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シークエンス8.5:魔王側の一日

◆????

「ウ、ム……Zzz……フランケンシュタイン!」

 ガバッと飛び起きて魔王起床。どんな夢だったんだ。つか世界観を潰してくれるな。

 周りを注意深く見回してから息を吐く。

「奴は居ない。つまり仕事をサボれる。さて、寝直すか」

 魔王だろうが何だろうか仕事は嫌らしい。

 中間管理職ちゅうぼすに命令したのも自分が行くのが面倒だったからとか。

「Zzz……」

 早っ。横になり直してからまだ五秒と経っていない。

「魔王さん起きて下さーい」

 なんか幼そうなのが入ってきた。

 青色のローブらしきものを着ている。

「Zzz……嫌だ」

 返答してる辺り実は起きているのだろう。

「えーそんな起きて下さいよぅでないとオレってばあの堅物にに鉄拳制裁されちまいます鉄拳制裁と言えばうちの妹はどこ行っちまったんですかね昨日から見掛けないんですがって全く鉄拳制裁と関係無い質問ですけどもその辺どーなんでしょーねー?」

 早口でフルオートのマシンガンのように喋り散らすちんまいの。

 後半辺りはほとんど関係無い。

「知らん……Zzz」

「どれに付いての返事なんですか今の?」

 シカトを決め込もうとした魔王に更なる攻撃が迫る。

「うちの妹って言えば仕事もてきとーにやってどっか行っちまいましてねオレに残りが降りかかって大変なんですよっとそうだ仕事と言えばこれ追加の書類ですから今日中に終わらせて下さいね」

「何っ!?」

 決め込んだ意志はあっという間に《書類しごと》の前に決壊した。

 バッと跳ね起きた魔王が見たのは何時も机にある(自分のやる気が起きないからちっとも進まない)一週間放置された書類の横に置かれる直前の同じ位の量の紙束。

「吾を殺す気か!?」

「そんなめっそーもないですよー死ぬ一歩手前ぐらいが関の山ですよ死ぬ一歩手前と言えば……」

「蛇足はもう良い。クソ、今日中って有り得ないだろ」

「今までやってない付けですよー付けって言えばあの堅物がこの前ツケで呑んでたような気がしますねー『早く払え』って催促の手紙なんかが来てましたぜそんじゃオレはこの辺で」

 フェードアウトしようとするちんまいの。

「待てテレス」

 魔王はあの口うるさい秘書をそのネタでからかってやろうと考えながらちんまいの(テレス)を呼び止めた

「はいはーいなんか用ですかね用事と言えばご飯が冷めますよー冷めたご飯は不味いっすよー」

 さっきからテレスの声には切れ目が無い。

「すぐに食べに行く。そんな事より指令だ。お前は今日は吾の仕事を手伝え。これは命令だ」

 テレスは物凄く嫌そうな顔をして

「嫌ですよーオレにだって仕事在りますし仕事と言えば妹のやつは多分フィルグラ渓谷で釣りしてやがると通信が今来たんで迎えに行かなきゃならねーんですぶっちゃけだから手伝えねー」

 と言ったが、魔王は笑って

「多分ってなんだよ通信だろう?まあ良い、アリスにも吾を手伝わせるか……問題はやかましい事なんだが……」

 魔王がブツブツ言ってる間にテレスは逃げ出した。

「ふふん、何にせよ飯からだな」

 魔王は食堂へ降りて行った。


◆フィルグラ渓谷

「アリスー?」

 テレスは急斜面をものともせずに走り、水面を沈むことなく滑った。

「テレステレスー。こっちこっちー」

 テレスは声のした方を向く。

 そこにはテレスと瓜二つの女の子、アリスが居た。

 違うのは髪の色と長さと服の色。

 テレスは銀の髪でショート。アリスは金の髪でロング。そしてアリスの服は赤い。

「どしたのさ〜?」

「アリスがサボるからオレもサボリに来たんだサボると言えばアリスの仕事が全部こっちに回って来て大変だったんだからね」

「ごめんごめん。じゃあさ――」

 その時、ポーン、と音がした。

『テステステース。フィルグラ渓谷で仲良くくっ喋ってる兄妹。魔王様がお呼びだよ。繰り返すフィルグラ渓谷で――』

 仲の良い兄妹のサボタージュは突然の声によって遮られた。

「無視しようか」

「うん」

『尚、この呼び掛けに応じない場合は汝等二人揃って第七懲罰房行きにするからそのつもりで』

「やっぱり帰ろかうんサボリは良くないよねサボリと言えば魚は釣れたの?」

「いや、全然。それより早くしないと《魔の動力炉》に送られちゃうよ!」

 第七懲罰房、通称《魔の動力炉》。ひたすら棒を押すだけの退屈な作業。

 どの懲罰房より金が掛けられておらず、さらにどの懲罰房より精神力を削ぐ事が出来る画期的な懲罰房、らしい。

 出てきた者は余りの無意味さの為記憶が飛んでいるとか。

 間違い無くそんな所に送られるのは御免被りたいようだ。


◆????

「終わる訳無いじゃないか」

 兄妹が帰還するまでに仕上がった書類の枚数およそ五百枚。

 終始『仕事に対する情熱』の欠如したこの魔王にしては頑張った方だろう。

 書類と云うのがまた面倒で判子を応か否に押さなければならない。

 簡単じゃないか、と言う人も在るだろうが、何が面倒なのかと云うと要求している文に目を通すのが面倒なのだ。

 魔族と云うグループの王だから出来ねばなるまいというわけなのだが

(分かるかよこんな文字!)

 魔族には統一された言語が何故か無い。

 どこぞやのうんたら族の言葉〜とかいずこやのなにがし族の言語〜のような妙な言語ばかりである。

 特に読みづらいのが

(『き』とか『う』しか書かれてねーのにどうろと!?)

 ゴブリン辺りでしか使われていない言葉。

 分かり易く例えればアフリカとかの一部族しか使わないような言葉である。

「遅くなりましたー」

 アリスとテレスが帰ってきた。

「ああ遅い遅い!とっととこれをするんだ!」

 突きつけたのは先程から進まない謎の言葉ばかりが書いてある書類と一枚の紙。

「此処に許可しても良いことが書いてある。これに当てはまらない場合は『否』の方に判子を押しておけ」

「はいはーい了解しましたよー了解と言えば――」

「いや、いいからやってくれ」

 三人の間に沈黙が下りる。

「そういえばさー」

 一分弱だけ。

「口じゃなくて腕を動かせ」

 口は動かないが腕も動かしていない自分の事を棚に上げて喋り始めようとしたテレスを黙らせる。

 そして三分置きくらいの間隔で同じ問答が繰り返された。


「終わった終わった終わったと言えばオレの仕事はまだ手付かずじゃないですかどうしようオレのも今日までなのに!」

「まーまー後であたしが手伝ってあげるからさ」

 慈愛に満ちたような顔でテレスの手を握るアリス。

「アリス……」

 テレスは涙目になって

「いや君の仕事の皺寄せがこっちに流れてきてるだけだから君が全部やれば良いんだよ皺寄せと言えば君も今日までの仕事が掃いて捨てる程残ってるよこんな所で魔王様の仕事手伝ってたら終わらないけど良いの?」

 はおらずにアリスを引っ張って行った。

「え?あのちょっと、テレスー?」

「お騒がせしましたーお騒がせと言えばアリスがこの前破壊した広場の噴水の件についても始末書が今日まで」

「うそ!?手伝ってお願いへるぷみー!」

 あ゛ー!と言いながら二人は消えていった。

「なんなんだ全く、仕事が出来ないとは」

『御自分にも当てはまるのを分かって言ってますか?』

 後ろに気配。

「……今まで何処行ってたんだ?仕事が上手く進まなくて困ったんだが?」

『それに関しては仕事をほったらかしにした貴方が悪いのでしょう?上手くじゃなくて全く出来ないのでしょうし』

 テレス曰わく堅物がそこに居た。

「今度は何処でツケで呑んできたんだ?」

 早速テレスに聞いた事で揶揄からかおうとするが

『ほぅ、ツケに気付いたんですね。だったら早く給料払って下さい。家計が火の車ですから』

「は……?」

 魔王の頭の中で高速で検索される。

 ぽく(きゅいーんかりかり)、ぽく(かりかりかり)、ぽく(かりかりかりかり)、ちーん(検索終了。ヒット件数四)。

「おぉ」

『分かりましたか。二ヶ月分払って下さい』

 その倍支払われていないことには気が付いていない。

「国だって火の車だ」

『一人分の給料くらいの払って下さい』ごもっとも。

 実際、アリスやテレスには支払われている。

『まあ、それは置いておいて』

「うん?」

 置いといていーんだーなどと魔王が考えていると

『勇者が動きました』

「へえ……」

 顔が締まる。

「今度のはなんだ?演説?説得?泣き落とし?命乞い?どれも無駄だろうが」

 歴代の打倒魔王を目標にしてきた勇者も大体来れたのはあの町までである。

 どれを選んでも殺されるのだが、勇気ある者である勇者は大抵正義だのなんだのを掲げて説得しようとして死んでいった。

(まあ、今代の勇者に限ってこれらは無いよな謎の戦法。生きて帰ってきた蜥蜴兵リザードマンは居ない、全員無残な姿で転がっていたとか)

 実際に現場を見たわけでは無いから断言出来ないが数も合わないとの事。

 粉に成るまで徹底的に殺されたのだろうと魔王は推測する。

『いえ、それが余りにも勇者らしからぬ行動で』

 一息置いてから

『町人を殺し始めました』

「……そうか」

 予想が外れてはいなかったような顔。

『驚きませんね』

「ああ、予想してたしな」

『じゃあ他には?』

「正義とも言ってはいないんだろう?」

『ええ手当たり次第に殺しています。魔族こちらがわだってそこまではしません』

「違うな。抵抗する素振りがあれば殺しているんだろ」

『分かるんですか?』

「いや、なんとなくね」

 見えるはずも無いが町の方の窓に目をやる魔王。

「今回の勇者には気を付けろって言ったのが当たったろ?」

『そうですね。それじゃ少し真面目な話をしましょうか』

 近くの椅子に腰掛けた秘書が真正面から魔王を見る。

「な、なんだ?」

『勇者はまだ暫く来ないのでさっさと仕事を終わらせてください』

 まだ山積みの書類を指して言った。

「だー!お前は二言目には書類書類と!たまには!遊んでこいとか!言えっての!」

『何時も遊んでいる人が何を言い出すのやら』

 ぎゃーぎゃーと言い争う二人の声が部屋に響いていた。


「アリス寝るな寝たら仕事が進まないぞ」

「駄目だよテレスー。あたしはこんなに出来るわけ無いの〜」

 やる気がなさそうな妹にテレスはそっと耳打ちした。

「第七懲罰房」

「ひゃい!やります!」

(うわっ懲罰房って効果抜群懲罰房と言えば入った事無いのに何でこんなに恐がるのか分からないな)

「ボーっとしてないで手伝ってよー!」

「はいはい」

(オレってば実動部隊なのになんでデスクワークしてないといけないんだ実動部隊と言えばそろそろ任務に当たるのかな?)

「さっすが双子!筆跡もそっくりじゃないの?」

「オレが頑張って似せてるの」

(まあどんな指令が来てもやるしか無いんだけどねオレってばマジで忠実な駒だもん駒って言えばアリスに盤上で勝った事無いな)

 妙な思考をしながらテレスは手を進める。

「終わらないー」

「頑張れー」

(まぁ今のうちに対策の一つや二つは考えておくべきだねと考える……今日の夕飯ってなんだろう?)

 聡いのか阿呆なのかいまいち分からない思考である。

 この会話も終わるまで二分置きくらいでしていたとか。

まあ読まなくとも次の話は分かるんですけどね。

テレスの台詞が読みにくいかも知れませんが目を瞑ってやってください。

ルビが振れるようになりました!(遅)

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