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シークエンス8:二重人格ってどーよ?(前編)

◆スナエムの町

 声が聞こえる。

『劣悪種!』

『邪魔なんだよ!』

『死んじまえ!』

『シンジマエ!』

『シンジマエ!』


「うっ……」

 茂は気絶させられた時の後頭部の痛みで目が覚めた。

(……此処は、スナエムとかいった町か。うし、自問自答が出来る。記憶障害、言語障害は無し)

 続いて今現在の自分の状況を整理する。

(椅子に座らされて後ろ手で縛られている、か。縄は普通のもの。当然ながらコートは脱がされてるな。ま、あんだけ凶器に成りそげな物を収めたコートなら脱がさない方がおかしいか)

 最後にどうしてこうなったか思考する。

(確か歓迎の席で一服盛られて後頭部を殴られたのか――)

 その時の光景がフラッシュバックする。

「う」

 殺意が湧き上がる。

 自分がどうしてこんな悪癖を持っているのかは未だによく分からないが取り敢えず抑えつける。

(どうせ動けないから関係ないんだがこの思考は駄目だ。一般人は殺したら駄目だ。とにかく、この場からの脱出を考えるか)

 一般人を殺すのは禁忌らしい。

 狭い部屋に一人。

 周りに使えそうな物は、皆無。

 現在自分には術を使う体力は、有る。

 現在地、不明。

 これらの条件下、最も効率的な脱出法を模索。

(いや、駄目だ。下手に動けば誰が死ぬか分からない。暫く寝ておく事にするか)

 最終的に必要なのは体力と生きようとする志し。 何時するか分からない脱出の時に備えて体力を温存する。

(まあ、頭も痛むしな)

 茂は再び眠りについた。


◆????

 カリカリ、ポンッとデスクワークの音がする。と、其処へ

『勇者を捕らえました』

「へー」

 魔王は筆と判子を止めてどうでも良さそうに言った。

『あの者達が殺すそうです』

「ふーん、適当ーに許可出しといて」

『何か御指示はありますか?』

「それ以外は別にぃー」『……如何なさいました?』

 今の魔王は明らかにぶーたれている。

「指示ったってアイツは吾の命令を頑張って遂げようとしてるから、此処で妙な指令出して現場をややこしくは出来ないだろ」

『そうですね』

「だからやること無いから暇なんだよ」

『やるべき書類の進行具合は?』

 未だに山積みの紙に指を向ける補佐官。

 魔界だろうが『国家』というシステム上に成り立っている以上、政治なるものがなければ存続不能。

「……面倒だからやらない」

『意味不明です。とっとと終わらして下さい』

「煩いな。もう嫌なんだよ書類なんて。目の毒だ!」

 机を足の裏で蹴飛ばして魔王が怒鳴る。

(……不機嫌な理由はそれか。まったく)

『言い切りましたね。でも駄目です。しないならもう手伝いませんよ』

「ぐっ……!」

 魔王の机の上の三倍の書類を片付ける補佐が手伝いを止めたら大変な事になるのは明白。

 結局はやらされるのだから少ないか多いかの違い。

「分かったよ。やりゃーいーんだろやりゃーよー!」

 だったら誰でも楽な方を取る。進んで苦を選ぶ者はそういない。

『そうです。やれば良いんです』

 またカリカリ、ポンッと音がし始める。

「そういやさ」

 作業の合間に魔王が問う。

『何でしょう?』


「アイツは上手くやれてんの?」


『……今のところは、と報告を受けております』

「今のところじゃ駄目なんだよ。最後までなと言っておけ」

『了解しました』

 カリカリ、カリカリ。

「そう言えば忠告はしておいた方が良いかもな」

『何をですか?』

 魔王は肩を叩きながら適当な返事をした。

「今回の勇者には気を付けろってな」

『はたまた、どうしてですか?』

「なんとなくな、報告を聞いていたら不安になったんだよ」


◆スナエムの町

 町民達は興奮していた。

 殺し合いではなく自分達に危険が無い一方的な殺害だからだ。

 身の危険は無く、加担している魔王側の意に沿い、尚且つ自分達の力に酔いしれれるから、この集団はそう云う集団だ。

「この前来たやつはみっともなく這い蹲って命乞いしてたよな。『お願いします命だけはー』だったかな」

 爆笑する。

 当然彼等は無理矢理服従させられているわけではない。自らの意思で進んで人間の敵に回ったのだ。

 彼等の仕事はここで魔王討伐に来た人間を叩き潰す事。

 故に彼等は同種殺しを躊躇わない。寧ろ楽しんでいる節さえある。

 いや、魔族の恩恵を預かる身。彼等にとって既に人間は同種族では無いのかも知れない。

「今回は若いよな。若い肉は良い音で千切れてくれるよなぁ」

 見ている人間が不快になりそうな笑みを皆が皆浮かべている。

 しかも心のそこから愉しそうに笑っているのだから始末に負えない。

「そろそろ行こうぜ。あんまり衰弱させると良い声で啼いちゃくれないぜ?」

「それもそうだな。まずはどいつから殺そうか?」

「確かしつこく起きてやがった男、あいつにしよう」

 茂の事だろう。

「そうするか。正直目が鬱陶しかったんだよな、あいつ」

 目が鬱陶しいが理由とは、殺される茂からすればいい迷惑だろう。


「……ん?」

 茂は誰かが来る気配で目が覚めた。

「なんだなんだ、御用か?誤用か、そーですか」

 取り敢えず惚けてみた。

(はぁ、手が痛てぇ)

 手首を縄で縛られている状態では痛くて当然。

「……嫌な世の中だ」

 ガムテープと違って手錠、縄の場合は間接を外して抜ける事が出来る事があるのだが

(生憎とそんな便利な技は持ってないんだよ)

 動かしたらぎしっと縄が軋む。

(まあ、晶ならそんなどうでもいい特技を持ってたかもしれないな。今度聞いてみるか)

 そして乱暴に扉が開いた。

「手が痛てぇからとっとと外してくれ」

 聞いてはくれないだろうけれども自分の要求を伝える。

「安心しろ。暫くしたら痛みが無くなる」

 入ってきたのは男一人。

 案の定聞いてはくれなかった。

「まあ、確かにこのままだと手首が腐って痛みと共に手首から先は無くなるだろうな」

 軽口を叩きながら扉の向こうに意識を向ける。

(コイツを入れて六人ね。しかもどいつもコイツも武装してるか)

「大丈夫だ。手首だけじゃなくて身体ともお別れさせてやる」

 凶暴、愉しそうにに笑う。

(うを、人殺しが好きなヤツの笑みだな)

「あー、そいつは勘弁。まだ死にたくは無いんでね」

 そう言いながら突破口を模索。

 このまま無理に扉の外に逃げ出す。解答・不可。自殺願望は無い。

 なら後ろの窓から飛び出す。解答・不可。この体勢じゃ何階だろうが死ねる。

 それならどうする?

 目の前の男は後少し放置しておけば茂の足を刈り取るだろう。

 最終的には殺されるだろう。

(まったく。ホントに嫌な世の中だ!)

「さてと」

 男が取り出した物、バトルアックスと呼ばれる代物だろう。

「啼く準備は出来たか?」

 心からこの状況を愉しんでいる

(やべぇ、今現在猛烈にアリネのドレスが欲しくなったぞ!いえーへんたーいだぜ!そいつで俺をどーする気だよ!?)

 ちょっと混乱気味の茂君。女の子じゃ無いから大して可愛くありません……女装させれば話は違うかもしれませんが。

 恐怖を煽る為か、ゆっくりと振り上げる男。

 死にたくなければどうするか?             カンタンダロ?■■■。

「なあ」

 それはしちゃ駄目だろ?タブーだ            ダガシナケレバシヌゾ。

「あん?」

 そいつは御免だがな。                 ナラジッコウシロ。

「お前から俺は見どう見える?」

 そうだな。コイツの返答しだいかな?          チュウチョスルナ。

「そうだな。さしずめ――」

 ちょっと黙れよテメェ。                シナレチャコマルンデネ。

「劣悪種の一匹だ。死ねバーカ」

 バトルアックスが振り下ろされた。

(……あーあ)

 意識暗転。                      イシキフジョウ。

「――めるよ」

       タッチかよ。           コウタイダ。

「あ?」

 

       アトハヤットイテヤルヨ。  ああそうかい。精々死ぬんじゃねーぞ。

「あなたは稀代のおおばかだ」

 サア、ヒサシブリノ『オモテ』ダ!           二重人格って言うのかねー?

「ははは、なんとでも言えよ。俺はこれが愉しくってしょうがないんだよ!」

 狂気に染まった嬉嬉とした顔。

 『茂』は足に来た刃を椅子ごと前転して縛られている手首で受けた。

 両手首が空中に飛ぶ。

「上手く避けたな!だがその腕で――!?」

 男の顔が驚愕で歪んだ。

 今ちょん切った手が『茂』にはもう癒着していて――否、生えていた。

 新しい手首が生え終わると『茂』と男の間に腕が落ちた。

「嘘だろ……?」

 『茂』は新しい手の感覚を確かめるように動かしながら言った。

「まさか。あなたは自分の目も信じられないのかな?」

 いつもの茂とは違う言葉遣い。

 そして近づいた『茂』が徐に男の手首に手を添える。

 あまりに自然な動きだった為に男は反応出来なかった。

 直後、男の手首があり得ない異常な力と嫌な音と共にへし折れた。

 手に力が入らなくなり、握っていたバトルアックスが床に刺さる。

「な、あ!?」

 魔力で強化されていた腕があっさりと折れた事に驚愕した男はまず己の目を疑った。

 目を擦ろうとして手に力が入らない事で現実と認識する。

「痛かったんだよ?」

 茂が痛そうな顔をする。

 そして次に男の足に手を伸ばす。

 また嫌な音と共に足があらぬ方向を向いた。

 間伐入れずに足首に踵を踏み下ろす。足首もあっさり折れた。

 あっという間に男は戦闘不能にされた。

 次の箇所を折ろうと『茂』の魔手が男に伸びる。

「ま、待て!俺はその……雇われたんだ!この町来るやつを片っ端からぶっ殺す為に!」

 全力で後ろに飛ぶ。足から物凄く嫌な音が聞こえて今度こそ本当に何も感じなくなり、動かなくなる。

 因みに勿論嘘だ。男は生粋のスナエム人(?)でありこの町から出た事も無い。

「そっか。ホントにおおばかだったんだ」

 普段より酷く幼稚な言葉使い。

「な、テメェ!」

 『茂』は、はぁと溜め息を一つ。

「あのさ、あなたはさっき心から愉しんでたよ」

 誰が見てもねと付け加えて丁度真ん中にあった自分の手首だった物を弔うように焼き尽くす。

「でもね、仮にそれがホントでもね?」

 振り返ってじり、じりと『茂』は距離を詰める。

 男は激痛を堪えて不自由になった身体を必死に鞭打って後退する。

 そしてふわっという効果音が付きそうなごく自然な笑みを浮かべて。


「僕はもう君ら全員を『殺す』って決めちゃったから」


 その貌は、幼稚園の子が蟻を何の殺意も無しに愉しみとして殺す時の無邪気な貌に酷似していた。

「あ……やめ……」

 久しぶりに恐怖から出た声だった。

 『茂』の腕が男の体に触れる。

「ばいばい」

 『茂』の手に力が入るのを男は感じた。

 男の誤算は手早く一撃で茂を殺さなかった事。

 そして絶叫が町に響き渡った。


「よし、終わったな。おーい、次行くぞー」

 絶叫を聞いた扉の前の待機組みの一人が中の男に呼びかけた。

 対象の殺害を微塵も疑わない町民の台詞。

 それも当然。相手は椅子に縛られて身動き出来ない言わばサンドバック。

 対する此方はある程度強化された肉体を持った超人。

 普通なら力の差は歴然だった。

「おい、どうした?何で出て来ない?」

 なかなか出て来ない仲間を不信に思い、扉の前で待機していた町民の一人が扉を開けた。

「どうし――ヒッ!」

 大の大人がなんて声だと言いたくなるが仕方ない。

 そこに在ったのは死亡して体中が弛緩して、体液が外に出ている仲間の死体だった。

 衣服の尻の辺りがもっこりしている。腸が尻の穴から外に出たのだろう。

「野郎は何処だ!?」

 室内を見回す。窓が割れていたのに気が付いた。

「窓から逃げやがったのか……!」

 何処に下りたのか探そうと男が首を出した。

「ぐ、げ!」

 その首が上から伸びて来た腕に捕獲され、窓の上に引きずりこまれる。

「お――!」

 おい、大丈夫か!と言うよりも早く、窓の上から聞こえるのは人体を破戒する音。

 直ぐに男は戻ってきた。

「だいじょう――うっ!」

 ただし首が540度回転していて、首の皮が繋がっているのが不思議なくらいの細さになっている状態だが。

 首の骨なんか何処に行ったのか不明だ。

 即死。白目を向いた男は恐怖する間も無かったようだ。

 そして窓の方から音がした。

「さて、それはかえすよ」

 一斉に四人が殺意を持った視線を向ける。

 全く邪気が感じ取れない幼い子の笑みの『茂』がそこに立っていた。

「テメェ!」

「そればっかりだねあなたたち。まあいいや」

 四人分の殺意を受けても平然としている。

 指を突きつけて宣言。

「反撃、開始!」

サブタイと本編の内容はあんまり関係ありません(笑)

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