シークエンス20:お前らいつまでもハイ&ローだよ
私は帰ってきた――
多分すぐ旅に出ますけどね
◆魔王城
耳をつんざく轟音が鳴るのと同時に、
『「壁」【焔】「阻め」【上がれ】』
全く同じ声が同時に響いた。
聖のぶっ放したフェイファーの六十口径弾が見えない壁に阻まれる。それと同時に聖の起っている床から火柱が上がる。
「あちち」
聖が少し焦げながら下がる。
「どうしよ。銃が効かない」
『奇妙な「弾丸」【焔】《衝撃》武器だな。「掃射」【舐めろ】《奔れ》まあ当たらなければ大したことはないが』
聖は叩かれるような衝撃を感じた。
「うを!?」
向こうの方で茂が弾かれていた。
「何か来たな」
「どうしょうっ!?」 現在能力が封印されているロリ子が焦る。
ど真ん中直撃コース。
焼き肉ヴィジョン。
「迷うな。避けろ」
晶がロリ子をぶん投げた。すぐ後を地を這う炎が抜けていく。
『死ね』
ハイテンションが突っ込んできた。
フェイントもクソも無い、既に当たれば死ぬ勢いの突撃。
「お前がな!」
負けじとハンマーを構える茂。
交錯。振り下ろされた剣をかいくぐって茂がハイテンションにハンマーを叩きつける。
ボシュッと鋭い音がしてギミックが発動する。
高い気圧で押し出されたヘッドがハイテンションの頭を捉える。頭から弾かれるように横に回る。
良い手応えだった。ただし手が痺れるような衝撃が。 そして最大級の誤算、奴の頭がはじけない。
『痛ったあぁ!』
ハイテンションはくるんと一回転。普通に立ち上がった。
「マジかよ……」
防火扉をガキでも砕けるってのが売りなんだぜ、コレ。
呆然としていて反応が遅れた。
『俺じゃなきゃ、死んでるぜえぇぇ!』
横薙に振るわれた剣をギリギリで避けきれない。
自らを地面に叩きつけるように回避。間に合いそうも無いからハンマーを楯に。
運良く柄が斬られた。あの速度で叩き折られた場合、飛んできたハンマーは茂の頭を粉砕していたかもしれないからだ。
「痛っ!」 しかし、避けきれなかった。頭皮と頭蓋を少し、剣にぞりっと持って行かれる。すぐにリンパ液と血液で滲み、骨は隠れた。
(大丈夫。脳にはいってねえ)
叩き付けられる寸前に《空気層》を組んで使う。合わせて指向性を持たせない《爆破》。恐らくは目潰しにもならない。逃げる為に使う。
宙を舞う茂。壁に向けて《空気層》を使って衝撃を殺す。
次は、などと考える暇はない。
兎に角追い付かなければ――!
『いっはぁ!』
まだ壁に背中が着いたばかりだというのに、ゴツい腕が伸びてきた。
捕まれば、終わる。そんな予感。
「くっそ!」
茂は悪態を吐く。
《再生》使ってる暇は無いと判断。
あんまり体力使いたく無いのになあ、クソ!
《空気層》使用直後に用意しておいた《改増》を発動する。
身体をいじって無理矢理加速した体が反射的に残っていた柄で剣を受け流す。
カウンター気味に鍛えた格闘家の身体でさえも外側から破壊するようになった拳でハイテンションの腕を殴りつけた。しかし通らない。硬い。
逆に殴りつけた茂の体が動いて、壁から背が離れる。
しかも剣は力任せに茂に向けて再び振り抜かれようとしている。柄は既に曲がってしまって戻らない。もう耐えない。
後ろに跳ぶか?(駄目だ。追い付かれたら避けきれない)
右に避けるか?(駄目だ。腕に掴まれる)
左は壁。なら前だ!
股の間をすり抜ける。
ほとんど地獄の賭け。振り向かれたら無防備な背中がコンニチハ。刺されて死ぬ。
着地地点に氷の矢が飛んできた。それも避けようとしたが避けきれずに足に突き刺さる。
「痛った!」
矢を抜いてから。向き直って《再生》を使う。
(チキショ、気持ち悪い。『あいつら』なら大丈夫なのに、同じ体でどうして此処まで違う!?)
吐き気がする。《改増》の副作用が茂を蝕んでいた。慣れない運動能力なので、内臓が揺れるのだ。
短期決戦用補助式は、法律以外の要因でも使いにくい。(四の五の言ってる場合か!?)
急いで式を組み立てようとする。が
『何か企んでるな!』
だから、何で分かるんだよ!
茂は迫る剣を回避しながら場所を変える。
直線で使う高火力の式に《水砲》(重水素の融合。水鉄砲ではない)や《反子》(陽電子による対消滅。分かりにくい場合、どこぞの序破急でも見てください)があるが、少なくとも屋内で使うようなものではない。そんな事したら余波で死ぬ。
(あー、無理だ。マジ詰んだ)
《歪曲》なんかを使った日には、もうプッツンしてしまうかも知れない。脳の血管とか。
使えそうな式を書き連ねたあんちょこは、どっかにいってしまった。
こんな事を考えてる間にもがんがん攻撃が飛んでくる。
チキショ(掠っただけで抉れる)
舐めやがって(端から治して、端から壊される)
でもどうしようもない(矢が刺さりそう)
痛い(嫌だ)
爬虫類のクセに(まだ死なない自分)
蜥蜴め、動けなくなるまで体温下げたろか、変温動物?
(ん?)
ちょっと活路が開けた気がする。偶には役に立つ破綻しかかった思考。
茂は取り敢えず水を作ることにした。
(乾燥対策は……無いなぁ)氷の矢が出てくるくらいだから、まあ何とかなるだろ。
水を作り出す。実は明確な名前の無い基本的な術だったりする。よく山登り等で重宝される。
「やっぱ、俺にはコレだな」 《流操》で動かす。理屈は電子をむりくり動かして云々らしいが、よく分からない。使えれば良いらしい。
床にぶちまける。自分の足を避けるように。
(第二ラウンドだ。ま、失敗すりゃ死ぬがな!)
一回きりの奇襲。
『どっから湧いたんだ?』
床に撒かれた水を見たハイテンションが注意深く避ける。
「気にすんな」
『企んでるだろ?』
「それも、気にすんな」
そろそろ《改増》も止めないとマズい。
ハイテンションが突っ込んできた。
幅跳び。水面スレスレを飛んでいる。
(単純に力が強いって、嫌な相手だ!)
剣をかいくぐる。そして触る。
『ん?』
何かに感づいた。が、自分は宙。
「捉えたぜ」
一遍に水を引き上げる。包みこむ。
「凍っちまえ」
絶対零度まで温度を下げる《氷結》を組んだ。
ぴしり。綺麗に固まる。
「……どんなもんだ」
中指をおったてた。
「向こうは終わったみたいだよ?」
『そうみたいだな「刃」【焔】「【踊れ】」』
視覚的に見える炎と見えない刃が乱れ飛ぶ。
(どうしようかな?)
鼻血が垂れてきた。そろそろ限界な聖。
あんまりに効かないので銃をしまって術で応戦するものの、体力が底を尽きそうなのだ。
元々体力の無い上にお嬢さんで現代っ子の聖。慣れない旅(旅に慣れる子供ってどんなだ?)に、そこまで良くない環境での活動。そんなに楽な事ではない。(あの【壁】が厄介だなぁ)
大気を操作する系列の式は、よく分からない成分(多分魔力だよねぇ)によって使い辛い。
「……いやだね~」
そんなことを呟いてみる。どうなるわけでもないが。
(茂は……ああ、氷漬けね。参ったな~。私使えないんだよね~……)
何だかボロボロになっている茂を見て考えた。
聖の手持ちの式には、火力が無い。かと言って奇襲狙いの小技も無い。そして今何より体力が無い。根性でカバー出来るほど、甘くもない。
マズいな~(詰んだ)。
足(押し潰される)痛いし。
あ(やば)目の前に(コレは)回避しきれないや(……死んだかな~)。
直後、横殴りの衝撃。聖の意識は暗闇に落ちていった。
『……何のつもりだ?』
ローテンションが晶を睨みつける。
「何のつもり、とは? 仲間を助けるのがそんなに不可解か?」
晶は攻撃が捌ききれなくなっていた聖に向かってロリ子を射出していた。
許せロリ子、ぶん投げるのでは間に合わなかった。
漫画みたいに目を回しているロリ子を一別すると、晶は適当に謝っておいた。
『確かにそうだが、普通は一対一の場面に水は刺さないだろう?』
「それはすまない。最初から四対二のつもりでいたからな」
つまり、聖とやり合ってる最中に此方を殺す気でいた、という事だ。
『勇者の所業とは思えんな』
「生憎、俺は賢者らしい。それとな、勇者は勇ましい者であって、清く正しい聖者ではない」
晶は三人を見た。完璧に気絶している。
「そして俺たちは、別段勇ましくもないし取り立て清くもない。全員ろくでもない」
頭に式を走らせる。
「――唯の普通の犯罪者だ」
晶の前に硝子の剣が出現した。
『「壁」【槍】(ほむ)――!』
晶は牽制の《投剣》を使う。更にメモ帳の走り書きに目を通す。
言わせない。
攻撃させない。
一方的に叩き潰す。
暫定的第一種特殊過学式というランクの式がある。
公開されていない式で、イカレが考えたとしか思えない式の中で、特に危険なものがこれに当たる。名称は決まっているわけではない。
晶は偶然にもコレを一つ知っていた。因みに本来なら知った時点で『粛清』される。
非常に好機なので、【実験】させて貰う事にした。
別世界故の無法。
使う。
反撃させない。
「《××××》」
ハイテンションの意識を、丸ごと刈り取った。
◆えらい人は言いました
「三人とも消失か?」
「そのようです。反応がありませんので」
お久しぶり。まだ読んでくれてる人もいるみたい。嬉しい
そろそろぐだぐだを卒業したい
多分無理!
でもまだ続くよ!