シークエンス5:装備の重要さと購入の無駄
◆????
「ふーん。何かいろいろ召喚されちゃった訳ね」
魔王が言う。
『魔砂遊魚が全滅しておりましたのでおそらくは……』
「おそらくは、ねぇ。んじゃまぁ取り敢えず勇者を殺してきて」
『は?今なんと?』
「書物のような聞き返しはどうでもいい。とっとと勇者を殺せと言ったんだけど?」
魔王はお使いに行かすような気軽さで言った。
『お言葉ですが――』
無理、と言えなかった。 魔王の目が余りにも細く冷たくなっていたからだ。
「誰も意見しろとは言ってない。お前は吾の言ったことを実行するだけでいい」
口答えさえできない。したら瞬間殺される、と手下の男は悟った。
『……了解、しました。御心のままに』
深々と頭を下げる男。
「ああ、多分奴らはシュナーブ遺跡を越えて来るだろうから待ち伏せしてみたら?」
『お心遣い、感謝致します』
「致されなくていいから早く行け。仕留めれずにのこのこ帰って来たりしたら――」
言わなくても分かる。有無を言わさず滅せるとその目が告げている。
男は礼をして急いでシュナーブ遺跡へ向かった。
「さて、今度こそ、どうなるか。勇者と云われるだけあって腕は立つらしいな」
はははと笑って、噎せた。
「ゲホゲホッ!変な方に入った……!」
間抜けな魔王である。
◆タナルプの町
「世界の終焉まで三十日ぃ!?」
「時間が無さ過ぎないか?」 素っ頓狂な声を上げたのは聖。冷静に聞こえるのが晶。
「RPGでもそんなに早い展開のゲームは無いわよ!」
「落ち着け聖。これはリアルだ」
晶が宥めている。
「しかも何で私が《異世界の暇人》なのよー!!」
そう、一番聖がぶーたれてるのは《異世界の暇人》だったからだ。
「だって呼び掛けの重要な部分が消えてたんだもん。暇人なんて言われたら扉開けなかったもん!」
「あー、なんか幼児退行してる聖は放置しといて」
「なにおう!?」
聖が噛み付く。
「しといて。これからどうするかを話し合わなきゃならない」
「それは、向こうの世界への回帰か?それとも打倒魔王か?」
「魔王倒さないと戻れないと思うな〜」
『………』
言っといてなんだが三人とも一瞬沈黙した。
「まあ、なんだ。漫画とかなら全てが終わったら帰れるから多分大丈夫だ。うん」
「そ、そうだね。そうと決まればさくさく倒そうきりきり倒そう」
「だが肝心の魔王とやらは何処に住んでるのかわからんだろうに」
「……そうだなぁ」
「どうしよっか?」
「あのぅ」
横から小さい声が上がる。アリネだ。
「ワタクシ忘れられてません?」
三人は沈黙して
『ああ、こいつが居たのか』
「……あんまりな扱いです」
泣いてしまった。
「ああスマンスマン。いつからそこに居たんだ?」
「かなり始めのほうからですけれど。もしかして本当に気付いて無かったんですか?」
「さっぱり」
「うむ、全然」
「うん。と、言うかアンタ誰?」
「グズッ。自己紹介はまだでしたね。ワタクシ、アリネシア・ウォンスと申します。ここら辺の領主の娘で爵位は伯爵です」
「私は風見聖〜。よろしくね?」
「藤沢晶」
アバウト極まりない。
「ヒジリにアキラ、ですね」
「と、まあ自己紹介も終わったところで本題に入ろう。アリネ、魔王って何処いんの?」
アリネは部屋の隅から地図を持ってきて
「そうですね、多分この辺ですね」
地図の一画を指さした。
「こっからどんくらいかかる?」
「ここがタナルプですから、歩いて三日くらいですよ」
『近!』
茂と聖の声が重なった。
「つーかこんだけ近けりゃさっさと行きゃいいのに」
「そうだよ。凄い近いし」
「まあ待て。その距離で動かないんだから何か理由があるんだろ」
今まで顔をベッタリたテーブルにへばりつけていたやる気の無さそうな晶が言う。
「ええ、入り口の遺跡……シュナーブ遺跡と言うんですけどその中がどうも魔力で歪んじゃってるみたいで」
「魔法ってそんな事も出来るのか。すげぇな」
「魔族とかなら可能なのでしょう。人間じゃ精々才能ある人がどう頑張ってもドラゴンが倒せるかどうかってところですから」
「あのさー」
聖が手を上げる。
「なんで魔法?ファンタジーもいい所じゃないかな?」
「はい、そこの人は黙る。後で説明してやるから」
だがどうせしないのだろう。
「ここが異世界だからだだろ。先を進めてくれ」
と、思いきや適当な説明を晶がして先を促す。
「はい。その遺跡内が迷宮になってるみたいなんです」
「素朴な質問。それって遺跡を回って向こうに入れないの?」
「それがどうも障壁があるみたいである地点から先に進めないんだそうです」
「ダンジョン攻略しろと」
「まあ、そうゆうこったな。話は早い」
「『れっつごーとぅざだんじょん』だね?」
「善は急げ?だな。多々面倒だが気にしない方向で」
「じゃあゲームっぽくパーティー編成」
と茂が言ったところ
「あ、お父様とクライドさんは他の仕事があるので行けません。言うのもなんですけど駐屯兵士は新米ですから使えませんよ?」
アリネが先に言った。
「あ、じゃあ装備を整えて……」
これも
「あ、私の制服は茂のコートと同じだし、シャツにはこれまた特殊繊維を縫い込んでるから滅多な事じゃ破れたりしないよ?武器なら作れるし」
と、聖がナイフを《変形》で作りながら言い
「実は今日着てきたこの上着、特殊繊維で作られててな……」
晶も同じような事を言い
「ワタクシのドレスは神殿級の防護結界になってましてほとんどの魔法は効きませんよ。物理攻撃ならバトルアックスも通しませんよ。武器ならば、専用の剣がありますからわざわざ買う必要性は皆無です」
つまり誰一人装備を整える事はしなくても十分。
「……よっしゃ、行こうか」
言い切られた茂はがっくりと肩を落としてしまった。
◆砂漠〜シュナーブ遺跡
「………」
「暑いね〜」
「言ってやるな。更に暑く感じるぞ」
無理もないが皆汗をかいている。
制服でも暑いのに茂はコートまで着ているのだからたまらない。
「暑い暑い言うなよ。なんで俺はコイツ等みたいに特殊繊維の上着を今日に限って着てこなかったんだ……!」
茂の声は後悔の念でいっぱいだ。
「暑そうですね。ここら辺で休憩しますか?」
アリネが提案する。
「こんな所で休憩したら間違えなく逝ける……」
「そうでしたね。暑いですものね」
しかしアリネは涼しそうだ。
「そういうアリちゃんはなんで汗一つかかないのかな?」
「結果が快適な温度に保ってくれているからですよ?」
さも当たり前のように言うアリネ。
「………」
「欲しいなぁ……」
「やめとけ。お前にゃ似合わねーだろ」
「いえいえ、そんな事ございませんよ。ヒジリは綺麗ですし似合うと思います」
「ホラッ。アリちゃんもこう言ってるよ!」
聖が言い返すと
「あ、アリちゃん?ええと、ただ、とても高いですよ?約二千六百万ウェルします」
「ウェルって何だろ〜?」
「この世界の通貨単位です。参考までに言いますけど上級兵の年収が一千万ウェルです」
「無理だ」
「諦めろ」
「……貧乏って惨め」
「ワタクシので良ければ、と言ってあげたいのですけど、城がもう無いのでちょっと……」
少し進むと先頭の茂が止まった。
「向こうにオアシスが見える」
指差した先には確かに湖があるようだ。
「あの辺で休憩しようぜ。このままじゃラスダン行く前にあの世に逝っちまう」
遂にゲーム的な用語を口にする茂。
「そういやよ、魔王を倒すための宝剣とかそういった類のものは無いのか?」
「あったら他の人が頑張ってるでしょう。魔法剣なんかよりシゲルが先程使った、ええとキカンジュウ、でしたっけ?あちらの方が数段強いですよ」
「……アンタこんなとこまで来て使ったのが機関銃?魔法とか使ってみなさいよ〜」
聖の声には半分呆れが混じる。
「いや、他にも対人地雷や高密度チタンのナイフとかもつかったぜ?それと、魔法なんかは一朝一夕じゃ出来ないらしい」
「夢が無いわね」
湖に着くと、湖面が赤かった。
「ひっ」
アリネが小さく息を呑む。
「……血、だね」
「水面じゃ新しいかどうかなんざわかりゃしないが……」
「いんや、真新しいみたいだぜ?ほれ、其処落ちてんのは人の腕だろ」
茂が指を差した先には人間の物だったであろう腕が落ちていた。
「断面は喰い千切った感じだな。人間の犯行じゃないな。狼かなんかか?」
「晶、此処異世界。狼はいないと思うぞ」
茂がすかさず突っ込みを入れる。
「つーかあの形の口って俺見た覚えがあるんだが」
待っていたように揺れる地面。迫上がる大地。現れたのは。
「うげ、ハンミョウの幼虫?」
「妙なものに詳しいな」
一匹、二匹、三匹と増えていく。
「迂闊でしたね。ここはどうやらイーターの巣だったようです」
合計四匹。どれの固体も茂が来た時に現れたのよりも二周りは大きい。
「ん?ワームとかじゃねぇの?」
「今は名前とかはどうでもいいと思う」
『ギィィィィ!』
耳障りな鳴き声を発する。
「うあー、金属擦った音がする」
聖が顔を顰めて耳を抑える。
「一人頭一匹、と言いたいとこだが……アリネ?」
「な、なんでしょう?」
「参考までに聞くけど、立って逃げれる?」
「す、すいません。なさけない事に腰が抜けて……」
足が震えている。恐いのだろう。
「……オーケーオーケー。元々非戦闘要員だって分かってたわけだし。と、言うわけで聖よろしく」
「あいさー」
聖がアリネを抱える。
「わ、軽いねー。ちゃんとご飯食べてるの?」
割と場違いな事を言う聖。
「あ、あの。どうするんですか……?」
不安そうにアリネが言う。
「イーターはリザードマンなんかとは格が違うんですよ……」
「まあ、なんだ。魔王をどうこうするって言ったんだからこのくらいは軽く乗り越えなきゃならないと思うんだが」
「を、晶も話が早いね。聖も護衛をきちんとやるように」
聖が遠ざかり、晶と茂が戦闘体勢に入る。
「さて、俺の休憩時間を奪った罪はそこそこ重いぞ」
「虫がこっちの言い分を理解するとは思わんがな」
毎度の事だが襲い掛かってきた。
◆教室
「またあの三人はさぼたーじゅなの?」
歴史の教師が悲しそうに言う。
「センセー、あいつ等が居なくなるのはいつもの事です」
生徒の一人が言う。
「そうだね。うん、あの子たちは今度みっちり補習ー♪」
クラス中に笑いが起こる。
やはり誰も心配していない。
ちんまい歴史の教師はにこにこしながら三人の出席蘭に『補習』と書き込んだ。
御免なさい。一ヶ月近く間が開いてしまいました。
次こそは、次こそは早く……無理かもしれません
ま、まあ頑張ります!