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ソウルウェポン -心の勇者の奮闘記-  作者: 智風
第一章「異世界召喚」
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第五話「罪」

 


 し、死刑……?僕が、死刑?

 意味がわからない。どうして僕が処刑されるんだ……。


「処刑だー!」

「そんな奴殺しちゃえー!」


 周りから好き勝手に声が飛び交う。

 そんなに、僕のことを殺したいのか……?

 僕が君たちに何をしたんだ?


「さあ、早く縄で縛るのじゃ!」


 王様がそう命令すると、甲冑を着た騎士の様な人達が僕の方へ歩いてくる。

 ……嘘だ、嘘だ!死にたくない……!!


 必死に抵抗し、騎士から逃れようとするが、敵わない。

 僕は勇者なんかではない唯の高校生で、相手は鍛え抜かれた大人の騎士だ。

 圧倒的な力の差で僕は取り押さえられる。

 もう、ダメだ……。


「ちょっと待って下さい!」


 騎士に組み伏せられ、縄で拘束されそうになった瞬間、一人の少年の声が広場に木霊する。


「大丈夫ですか?」

「き、君は……」


 目の前まで来た少年の顔はとても優しげで、僕より体格が細く、身長も低い。

 彼は、僕から騎士たちを引き剥がすと、王様を睨み付けた。


「王様、これは流石にやり過ぎです」

「……これはどういう事なのだ?」


 僕を助けた彼に対し、王様は怒りを露わにしている。

 どうして彼が?


「どういう事なのだ! 勇者シンジ!」


『知恵の勇者』……赤坂信司は僕を助けてくれた。


「信司くん……どうして僕を?」

「そんなの、助けるに決まっているじゃないですか」

「――え?」

「貴方はここで死ぬべき存在ではない」


 そう言って僕の腕を掴み、立ち上がらせてくれる。

 理由は分からない。理由なんてないのかもしれない。でも、それでも…。


「信司くん……」


 今の僕にとっては、彼こそが唯一の味方だった。この世界で初めて、僕の味方になってくれる存在が現れた。そう思った。そして、それがとても嬉しくてたまらなかった。


「ありがどゔ……」


 自然と涙がボロボロとこぼれ出し、止まってはくれない。

 辛かった。この世界でたった一人になってしまったと、そう思った。誰も僕の味方はいないと、そう思った。

 でも、違った。信司君は、こんな状況になった僕を助けてくれた。


「どういう事だと、聞いておるのだ。勇者シンジよ」


 しかし、王様は信司くんの行動を快く思ってはいない様で、今にも怒りが爆発しそうな様子。

 このままだと、僕の所為で信司くんまで処刑されてしまうかもしれない……それは、駄目だ。


「信司くん、僕の事は良いから……君は早く王様に謝るんだ」

 

 信司君まで僕と同じ目に合わせるわけにはいかない。そう思い、話しかけたのだが。

 しかし、信司くんは僕の事を見てはいなかった。その強い意志を宿した瞳はただ一点、王様の顔で固定されていた。


「王様、彼は確かにソウルウェポンを出す事が出来ませんでした」

「うむ、それが問題なのじゃ」


 信司くんの静かな物言いに、王様も少し冷静さを取り戻したようだ。しっかりと会話が成立している。

 信司くんには何か考えがあるのだろうか……?


「しかし、彼が今後もソウルウェポンを出す事が出来ない……と判断するのは、少し早計に過ぎます」

「なんじゃと?」


 信司くんの静かな、しかし力の入った熱弁は続く。


「ボクたちの世界にあった娯楽の話ですが、こういうモノがあるんです」

「申してみよ」


 そう言って、信司君は話始めた。


「戦いの才能がない少年がいた。少年は無理やり戦場に駆り出されると、最前線で戦う事になった。彼はそこで敵に囲まれ、死を覚悟する」


 先ほどまでの喧騒が嘘の様に、信司君の語りだけがこの場を支配していた。

 

「殺される寸前、その身に死が迫った瞬間、少年は覚醒した。そして、歴代の英雄さえも凌ぐ力を手に入れた彼は、敵を殲滅し国を救いました。と言う話です」

「ふん! 所詮娯楽の中の話じゃ!」


 信司くんの語りに対して、王様はどこまでも辛辣だった。

 確かに、僕もそう思う。信司くんはどうしてしまったんだ?


「確かに、娯楽の中の話です……が、そんなに的外れな話でもないと思いますよ」

「なに?その根拠は?」


 王様の問いに対し、信司くんはニヤリと笑う。

 何を言うつもりなんだ……。


「重要なのは、『死が迫った瞬間』に少年が覚醒した事です。ソウルウェポンは魂の武器……つまり、その者の心が反映される武器なんです」

「つまり、どういうことじゃ?」


 まさか……。


「少年……つまり、この場合だと透さんです。彼を戦わざるを得ない状況に置き、心をギリギリまで追い込むんですよ。そうすれば、戦う心にソウルウェポンが反応して武器が出るでしょう」

「ふむ……一理あるかもしれぬな」


 やっぱりそういう事か。確かに、僕が生き残るにはその手段しか残されていない……かもしれない。

 王様も納得しかけているし、信司君は凄いな……。


「それに、彼の手首を見て下さい。しっかりと勇者の証である腕輪が嵌っています。それが意味するのは、ソウルウェポン自身が彼を主と認め、彼の身体に取り込まれたという事に他なりません。つまり、ソウルウェポンに認められる意志の強さは充分に持っているはずなのです」

「う、うむ……」


 おお、王様が押されている。

 凄いよ、信司くん。次から次へと、よくそんなに出鱈目が出てくるもんだ。

 この頭の回転は、流石『知恵の勇者』とでも言うべきか。


「故郷の国に帰りたい。そう思う事は普通の感情です。むしろ、その愛国心が彼を強くし、戦場で長生きさせてくれる事でしょう」

「……」

「彼の処刑は、まだ行うべきではありません」


 王様は暫く思案顔だったが、諦めた様な表情になると信司くんの言葉を認めた。


「確かに、奴にはまだ可能性が残されているかもしれぬ。分かった、処刑は見送ろう」

「ありがとうございます」

「じゃが、もし奴がソウルウェポンを出す事が出来なかった場合、先程の通り処刑する!」

「それは、彼もわかっていると思いますよ」


 そう言って、僕を見る信司君。

 うん。わかっている、これは僕に与えられた最期のチャンスだ。


「ありがとうございます、王様。必ずソウルウェポンを出してみせます」

「ふん! 期待せずに待っておるわ」


 とりあえずは、首の皮一枚で繋がった。本当に信司くんには頭が上がらない。


「ありがとう、信司くん。このお礼は絶対にするから」

「お礼なんていいですよ。ボクは透さんが死なないでくれただけで、嬉しいですから」

「信司くん……ありがとう」


 信司くんの優しさに、また涙が出そうになった。

 なんて優しいんだ。彼こそ、『心の勇者」に選ばれるべきではないのだろうか?僕なんかより、よっぽど『心の勇者』をしている。


「では、明日から早速『迷宮』に潜って貰う。そこでソウルウェポンが出せなければ異邦人トオルよ、貴様は処刑じゃ」

「あ、あの。『迷宮』とは?」


 突如知らない単語が出てきて戸惑う。


「迷宮というのは、魔物の巣窟じゃ。魔王を倒す為には、まず全ての迷宮を攻略しなければならない」

「魔物の巣窟……」

「現在、冒険者や騎士によって、迷宮は八階層まで攻略済みじゃ、しかし迷宮が何回層まであるのかは、未だわかっておらぬ」


 明日その迷宮に入って、魔物と戦うわけか……。


「明日の迷宮で必要な物はこちらで用意する。迷宮探索の人員は監視も兼ねて、騎士の者を同行させる」

「はい」


 良かった、一人で入るのかと思ったけど、仲間がいるなら心強い。

 そう思っていると、隣に立っている信司君が手を挙げた。


「王様、ボクも明日透さんに付いて行っても構いませんか?」

「なに?」

「え?」


 信司くんが、僕に付いてきてくれる?

 そうなってくれたら、僕は嬉しいけど……。


「勇者シンジが変わりに魔物を倒しても意味がないのではないか?」

「それはわかっています、飽くまで、ボクはサポートですよ。騎士の人達だけだと、透さんを平気で見殺しにしてしまいかねないので」


 そう言って、信司君は騎士の人達をジロリと見る。

 騎士の人達は思うところがあるのか、目線を逸らした。

 危なかった……騎士の人達だけだったら僕は魔物に襲われても助けて貰えなかったのか。


「ふむ。そういう事なら、同行を許可する。じゃが、不正を働いても騎士がしっかりと見張っているという事を忘れるでないぞ?」

「わかっています」


 良かった。信司君がいれば心強い。

 僕を守ってくれた彼に恩返しする為にも、絶対にソウルウェポンを発現させてみせる!



 ――こうして、次の日僕は信司君と騎士の人達と共に魔物の住まう迷宮へと入る事となった。






主人公の透は馬鹿ではありません。普通に頭の回転は速いほうです。

しかし、唐突に慣れない環境に放り出され、謂れのない罪を着せられ、挙句の果てに死刑などと言われれば、状況について行けなくなるのは必然です。そして、それは大貴も正弘にも言える事です。三人はこの状況に混乱しています。

しかし、信司という少年は例外です。彼は所謂天才と呼ばれる人種です。なので、この状況の中でも自分を正常にコントロールできているのです。

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