シークエンス7:よくある変身魔法。実に恐ろしいと思う
◆シュナーブ遺跡:地下?
「右だと思うな」
と聖が意見する。
『よし、左の階段だな』
二人が同時に左の階段に向かって歩く。
両方とも下りの階段なのだが聖が選んだ側を行くと決まって良いことはない事は立証済みだ。
「……酷いよ〜」
もう何回目になるか分からない問答を繰り返す一団。
上り階段が皆無なこの遺跡。
実は聖が対侵入者用トラップを発動させまくったせいなのだがその事実を三人は知らない。
そして階下には猿を緑にして筋肉を増加させた鎧姿の一団。
『グェッグ!』
「訳:上から来るぞ!気をつけろぉ!」
晶が適当な謎の訳をつける。
「コンバット●前かよ。ゴブリンが出たな」
犬歯を剥き出しにしたゴブリンの群れ。
上がってくるゴブリンにハンドガンでヘッドショットをキメる三人。
「ガンシューみたいになってきたね」
「クリムゾンがあったりすると嬉しいが」
弾倉を素早く交換しながら撃ちまくる三人はあっと言う間にゴブリンを纖滅した。
「を、広場だな。何でも良いがこれまでに宝箱の一つも落ちてねえ」
「え、隅っこにあるよ」
指の方向には確かに宝箱。
「さっきは無かった気がするんだがまあいいか。よし、開けてくる」
茂が嬉々として宝箱に歩み寄る。
「腕の見せどころ……罠解除だ」
茂はごそごそとコートの内側を探って何かを取り出した。
「とう♪」
軽い掛け声で宝箱に何処に入っていたのか分からない程巨大なピックを振り下ろした。
『〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!』
なんと、宝箱はミミックだった!らしい。
「まあ、なんだ。原型留めちゃいないが」
ミミックを破壊した。
「を、コイツは」
茂は謎の金属を拾った。
「どうしだ?」
哀れ、ミミックだった物の残骸で銃弾を作っていた晶に謎の金属を渡した。
「見ろ。銃弾の材料を拾ったぜ」
「ふむ、見たことのない金属だな」
叩いたり地面に打ちつけたりする晶。
「お前らもこの金属の材質を解析して覚えろ。高密度チタンよりも硬いことが判明した」
「どれどれ……よし、覚えた。謎金属も過学式に直せるんだな。驚きだ」
「でもなんか向こうには無い物質が使われてるね。元の世界じゃ作るのは不可能かも」
魔力とかなんとかーとか言いながら作業を続ける三人。
銃弾を作り上げて先に進むと
「なんだこの階段はぁ!?」
晶が突然叫んだ。
「いや、もう越前はいいから。また下りかよ」
階段は下り。
「絶対出口から遠のいてるよね」
「お前が罠を発動させまくった結果だ」
階段を降りて行くと扉があった。
「鍵穴があるねぇ」
独特の形で出来た鍵穴。
「ウォード錠か。ピッキングは無理」
「おいおい、鍵なんか持ってないぞ」
「ならしょうがない。面倒だが壊すぞ」
「そうだな。そうしよう」
先程のピックを取り出す茂。
こいつらには鍵を探しに戻るという発想は無いのだろうか。
『我が問いに答えよ。さすれば扉は開かれるであろう』
扉から声が聞こえた。
「問い掛け?」
「何だよ」
一拍の静寂の後に、扉は喋り始めた。
『我が叔父の靴は長さ五十センチ、其の足は五本あり腕は七本あると言う男が居た。男は何者ぞ』
異世界なのに単位はセンチ。
「ぶっ壊すぞ」
「おーいえー」
茂はピックをガンガン振り下ろす。
『………待たれよ』
「そのコートって何が入ってるの?」
謎掛け扉を思い切り無視して聖が聞く。
「ピック、鉈、ミラクルハンマー、マジカルミサイル、ドリームドラッグ。あと箒」
扉を破壊しながら茂が答える。
「ふーん。マジカルミサイルって?」
「火炎瓶と手榴弾のツータイプ。先に言っとくがこんなとこで手榴弾は使えないぞ――よし」
穴が空いた。
茂はピックをしまい込み、ハンマーを取り出して扉を破壊していった。
見る見るうちに扉は見るも無惨に破壊されてしまった。
「ふぅ」
ハンマーを杖代わりに一息。一仕事終えた職人のような顔である。
「さっきの答えってさ、『嘘つき』だよね?」
「じゃあないのか?」
「そうだろう」
分かっていたなら答えてあげれば良いものを。
細い通路の先には小部屋らしき空間。
「む、行き止まりか。だがただの行き止まりならあの扉の意味がない」
「だよねぇ」
「調べてみるか」
ペタペタと壁を触り始める三人。
「隠し通路発見」
茂が《探査》を掛けた箇所に空間が在ることが判明。
「壁は薄いぞ!そーれぶち抜けー」
コートの下からハンマーを取り出して壁を殴りつける。
「なんか今回は破壊活動が多いね」
「安心しろ。今までが控え目だっただけだ」
ゴン!ゴン!ガン!バガン!!!
壁は壊されて通路が現れた。
「アリネ発見」
鉄格子の牢屋の中にアリネが居た。
「捕らわれのお姫様だね。絵になる絵になる」
「む、誰か来るぞ。隠れろ」
と、言っても隠れる所なんかない。
『――――?』
『――、――――』
ノイズが掛かったような笑い声が聞こえる。
『侵入者はここに居るはずだ――居ない……?』
『そんな莫迦な事があるか。くまなく探そうぜ』
探す程の空間が無いってば。
『おかしいな。まあいい。この遺跡に奴らが入り込んで三日が過ぎた。そろそろ食糧が無くなった頃だろうさ。放っておいたら、干からびて終わりだ!』
『違いねぇ!』
蜥蜴男達は笑いながら去っていった。
「危なかったねぇ」
完全に見えなくなってから三人は姿を現した。
「天井に張り付くのも疲れるが光の屈折を変える光学迷彩も面倒だ。しかし何より気配を殺すと云うのがな。どうも慣れん」
「んなことよりなんか今の蜥蜴がおかしい事言ってなかったか?三日ってなんだよ」
「携帯も入ってからまだ五時間しか経っていない事を物語っている。外とは時間の流れが違うのか?」
「なんか歪んでるらしいからそれも有り得るか」
「よし、開いた開いた」
牢屋の鍵を無視して鉄格子に《変形》を使ったのか格子が曲がっている。
「苦労したよ。材質が鉄じゃないからさ。さっきの金属解析してなかったら無理だったかも」
よいしょ、と言ってアリネを抱える聖。
「次は出口か……」
「面倒だね。ここいらで一発、盛大な破壊活動とか……」
「こんな地下でそんな事したら、確実に生き埋めだな」
「そういや」
茂がまたコートを漁っている。
「俺、岩砕機を持ってた」
「使うのか?」
岩砕機。岩を砕く為の機械、の筈だが。
「生き埋めにはならないから安心しろ……よし、あった」
「……玉?」
そこには野球ボール大の物体。
「最新鋭の技術を駆使した高性能なやつだ。ほい、傘を差せ」 何処から取り出したのか傘を渡す茂。
「何故傘?」
スウィッチを入れると静かに駆動音がする。
「まあ取り敢えず差しといてくれ。ぶっ壊せー」
二人が傘を差すのを見た茂は上に放り投げた。
天上に張り付いた岩砕機(?)は岩盤を一瞬で砂にして落ちてきた。
雨のように降り注ぐ砂。
「これはだな、地質の固有振動数を……」
「いや、説明はいいよ」
「お前はこんなものが好きだな」
「素晴らしいだろ?」
約七メートル程を跳躍しで乗り越えてしまったた三人は同じ作業を繰り返した。
時折、
『うわー!』
とか
『な、何――』
とか聞こえたが無視した。
「アリちゃん起きないね〜」
「睡眠薬かなんかか?」
「夢が無いなぁ。きっと魔法だよ魔法〜。どうでも良いけど寝てる人って重い……」
「さて、そろそろ地上だな」
また天井を破壊する。
「ビンゴ!丁度出口だ」
遺跡を出ると、日差しが無かった。
「涼しいな」
「夜なのかな?砂漠は夜は異常に寒いって話を聞いた覚えが在るんだけど」
「この世界に夜は無いんだよ。多分、こっち側は――」
『そう、魔界だ』
「野菜は育たない側だな。うん」
見当違いの事を言ってから声のした方を向く。
「……誰?」
「見たこと無いやつだな」
「大方、中間管理職のやつだろう。途中で出てくるちょびっと強い敵」
晶が酷評を下す。
『ちょびっとは余計だ!貴様らのんびりのっそり来やがって。待たされる方の身にもなってみろ!』
まあ、怒るだろう。この男は割と人間らしい形をしているから人間に見える。
「ならねーよ。何故なら俺なら待たないから!」
『な!貴様ァ……!』
「ぷっぷー。下っ端は辛いねえ」
挑発を続ける茂。
顔がにやけているところを見ると、楽しいのだろう。
『その煩い口を封じてやる!
「其の躯は参刻の間を経て醜き容貌へ!」』
茂の周りに黒い靄がかかる。
「醜いってよ?」
「あーあ」
靄が濃くなり、茂の体を覆い隠した。
「何になるかな?」
「さぁな?」
靄が晴れた。
そこには体長一メートル程の巨大な白い蜘蛛が居た。
『……おかしい。小さな蜘蛛にする呪いの筈なのに』
蜘蛛はじたばたともがいている。
『クックック。だがそれで貴様は言葉も話せんし魔法も使えん!参刻後にゆっくりと殺してやる』
「おーい茂ー。大丈夫ー?」
聖が茂(?)を突っつく。
『ヤめろヤめろ。なンかこしょばユい』
「声出るやん」
「動きもマトモになってきたな」
『なレだ、なレ』
愕然とする中間管理職の男は放置。
『ム、なレたらこノカラダもワるくは無い。ムしろ人間体の時より強いか――よし、言葉も治った治った』
茂は四対の脚をわきわきと動かして
『時間制限終了後にこの姿に固定化されるのか。スペックは惜しいが仕方無い。この脚じゃ満足に箸も持てそうにないからな』
脚を地面にしっかりと下ろした茂は
『手っ取り早く殺ってやるとしますか。というか参刻って何分?』
三人が唖然とする程早い速度で地を這って襲い掛かった。
ほぼ一瞬で十メートルの距離を埋めると左前脚を突き出した。
『くっ!』
とっさに右に避ける男。
恐るべき速度を持った脚は男の背後にある石柱を薙倒した。
『すげーな。この体勢からでも追撃出来るのか』
間伐入れずに右前脚を突き出した。
『「我が右腕に切断の意志を!」その脚、貰った』
ニヤリと笑った男は呪文を唱えて右腕を振り下ろす。
茂は残った六本の脚を使って回避する。
『どれどれ』
茂は《投剣》を組み上げる。二酸化ケイ素で出来た剣が男へと飛来する。
『な!』
硝子が砕ける音がして《投剣》が落とされる。
『良い反応』
『貴様、何故魔法が使える!?』
『いや、魔法じゃないし……』
漫画にでも出てきそうな反則生物となった茂は猛攻を加える。
「なんかさー。楽しそうだね茂」
離れた所で呑気にお茶を啜っている二人。
「蜘蛛なんかになる機会は滅多ににないから楽しいんだろ」
遂に茂の脚が男の体を捉えた。
『捕まえた』
『ぐ……が!』
胸を串刺しにされた男が痙攣する。
『こうなれば我が本当の姿で勝負してやる……』
体に力を入れる男だが
『てい』
腹に茂の脚が突き刺さる。
『げふ。き、貴様人が本性を晒すと言っているのだから待つとかし……』
『まだくたばらねぇのか。次は足でももいでみるか』
さらりと残酷な事を言う茂。
『このっ……「彼の物にかかりし呪い……解呪!」』
茂の三本目の脚が突き出される前に蜘蛛から人型へと戻った。
「いてて……あ、おいこら」
『ふん、よく聞け勇者よ。我はこの先の村の者全てを掌握した。此方の領域に招かれて生きて帰れると思うなよ!』
男は体を庇いながら言い放った。
「じゃあ行かねえし」
『勇者だろ!?良いから我が村の人々を解放して見せろ!』
捨て台詞を言い残して今度こそ消えた。
「うっわぁ面倒くさー」
さり気なく問題発言である。
「人間に戻れて良かったな」
「もう少し蜘蛛も良かったかもしれない」
聖の背中から声が聞こえる。
「起きたー?」
「此処は……?」
アリネが聖の背中から下りて周りを見回す。
「魔界、らしい」
「ええと、何でワタシはこんな所に?」
『………』
茂と晶がそろぞれ思考中の姿勢になる。
「どうしたの二人とも」
聖が二人に向けて言う。
「……ああ、いや。ただどう説明するか迷っただけだ」
「そうだな。お前は魔物に拉致されたんだ」
「だから途中の記憶が曖昧なんですね……」
アリネは所在なさげに腕を組むと深々と頭を下げた。
「ワタシのせいであなた方に迷惑を掛けました。申し訳ございません」
「気にする事は無い。そんな事よりあの中間管理職は村の場所を言っていかなかった。ここらから一番近い場所を案内してくれ」
「ちょっと待ってくださいね――あっちの方に町が在ります」
「違ったら住民に聞くか……」
◆スナエムの町
「皆の衆!今日は我々を解放しに来てくださった勇者一行に乾杯!」
村長らしき人物が杯を上げる。
どうしてこうなったかと云うと
『この町って魔物に支配されてる?』
こうこうこういうものでと説明すると
『おお、我々を助けて下さるのですね!?』
そして、今に至る。
町一番大きな酒場で飲めや食えやの大騒ぎ。
四人は当然未成年だが
「うぇ……もう駄目だ」
町の人がトイレに駆け込む。
「口程にも無いな」
勝ったのが晶である。既に大ジョッキに十杯目。
「アル中で死ぬぜ?」
茂が飲んでいるのはジュースである。
「無問題」
顔色一つ変えずに次の酒に手を出す晶と
「底抜けバケツですね……ヒック」
「……もう止めとけアリネ。明日二日酔いになるぞ」
顔色が変わりまくっている飲兵衛が居た。
「この二人よく飲むね……」
聖が飲んでいるのもジュースである。
「沢山飲んで下さいね!」 と、町長が勧めている。
「おかしいと思わないか?」
茂が聖に耳打ちする。
「ん?何が?」
「いくらもてなしとは言え未成年に酒を飲ませるのは普通じゃない」
「ただの好意かもよ?」
「いいか、この町は現在あの中間管理職のせいで住民全員が怯えている。ならば総出で歓迎会と言うのがそもそもおかしい」
「う、そうかも」
「そうだ。加えてこのドンチャン騒ぎ」
「中間管理職の手下がいつ回って来るかも分からないのに」
「だからこの歓迎会は」
「足止めの可能性が高いって事だね?こうしているうちに向こ……うに……報告……者……が……」
「おい、どうした?」
「なんか……眠……い……」
ごしごしと目を擦る聖。目はトロンとしていて今にも眠りそうだ。
「睡……眠薬……!」
茂にも眠気が襲って来たようだ。
「あいつ……は……?」
カウンターで酒を莫迦みたいに飲んでいた晶が突っ伏したいる。
「まだ寝てないのか。しぶとい奴だ」
意識が混濁していく茂が聞いているのは数々の罵声。
それでもノロノロと体を動かして町民達を見ようとするが
「とっとと沈めよ劣悪種!」
と言う一際大きな罵声と共に後頭部に鈍い痛み。椅子か何かで殴打されたようだ。
町民達の哄笑と共に茂の意識も闇に落ちた。
自分でも時折設定を忘れたりするんですが如何なものでしょうね?