シークエンス2:剣と魔法の世界with過術と近代兵器
『ギイィィィィ!』
茂は《湧水》《操流》を使って得意の戦法を執ろうとした。
しかし水が沸いてこない。
「しまった。地形効果を考えてなかった」
砂漠地帯で水を使えば砂に吸収されてしまう。
「式を組み直してる時間は無いな。逃げよ」
動かずに集中して式が組めればそれに越した事は無い。
が、突っ立って居たら確実に死ぬ。
茂はワーム(即命名)が突撃してくるのにあわせて飛んだ。
「そこそこスペックが高い自分の身体に感謝感謝」
ワームは再び地中に潜った。
「舐めんなよ」
茂は《探査》を使ってワームの現在位置を確認。
「真下ってありかよ」
動けば突っ込んでくる気だろう。
「得意な水を封じられるとは……参ったねこりゃ。地質を変えるような過術は俺は使えないんだよな」
茂は一人ごちて考えた。
「決めた」
茂は《強化》を使用。薬物摂取時のおよそ十倍は飛んだ。
『ギイィィ!』
標的が動いた事を感じ取ったのかワームは地上に勢い良く飛び出してきた。
「いらっしゃい!」
過術《突貫》が発動。ワームの体を多数の太い槍がぶち抜く。
「これで死なんかったら……おまけだ」
次いでに《爆裂》で薙ぎ払う。ワームは粉みじんになった。
「食えたかも……なんて漫画みたいな事は言わねえよっと」
一息つこうとして、やめた。
「こんなとこいたら干乾びる」
何かの時のために《剛板》を《変形》でナイフに変えておく。
「……ついでだし、レールガンも作っとくかな。一発限りの使い捨て品だけど」
装備を整え、足を森の方へ向けた瞬間である。
「きゃああああ!」
悲鳴が聞こえた。
「やれやれ、誰が死のうが知ったこっちゃ無いからほっとこ」
『うへへ、美味そうな人間だ。管轄外だが思わない拾い物だ』
酷くノイズがかかったような声でもう一つ声が聞こえた。
「ワタクシを食べても美味しくありませんよ!」
後ろを向くと割と近くにそいつらはいた。
方や綺麗なドレスのお姫様然とした金色の髪の可愛らしい女の子。
方やゴツい蜥蜴が二足歩行で、しかも鎧をきて腰に剣を差している。
「迷惑事は関わらないのが一番だ」
正直なところ、面倒なので立ち去ろうとすると
「あ、其方の方、助けて!」
何か言われてるが無視をする茂。
『ほう、あちらもなかなか美味そうな劣悪種じゃないか』
茂の足が止まった。
額には青筋が浮いている。
茂にはなんかやばい癖がある。
理由は不明だが『劣等』『劣悪』『社会的屑』などの極端に酷い罵倒用語を本心で言っているのを聞くと言っているそいつを殺したくなる悪癖がある。
「今、てめえはタブーを言った……おいアンタ助けて欲しいか?」
少女が驚いて顔を縦に振った。
「よーし、こっちにこい」
『逃がさないぞ?』
「誰が逃げるかターコ」
茂はいきなり蜥蜴男をぶん殴った。
蜥蜴男は多少後ろに仰け反っただけで直ぐに向き直った。
『はん、劣悪種の割にはやりやがるな。だが貴様ら風情が俺たちにかなうと思ってるのか?』
茂に更に苛立ちが募る。
「少なくとも勝てないとは思っちゃいない」
『ギャハハハ!こいつはお笑いだ!おい、お前も聞いたか?こいつが俺達に勝つってよ?』
笑いながら呼びかける。まだ仲間がいたらしい。
『ああん?なんだよ劣悪種かよ。俺等の食料がアンだって?ジャンケンか?』
再び笑いが起こる。その数、五匹。
「あ、あの。リザードマンはとても強いんですよ?」
少女が震えている。実は恐いのだろう。
『そうゆうこった。せいぜい足掻いて俺達を楽しませてくれ』
「それじゃ、ま」
茂は殺意を滾らせて
「人じゃないから名前はいいか。精一杯足掻かせてもらいますよっと」
言うなり茂はレールガンを発射した。
何かをする前に一匹死亡。
『貴様、魔術師か!?』
「いんや、生憎とただの学生だ」
溶けて使い物にならなくなったレールガンを捨て、ナイフを抜く。
「まさか早々役に立つとはね」
そのまま突進。
『調子に乗るな!』
腰の剣を抜き切りかかる蜥蜴男達。
「どっちが」
茂は斬激に合わせてナイフで一人目の剣を両断し、二人目の剣が空振りして地面に刺さったところを踏み折る。
あまり材質は良くない模様。
そのまま飛んで頭にナイフを付きたて、脳を破壊するようにナイフを捻った。
「二匹目」
『クソが!我が右腕は、炎の意思操る!』
蜥蜴男が何やら言うと右腕から火が出て意思を持ったように腕にまとわり付いている。
「魔法……!」
「は?」
科学の時代に何言ってんだか、と思った茂だが
「……そういや購買のおばちゃんは確か呪術師だったな」
オカルトに馴れてしまっている。
『ははは!驚いたか。お前達はほとんど使えない魔法を俺達は全員使えるんだ、ぜ!』
右腕を振るうと蛇のように炎が襲ってきた。
「ここじゃ《湧水》は使えなかったな。必要ないけど」
襲ってくる炎の蛇をコートで払い落とした。
「いや、昨今の防火加工も侮れないな。問題は火災時はコートは燃えないけど中の人は耐えれないってだけか」
茂のコートは燃えない、熱も三千度まで平気、更に防水加工も絶縁加工もしてある。おまけに防弾、防刃と言う優れもの。
『クソ!我が右腕は、雷の意思操る!』
違う蜥蜴男の腕が、今度はパリパリいっている。
「魔法って言葉の響きは好きだが、こんな低出力じゃな」
またしてもコートが弾く。
「はぁ。まだ田辺とか横島の方が強かったな。白兵戦もだめ、統制も取れてない。挙句の果てには隠し玉は低出力」
茂は式を組んだ。
「カッとなった俺が阿呆だったな」
『何だ――』
と、まで言えなかった。
「もういいや、消し飛べ」
《爆裂》が発動。さっき炎の魔法を使った蜥蜴男の一人が爆死する。
『貴様!』
「貴族の貴に王様の様か。アンタは確か電気を出してたな。プレゼントだ」
茂が《放電》の式を組む。数百万ボルトの電撃を受けた蜥蜴男は黒焦げになった。
『ひ、ひぃぃぃ……』
「呆気無いもんだ」
二匹目の頭から引き抜いたナイフを投擲。硬い鱗を貫通して頭を貫く。
蜥蜴男達は全滅した。
「有難うございます。おかげで助かりました」
「あー、まあ何だいくつか質問。取り敢えずここは何処?」
適当に血を払って(うわ、青い……)ナイフを戻しながら茂は聞いた。
「何処と申されましても……エニヒス国ですけど」
(何処だ!?)
「更に言うとウォンス領ですね」
「西暦何年?」
そう言えば言葉が通じているが苦労しないので無視。
「西暦、とは?今はエニヒス暦3999年ですけど」
「ここは地球上?」
「ええと、地球って何ですか?」
「……いいや。最後、アンタの名前は?」
「はあ、ワタクシはアリネシア・ウォンス。長いのでアリネ、で結構です」
(どっかで聞いた名前だな、アリネシア……何処だっけか?)
「俺は雨宮茂呼び方は何でもいいや。と、なるとアリネは領主令嬢?」
「ええ、まあそのようなものです。シゲル、とは変わった名前ですね」
「ヤーパンの人は皆そう」
「ヤーパン?」
「ここは地球じゃなかったか……」
「先程から何か変ですけど何処から来たんですか?」
「別世界、らしい」
「まあ、じゃあ貴方が勇者なんですね!」
「は?」
「異世界からの勇者。それは我々に残された希望です。父がこの先の森にいるはずです。会って下さらない?」
「まあいいけど。勇者って柄じゃないよなあ」
なにはともわれ森に行く事にした。
◆鬱蒼とした森(ウォンスの森)
森の中心にその広場はあった。
中心に魔法陣が描かれており怪しげな光を放っている。
「我の元請う、救世主よ……」
「お父様!クライドさん!」
鎧の男がこちらを向いた。
「おお、アリネ!宿で待っていなさいと言った筈だが?」
「ええ、でも異世界の人が……」
「まさか!姫様、異世界の勇者はこの魔法陣の上に現れる筈ですぞ!」
「ああ!アンタは!」
茂が声を上げた。
「誰だお前?」
「思い出した。あの入るのに長ったるい時間のかかる隠し通路の城の城の領主。確か――アルドレム、だったか?」
「そうだ。俺はアルドレム・ウォンス。家の城の隠し通路は身内しか知らん筈だが、何処で知った?」
「夢。そっちの爺さんは生け贄けちってゴキブリにしやがっただろ。おかげでまた空から落ちる羽目になったぞ」
「何者か知らんが、一応勇者なのか?」
「勇者か知らんが異世界の住人だ」
「なるほど、それでは――」
腰の剣に手を伸ばすと
「実力を見せてもらおう」
一気に抜き放った。
「うお!?」
茂もナイフを抜いて応戦する。
「勇者っつても役に立たなきゃダメだからな」
「お父様!シゲルはリザードマン五人をすぐに倒したのですよ!?」
アリネが一応言うが
「だが俺より強くなきゃ意味が無い」
更なる斬激が茂を襲う。
「参ったな。殺し合いと決闘は全くの別物なんだが……」
茂は僅かに考えた後
「これはどーすりゃ勝ちなんだ?」
アルドレムは答えた
「俺に勝ったらだ!」
解答になってない。
しかし殺すのは駄目だと頭が告げている。
「だったら」
気絶、それを狙うしかない。
「攻めて来ないのか」
ナイフにはひびが入ってきている。
(どんな材質だよ!)
持って後三発。殺人技は不可。
「我が右手は、雷の意思操る!」
「やべ!」
直感でナイフを木に投げた。
雷はナイフに向かってはしる。
コートは電気を通さなくても手は素手だし金属は尚更通電性は高い。
「咄嗟の判断はいい様だが武器が無くなっては戦えまい」
茂は《湧水》と《操流》を同時に組む。
「む、魔法が使えるのか」
「んなもん使えるか」
ついでに《氷結》を組みながら答えておく。
「食らっとけ」
固まった水が飛んでいく。
「そんなものが効くか!」
頑丈な鎧に氷の飛礫は効かないらしい。
まあ、茂の思惑は他にあるのだが。
「ほとんどの人間が使える魔法はあまり殺傷能力は無い。弱い勇者じゃ駄目だな」
アルドレムが踏み込むと
「まあ、殺さずにやるんだからこのくらいは勘弁」
盛大にすっ転んだ。茂が更に背中を踏む。
転んだアルドレムは何が起こったか頭が追いついていないらしい。
「氷を張って摩擦を減らしただけなんだが……結構盛大に転んだな」
足元には氷が張っている。
先程の水の一部を広げて《氷結》で固めておいたのだ。
「卑怯だぞ」
「何せ殺しちゃいけないんでね」
「王、貴方の負けですよ」
「納得いかないな……」
茂は溜め息をついて面倒そうに《水削》を組んで近くの岩に放った。
レーザーのように飛んだ水は岩を削り飛ばして両断した。
「取り敢えず、『弱い』は撤回してもらえるといいんだが。生憎ただの学生なんでね。これくらいしか出来ないんだ」
アルドレムはポカンとしている。
「お父様、シゲルは勇者でしょう?」
笑いながらアリネが言った。
「まあ、認めねばなるまい。服装も変だしな」
「勇者の基準はそこなのか!?」
茂の突っ込みが炸裂した。