨拶をする。

 ……僕は無視かい。


「はい、おはようございます。今日はよろしくお願いしますね」

「あ、よろしくお願いします」


 信司くんに続き、僕も頭を下げておく。騎士たちは僕を一瞥すると、フンっと鼻をならし、信司くんだけを見る。

 とことん僕を無視するつもりのようだ。初っ端から雲行きが怪しくなってきたぞ……。


「私は二番隊隊長の、モラルドです。今日の迷宮探索は、我々八人が参加致します。私を含め七人が戦闘要員、一人は荷物持ちです」


 二番隊隊長のモラルドはそう言って、一人一人自己紹介させていく。八人の内、一人だけ大きな袋を背負っている騎士がいた。きっと、この人が荷物持ちなのだろう。あの袋の中には迷宮で使うアイテムが沢山入っているに違いない。


「はい。ボクも今日が始めての戦闘なので、色々と学ばせて貰います」

「勇者様には一週間もあれば追い抜かれてしまいますよ」


 ハッハッハ!とモラルドが笑うと、その他の騎士も笑う。

 僕も一緒に笑っておこう。

 ハッハッハ


「おっと、忘れてました。勇者様、これをお付けになってください」

「これは?」


 そう言ってモラルドが部下から受け取ったのは、鉄で出来た胸当てだ。


「これは魔法銀(ミスリル)で出来た胸当てです。魔法銀は使用者の魔力に反応して強度を高めるだけでなく、その重さまで軽くしてしまう優れものです」

「それは凄い。ありがとうございます」


 信司くんは胸当てを騎士に付けてもらう。


「勇者様、これもどうぞ」


 そう言って信司くんに渡したのは、グローブだ。


「これは、アースベアーの毛皮で出来たグローブでして……」


 …………


 それから暫くして、ようやく信司くんの装備が完成した。

 信司くんはパワーよりも、スピードタイプらしいので、殆ど重さを感じない装備で固めてある。

 見た目は凄い重そうだけど、全然重くないらしい。僕もなるべく軽い装備がいいなぁ。


「準備が整いましたな。それでは迷宮に向かいましょう」

「えぇ!?」


 堪らず声を上げる。

 どういう事だ。僕の装備は?


「どうした?マミヤトオル」


 僕の事は呼び捨てか!

 いや、そんな事はどうでもいい。それより大事なことがある。


「僕の装備はないんですか?」

「貴様の装備?そこにあるだろうが」

「ど、どこ?」


 モラルドが指差す先、そこは僕の身体だ。

 何を言っているのだろうこの男は。僕の格好は誰が見ても私服そのものだ。それとも、男の武器を持っている……とでも言うつもりなのだろうか?それならみんな持っている。


「装備なら、貴様の身体の中に入っているだろうが!」

「身体の中……」


 僕の身体の中?なんだろう、とても嫌な予感がする。


「そうだ。貴様の身体の中には、ソウルウェポンという、伝説の装備が取り込まれているだろうが!」

「――ッ!?」


 それは……確かに入っているけど。あまりにも酷い言い草だった。僕はそのソウルウェポンを武器に出来なかったから、ここにいると言うのに。


「な、なら。防具は!?」

「貴様に防具など必要ない! 全て避けろ!」

「無茶苦茶だ!」


 そんなの無理に決まってる!

 僕は恨みの感情を込めてモラルドを睨み付ける。


「いい加減にしてください」


 そんな僕とモラルドのやり取りを黙って見ていた信司くんだが、ついに口を開いた。


「なんなんですか、さっきから。余りにもあなたの言動は目に余ります。透さんは武器を持っていない。その事はこの場にいる全員が理解している筈です」

「で、ですがーー」

「この国の騎士は、弱い者いじめを楽しむ非人道的な方々なんですか?」

「いや、そういうわけでは……」

「それなら、早く透さんの装備を持ってきてください」

「は、はい!」


 モラルドはどこかへと走り去った。

 それにしても、やっぱり信司くんは凄いなあ。


「ありがとう、信司くん」

「まあ、こういう展開になる事は予想してましたけど、まさかここまで酷いとは思いませんでしたよ」


 僕は予想すらしてなかったけどね。

 そんな事を考えていると、モラルドが走って戻ってきた。


「はぁ…はぁ…も、持ってきました……」


 モラルドが持ってきたのは、信司くんと同様の胸当てやグローブ、それとショートソードだった。


「嫌がらせで重い大剣を持ってくると思ってましたが、ちゃんと軽い剣にしたんですね」

「ッ、は、はい勿論ですよ」


 あの反応は持ってくるつもりだったな。きっとギリギリで頭が働いたのだろう。大剣なんて持ってきても、僕に背負える筈がない。そんな僕をみたら、信司くんはモラルドを叱るに決まっている。


「よいしょっと」


 ショートソードを手に持ってみる。

 ズッシリと重い。これは魔法銀じゃないのかな?そう思い、モラルドを睨む。


「魔法銀のショートソードは、在庫がない、これは本当だ」


 むう。嘘は言ってなさそうだ。

 信司くんも何も言わないし、本当なのだろう。

 胸当てなども騎士の人に付けて貰うが……


「お、重い……」


 これも魔法銀じゃないのか!


「どういう事ですか?」

「ま、魔法銀の防具はシンジ様が付けている物が最後です!」


 なんだって?それじゃあ、これはただの鉄?

 信司くんがモラルドを睨み付けるが、モラルドは焦ったように早口で弁解する。


「では、僕は普通の防具で良いので、トオルさんの物と替えてください」

「え!?い、いやいやいや」


 信司くんは、何かおかしな事を言ったか?とでも言いたげな顔を僕に向ける。


「信司くんが重い防具を付けたら、動ける人員まで動けなくなっちゃうじゃないか。僕なんて、何を付けてもどうせ動けないんだから、普通ので充分だよ!」

「いや、でも……」

「それに、僕は自分を追い込まないと駄目なんだよね?それなら、尚更楽をしちゃ駄目だと思うんだ」


 信司くんからしたら、弱い僕にはなるべく強い防具を装備してほしいのかもしれない。しかし、そうやって甘えていてはいつまでたっても意志を固める事なんてできはしない。


「……わかりました。でも、もし辛かったらすぐに言ってください。その時は僕の防具と替えて貰いますよ?」

「うん。わかったよ」


 信司くんにも納得して貰えたので、僕は鉄の防具を身体に付けていく。

 身体全体に付けたら、本当に重さで動けなくなってしまうので、胸当てとグローブだけだ。

 あとはショートソードを腰のベルトに下げた鞘に入れる。


「これで準備完了かな?」

「そうですね。では、モラルドさん、迷宮に案内してください」

「は、はい!」


 モラルドが先頭を歩き、その後ろに信司くんと僕。そしてその後ろに荷物持ちの騎士の人で、最後尾に残りの騎士だ。

 僕がメインで戦い、信司くんと二人の騎士が状況に応じてサポートに入ってくれる。その他の騎士の人達は周りの警戒だ。

 そういう配置を指示したのは信司くんだ。モラルドに任せると、平然と僕を先頭にするだろうから。


 迷宮に向かうまでの間、信司くんが迷宮内部の情報をモラルドに聞いている。

 今から僕のたちが向かうのは、『大地の迷宮』と呼ばれている場所で、岩の様に硬い魔物ばかりが生息しているそうだ。

 他の地域では、『火炎の迷宮』、『風塵の迷宮』、『碧水の迷宮』と呼ばれている迷宮があって、勇者はそれぞれが担当する迷宮を主に攻略しなければならない。

 聞いてみたところ、大地は広正さん。火炎は大貴くん。風塵は信司くん。碧水は僕の担当らしい。

 なんでも、迷宮攻略にも相性があるんだとか。


「迷宮に着きました」


 そんな事を話している内に、迷宮に辿りついた。


「ここが、迷宮……」


 洞窟の様な入り口、少しずつ下に降りていくのだろう。ここからでは先が暗くてよく見えない。


 緊張してきた……この先に魔物が沢山いる。そう思うと、嫌な汗が背中を伝った。


「では、入りましょう」


 こんな時でも、信司くんは余裕を崩さない。僕たちは信司くんの言葉を合図に、迷宮の中へと入って行く。


 ――こうして、信司くんをリーダーに僕たちは『大地の迷宮』へと足を踏み入れたのだった。








モラルドが特別意地悪なわけではありません。今回はたまたまモラルド率いる二番隊だっただけで、他の隊でも同じようなイベントが起こったでしょう。


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