シークエンス16:期間限定品にゃ目がないよ。でも明らかな外れは買わないよ
◆野営地
茂は聖をまだ背負っていた。
「うお」
蜥蜴ハイテンションの方が剣を振り落とす。
『ええぃちょこまかと。こっちの都合を考えてそろそろ当たれや!』
切っ先が茂の髪を数本持っていく。
「無茶言うな! ぐえ」
聖が首を絞めた為、運良く剣を避ける。
「フリテンなのが惜しい!」
謎の寝言ばかりの聖。緊張感がまるでない。
『オラオラオラオラ!』
臑、首、肩、脇腹。
かなり際どいところを通り過ぎる蜥蜴ハイテンションの剣。
手が使えないのは異常なまでのハンデ。
「ん、の。こちとら両手が使えないんだから手加減しやがれ!」
『冗談! どんな奴にも全力で行くのがオレの流儀!』
『おーいけいけ』
とても無気力なのは蜥蜴ローテンション。どかっと岩に腰掛けていて最初からやる気がまるで感じられない。
『ちったあ手伝えよ!』
『俺がお前についていけっかよ。勝手にやってくれよ。俺は重要な事を忘れている気がするから思い出しとく。いいか、お前は肉体労働。俺は頭脳労働。それぞれ重要な使命があるんだ』
早口に捲くし立てる蜥蜴ローテンション。
『お、おう』
「乗せられてるぞオマエ」
『うるせぇ。だったらとっととくたばれやコラ!』
(クソガキかコイツっ!)
ガキと違うのは威力に可愛げがないこと。正直剣の扱いは上手い。
『避けてばっかいんじゃねえよ! 男なら真っ向から向かって真っ二つになりやがれ!』
(無茶言うな! まあいい、こいつ単調な剣撃だから)
ぎりぎりで避けて距離を詰める。なるべく悟られないように。
(ここだ……!)
式を組む。
足の裏で《爆破》。
粉々に、吹っ飛べ!
座標計算、ベクトルを間違わなければ基本的にどこにでも出せる過術。
TNT三キロに相当する爆風は至近距離で爆発。蜥蜴ハイテンションを巻き込んで挽肉に変える、当たれば。
『うお、コイツ絶対なんか企んでいやがる!』
思いっきり横に飛びやがった!
「なあ!? おいてめぇざっけんな!」
誰も居ない空間を酸素を食いながら進む爆風。
『やっべー。あとチョイであの世逝きだったな』
「反則だ!」
『運も実力の内っつーだろ』
距離が詰まる。
刃が目の前に。
避け――!
ここで茂はあることに思い至った。
「うわ、聖邪魔」
手が使えない。
避けれない(無理)。
ざんねん。わたしのぼうけんは、これでオワッテシマッタ(死――!)。
(は、呆気ねぇ)
一瞬先の冷たい予感。
『あ、オイ待て! 思い出した!』
「うぇーい起き抜け早速死亡フラグ! でも死ぬのはゴメンだアバヨクソッタレ」
それを防いだのは二つの声。
静止と、破壊宣言。
『だああ、何なんだ!? つか止まれません、無理DEATH!』
無理やり止められたがそのまま迫る刃。
茂たちを真っ二つにする前に、聖がどっから出したのかフェイファー・ツェリスカをぶっ放した。
轟音が茂の耳元「ぐは!(パン※鼓膜が破裂する音)」で鳴った。
茂の耳から音が消える。鼓膜が破裂したようだ。
『何だよそれ!?』
銃弾は蜥蜴ハイテンションの肩を抉っていった。
この世界には銃というものがないわけだから不思議がっておかしくはないんだが
「おま、聖! 鼓膜破れたぞ!?」
『おいおい、そういや殺したら駄目だって言われてたじゃないか』
「キニシナイ。細かいこと言う人は嫌われるよ?」
『あ、そうだったか?』
「細かくねぇよ!」
『そうだ。実力を見て来いって言われただけだったろ』
「ほれほれ、治したげよー」
『よし、なら退散だ』
「おっと、逃すと思っているのかな?」
聖が銃口を向ける。
『おっと逃してもらおうか! よし、やれ』
「逃がさん! ●●●●してやる!」
「口きた(パン※鼓膜が破裂する音)なぐはぁ!」
茂の背中に乗っかっていたため照準が合わず、蜥蜴ローテンションの足元を穿っただけに終わった。
『命令すんな莫迦。「我らを所定の位置へと移動」』
悪役も吃驚な勢いで消える蜥蜴コンビ。
「何がしたかったんだ?」
聖を落として耳に手を当てる茂。
「さあ〜?」
「つかどっから起きてたよ?」
「ふふふ、乙女には秘密がいっぱいなのさ」
殴ってやった。
◆洞窟
蜥蜴コンビと茂の戦いの最中。
洞窟にて。
轟音が鳴っていた。
崩壊も厭わない容赦ない爆音だ。
発生源は二人。互いに一撃一撃を必殺とした攻撃。
晶が手に持ったエクスカリバーーmk2似のグレネードをぶっ放す。
科学が進み過学になるかならないか辺りに開発された《グリダーレ》なるグレネードランチャー。
構造は普通にリニアモーター。加速を得るため若干銃身が長いのが特徴。
“狂緑”はというと体から風船位の球体を飛ばしている。
直線にしか飛ばないが破裂時に爆発に似た現象を起こしている。岩の床が粉々。
五十も撃ち終えた晶が《グリダーレ》を破棄。新たに突撃銃を作る。一撃の威力より確実な攻撃回数を上げる為だろう。
作られた銃を三点バーストで全弾叩き込む。
だが“狂緑”は止まらない。何でか無傷で風船を作りまくる。
「ち」舌打ち。
効かない。
止まらない。
動じない。
厄介こと極まりない。
風船の一つが近くで爆発する。
「うお」
爆風に煽られて飛ぶ。
受け身を取ろうとして、微かな痛み。腕がないことに気が付いた。
あー、感覚無かった。戻ってきたが。
地面に叩きつけられながらそんなことを考えていた。
しかし休めない。風船が大挙してきた。
横にズレて腕を治す。生えてきた腕で迫ってくる風船を銃で撃ち払う。
風船は撃たれると爆発。近くにある風船の軌道をねじ曲げる。目の前に迫ったそれを躱せたのは運だ。
晶はそれらを当たらないように進んで行き“狂緑”を殴りつける。
ずぶ。そんな効果音が付きそうな勢いで拳がめり込んだ。
「げ」抜けない。
そのまま零距離にて撃ちまくる。
せめて離れろ!
『……捕まえた』しかし動かない。
マトモな顔が在ればニヤリとでもしただろう“狂緑”は、動けない晶に風船をぶつけようとした。
「……っ」
それを察知した晶は逃げだそうともがく。
《爆破》? 無理。この距離じゃ仲良く挽肉だ。
頭にぶち込む? 効かなかったら、いや効かないだろう。
駄目だ、取り敢えず逃げることが先決だ。
即決断。自らの腕を撃ち落とした。
中途半端に戻った痛覚を感じながら距離を取る。
『……逃げ切ったか』
「死にたくはないからな」
また生える腕。だが
(打ち止めか)
栄養失調寸前。鍋の養分を使い果たした。
補給しようにも草一本生えていない。
(最初に使いすぎたか)
材料がなければ物も作れないわけで、晶の至る所に金属は隠し持っているが、食料品はほとんどないのだ。
「くそ」
悪態を吐きながら下がる。
後退しながら撃つことも忘れない。
『……っ』
????????、
一瞬痛がったような。
マジで?
もう一度、撃つ。
全弾命中。
『………』今度はどうもない。
(どうなっている?)
まさか洞窟全体が“狂緑”ってオチなのか?
いやいや、それな《グリダーレ》や風船が被弾したときも食らっているはず。
勿論反撃も忘れない。
「くそっ」
適当に撃ったときはダメージがあって身体に叩き込むとノーダメージ。
どんだけ撃っても効果がない。
――待て
全弾命中?
マガジンの代えはあと一つ。
怪しい場所にとにかく撃つ。
壁、撃つ。
地面、撃つ。
影、撃つ。
『……っ』
(――ビンゴ)
風船が迫る。
避ける。
それを繰り返しながら接近する。
十メートルが五メートル、三、二、一――零。
「さて、終幕だ。アンコールは受け付けない」
『……そうだな』
晶に横殴りな一撃。
当たる前に《爆破》を使う。
爆発は地面を抉り、晶は殴られてうまく効果範囲から抜け出す。
「げほげほっ。これは何本かイッたか……」
頼むから生きていてくれるなよ。
『……これは、酷いな』
ぐすぐすに崩れた、しかし生きている“狂緑”だ。
「ち」
よろよろ立ち上がる晶。
『……互いに限界のようだな』
「それは、どうかな」
『……そうか』
更に崩れる。
『……その檻の開け方は“監手”に聞け』
そして“監手”が現れた。
「負け、かなっ?」
両手を挙げて降参のポーズ。
「あの檻の開け方は?」
「引いたら開くよっ?」
てくてく、キイイィ。
「………」開いた。
いまだに気絶しているアリネを担いで向き直る。
「無用心な。さて、ロリ子。お前には捕虜になってもらう」
「へいっ。売り飛ばさないならどうぞっ」
「それは時と場合による。よし行くぞ」
「無用心だねっ。後ろから刺されるよっ」
「売るぞ」
「ゴメンナサイ」
◆野営地
戻ってくると二人は起きており、菓子を摘んでいた。
バッキー。食べると歯が痛くなるほど堅く焼き上げたアレにチョコレートをコーティングしたもの。
……パッケージには『冬の味覚・生牡蠣味』。なんてゲテモノ。ネタとしか思えない。
「おー、晶。お帰りか――」
「ホントだ〜。お帰り――」
そして二人が同時に言った。
『幼女誘拐!?』
「違う、捕虜だ」
「捕虜の“監手”ですっ。ヨロシクっ」
「元気な捕虜だな」
「バッキー食べる?」
「いただきまーすっ――うわ堅痛すごい味ーっ!」
絶叫した。想像を絶する不味い味だったらしい。正直、あんまり食べたくない。
「そんなことはどうでも良いんだ。あんまり捕虜を甘やかすなよ?」
「うわ、何この拷問二本めーっ」
あー! 、とか言っている。
「さて、コイツだが」
「ああ、もう少しすりゃ起きんだろ」
――五分後
「ごほっ……もうダメっ……」
バッキーにより撃沈した“監手”。
「なあ、“監手”って呼びにくくね?」
「確かにね〜。打ちこむときに“”←これ面倒みたいだし、一発で変換されないし」
『は?』こっちの話です。
「何を言っているのかは知らんがまあいい。そこであだ名だ。ロリ子、これでいいと思うんだが」
「決まりだね〜?」
「ちょっとスターァップっ!」
ロリ子が絶叫した。
「納得いかないのさっ!」
ロリ子が抗議に出た。
「何だ『ロリ子』。文句あるのか? 捕虜のだろう」
「そうだぞロリ子。これは決定事項なんだ。捕虜のクセに」
「そうだよロリ子ちゃん。捕虜の分際で」
「ぐはっ、だんだん酷くなっているよっ! しかもあらん限りに強調してるよっ! 地の分までロリ子にーっ!」
ダメージがでかくてロリ子は倒れた。
「……うーん」
身じろぎの後、アリネが起きる気配がした。
「あ、起きた〜?」
「ええ――その子は!?」
吃驚した顔でアリネが驚く。
「知っているのか?」
「ええ、“監手”ですね。身の内に幾つもの者を内包した化け物ですね。なぜここ……?」
戦闘体勢をとるアリネ。
「アリちゃん、この子は仲間になったんだよ。だから大丈夫だよ〜」
「いえ、魔族は狡猾ですから、早いところ片付けないと!」
「そうか」
ぞぶ、そんな音は突き破る破壊の音。
「え?」
透明な物質がアリネの喉をぶち抜いていた。
「……晶?」
そう、晶の《投剣》だ。
アリネの喉、声帯、延髄を串刺しにしていた。
一ヶ月最低一話くらいを目標にしてたんですけどね。
時間の割りに内容は薄いです。