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シークエンス13:大事な物はちゃんと保管しておくのはいいけど、忘れたらいみねーよ

◆ドアの前

「うわー!」

 一方こちらは扉の前。

 結構容赦なく晶は町人を殴り倒す。

 徒党を組んでいようが何だろうがここまで狭い通路なら、殆ど一対一なのだ。

「お次は?」

 凄く面倒そうに晶は言う。

「この……! ブッハァァ!」

 最後のは殴られた悲鳴。

(はー。楽だ)

 あまりに単調なので片手にゲームである。

「死ねぇ!」

 打撃ボグ

「ブバラベハグフゥア……!」

(打たれ弱)

 取り敢えず最後のやつも殴る。

 一通り叩いたら窓から棄てる。この繰り返し。

 そしてまたゲームに向かうのだ。

「おう、ミスった」

 実に難易度の高い眞理緒の改造版。別にどうでもいいのだが。

「や、そこにおはすは晶殿とお見受けいたす〜」

 間の抜けた古語モドキが聞こえる。

「黙れ、ミスる」

「もっと感動してくれても良いのに……あれ、茂は?」

「ん、ボス戦」

「加勢しなくていいの?」

「ああ、鍵閉まってる」

 茂が入室直後に扉が開かなくなってしまったのだ。

「ふーん。どうせ開いてても入らないでしょ?」

「愚問だな。当たり前だろう」

 二人はHahahaと外人みたいに笑う。

「まあ、門番しているから大丈夫だろう。役割だ役割。今まで俺だったから今からお前な」

「うえ〜イヤだよ〜面倒だよ〜って聞いてないし」

 本格的にゲームをし始めた晶は、多分命に関わる事が起きないと人の話を聞かないだろう。

「居たぞ!」

「ちえいさー」

 蹴りどが

「ウェブッハァ!」


『今までおちゃらけていてよく今更そんなことが言えるな!』

「まぁ、正直舐めていたし」

『貴様……だから不意打ちは卑怯だと――!』

 椅子を投げるが、弾かれる。

「やかましい。いいか、今までは正直舐めて掛かっていた。けどな、通常手段で倒せないだろう、アンタ?」

『ふん、当たり前だ』

 偉そうに口上垂れようとする無防備な男の首に、茂は容赦なくナイフを突き立てる。

『無駄だが卑怯だな!』

 彼の基準では、敵の目の前で堂々とくっちゃべっているところに攻撃するのは卑怯らしい。

 だがあまり効果は無いようだ。

「そうでもないだろう。隙だらけでいかにも刺してくださいと言っている体を見たら。それが取り除く障害物であるなら容赦なく突き刺すと思うぜ」

 首は効果無しと見るや否ナイフを逆手で引っこ抜き、腹、人間なら心臓に当たる箇所を突き刺し、腹直筋を割るように下げる。出血、無し。

(……ち。遺跡ン前でった時はちったぁ効いてた筈なんだが。真の姿ってこんなもんが普通なのか?)

 刺した個所の傷が無くなっている。

(高速自動修復か? よし、脳を破壊して――そういや魔族こいつらって頭に脳が在るかって不明なんだよな)

 頭を狙っても避けないところを見ると、頭はさほど重要のない部位なのだろう。

 振り上げられた右腕を無視して眼球を狙う。

 突き出されたナイフは易々と眼球につぷと刺さり、ぞりっと削っていった。

『お前酷いな! 短剣で目を抉ろうとする勇者は初めてだぞ』

 しかしクライエルは怯みもせず(オイ!)

『「我が右腕に求めるは焼却」!』

 よく見たら眼球も復活していて(あり得ねぇ)

 しかも冗談みたいに熱気を放つ右腕を、茂に叩きつけた。

「――っ。うおおおお!!」

 茂はコートの裾を右腕の着地点に手繰り寄せた。

 打撃に合わせて後ろに飛ぶ。

『仕損じたか』

「はっははは! んな簡単にくたばるかっつの!」

(危ねぇ! おいこらコート溶けてんぞ!?)

 茂お気に入りのコート(耐熱三千度を誇る無駄機能付き)はクライエルの殴った箇所が溶けている。

 胸に軽い痛みがある。熱によって起こった火傷だ。

(はっはっは。いやもう魔王とか会いたかねーよ!)

 どうにも終わりが見えそうにないので《歪曲》を組む。

(コイツで、どーだよ!)

 発動。

 計算ミス、なし。

(イッちまえー!!!)

 クライエルの体内で何次元に飛ぶのか不明の歪みが出来上がる。

 声を上げる間もなく、体は潰れて飲み込まれる。

 が、

「マジで?」

 一瞬先には先程と寸分変わらない姿でクライエルが立っていた。

『消滅系列の魔法か何かか。だが我には効かん』

 今知っている最大の式が効果無し(ありえねーよ!)。

『今のが最強の術か。まともに受ければどうなっていたか……』

「あん?」

(やつぁまともに受けてない? つーことはやっぱありゃ実体じゃないのか?)

 周りを見回す。破砕した椅子、何回も斬り捨てたクライエルの腕(つっても再生するし、元から六本あったから今はどれがどこにくっついてたかは不明)、何で出来てるか不明の壁・床。

(どれが本体だ?)

 部品部品部品部品。疑いだしたらキリが無い。

 茂は目の前に在る(正直信じ難いが)人(?)物は虚像(っても感触、会話、んで攻撃してくるけどな!)だと確信した。

 何せどうやっても消えないのだ。

(取り敢えず掃討するか)

 床の上を一掃する、そういった過術もないわけではないが、《歪曲》を使った後の状態であんまり乱発するとぶっ倒れる。

(ぜってー終わると思ったんだがな)

 重要箇所が不明なら一個体ごと消してしまえ思考で消したが、それでも消えない。

(……魔法か。いや、マジ便利。俺も習おうかなぁ)

『どうした、手詰まりか?』

「いんや、後百と三十二の方法を用意してる。全部見る前にくたばんなよ?」

(ビンゴ! おーあたりだゼ!)

 あと過術が使える回数は少なく見積もって四。

 それ以上使えば鼻血とか、耳血とか出して倒れる。

(ハッタリかましたはいいけどよ、ローリスクなのってこんくらいしかねー)

 コートから引っ張り出したのは巨大な鋏。

『む、何だそれは?』

 異様なサイズの鋏。ゴツい先を見ると、鉄の板くらい易々切れそうだ。

「ん? ああ、多分出回った中で最もユニークな鋏『高枝伐鋏たかぎばつばさみ』だ」

 誤字ではない。

 その昔、高枝さんなる人が考えた趣味に走りまくった結果出来上がった鋏で、どんな状況で使うのか不明だが鋏状態で戦車の装甲ぐらい軽くぶち抜く化け物だ。

 ワンタッチで鉈になり、ツータッチで、何故かは分からないが、『爆薬製造式特殊射出機』になる阿呆な代物。

「今回使うのは射出機」

 適当にガチャガチャいじくり回して怪しい形になる。心なしか顔がほころんでいる。よほど変なものが好きなのだろう。

「マトモに相手にしても無駄だと悟ったんだ。自分の感に賭けてみることにするぜ」

 言うなりクライエルを無視して指向性爆薬をそこら辺中にばら撒いた。

 爆発

 爆発

 爆

 爆

 爆

 爆爆爆爆爆!

『お、おい何をす――ぐあ!』

 焦りが混じった質問の中に、呻き声が聞こえた。

(しゃ、当たり! いっとーしょー! どれだ、本体は何処だ?)

 さっき放った辺りに反応した。それを手掛かりに爆薬を放ちまくる。

 盛大な爆音をぶち撒けて床にあったものを呑み込んでいく爆風。

『くっ! 「我が」――』

「させねー」

 喋られるとマズい。そう考えた茂はクライエル向けて爆薬を放った。

 開けた口に爆薬は突っ込み、そこに第二撃が衝突。爆発。

 普通の人間なら上半身が下半身とこの世からサヨウナラ、モウアエマセーンする惨い所行だが、まあ魔族相手だから良いのだろう。

(……ヲイヲイ床から物が無くなっちまったぞ)

 むー、と唸る。

『む、無駄だと分かっただろう?』

 無駄とか言ってる割にはえらいダメージ。

「イヤ、ちょっと無駄とは思えねー」

 見回すがやはりこの部屋にはもう壁くらいしか存在しない

(壁……? ああ、壁か)

 死なない相手。

 みょーに再生する虚像。

(……うあ、あっち戻ったら感覚ズレそう)

 射出機を鉈に変えて壁を破壊しようする。

「……おぅ」

 なんと、弾かれてしまった。

『「我が腕に破壊の意志を」!』

 突っ込んできた。

(六本全部破壊の効果ってか? 好都合だぜ)

 ギリギリで躱す。

『しまった!?』

「やったぜバカ野郎異世界代表! 自分の本体の隠し場所くらい覚えとけ!」

 崩れた壁の向こうには空洞。

 そこには遺跡で会ったオッサンが居た。

 額から血が出ている。爆発の衝撃で打ちつけたのだろう。

「『我が掌より請ずる、穿つ槍』!」

 横の虚像が真後ろへワープ。

「え、うお、ヤッバ――!」

 前後からの挟み撃ち。

 後方六本、前二本。

 回避は(ん?)まあ可能。

「――ってこりゃチャンス?」

 決死の回避(ヤヴェ、足欠けた)。

 左足に型抜きでポン、と抜いたような滑らかな断面。

 そして茂の足を食い千切った槍は

「『しまっ――ぎゃあぁぁ!』」

本気マジでバカ野郎だな。前後でやったらそうなんのは明白だろうに」

 足を《再生》で治しながら言う。

「ゲホッ、ゲボォ!」

 虚像は消えて、血を吐き出す男だけになる。

「へぇ、アンタは卑怯なくらいに異常な再生はしないんだな」

「下級魔族と一緒にするな。『我が身体、損傷を――が』!?」

 茂が手で口を押さえた。

「おっと、死なれちゃ困るんだが……治ってもらうともっと困る」

「ぐ、何処までも酷い勇者な……」

「サイコーに褒めていただいて恐悦至極だ。さて、途中のイベントとか面倒だ。魔王の場所までの道のりを教えろ」

「……此処から南西に歩いて行けば良い」

「……妙に正直だな。何を企んでいる。それとも嘘か?」

「ふん、我は嘘を言わん」

「仕方ない。他に信じるものも無いんだ。駄目元で行くかな」

 言うなり茂はクライエルに手を向けた。

「悪いね。正直もっかいアンタと戦りたかないんだ。だから、此処で始末する」

「……とことん勇者とはかけ離れた男だ」

「何とでも言え。遺言くらいは聞いてやるよ」

「遺言は無い」

「そうかい、それじゃ――」

「まあ待て、手土産をやる」

 クライエルはにぃ、と嗤った。

「『我ガ身体ヲせいぜい以テ巻キ込ムがんばるんだな!』さらばだ!」

 クライエルの体が発光。パターン的に、自爆。

「は、え、詠唱だったの、今の?」

 目が焼かれる程の閃光と共に

「はっ、味なまねしてくれんぜ!」

 轟音、衝撃。

 全てが吹き飛んだ。


◆部屋の前

 強烈な衝撃。

「む!」

「うわ!」

『ぎゃああああああああああ!』

 人が舞う。

 華麗に、ではなく吹っ飛ばされてだが。

 建物の外に吹き飛ばされた人々は叩きつけられて、何やら呻いている。

「……よっと」

「ほ」

 晶と聖は向かいの建物の屋根に飛ばされて、体全体を使って衝撃を殺す。

「……お前はやはり武道をやるべきだ」

「女子は選べないんだよ〜」

 ほぼ無傷で立ち上がり、衣服を叩いて埃を落とす。

「いやぁ盛大に壊れたねぇ。茂は大丈夫かな?」

「さあな。だが生きてはいるだろう。認めたくはないが、我々にはゴキブリ並みの生命力があるからな……あれじゃないか?」

 嫌な喩えをする。

 晶の示した辺りの地面が盛り上がった。

「ぶはぁ! 無茶苦茶しやがったよ!」生きていた。

「おーい、元気〜?」

「この状態を見て元気に見えるなら眼科行け!」

「叫べるなら元気だろうに」

 さっと屋根から降りる二人。

「生首みたいだね」

「悠長なこと言ってないで掘り出してくれ」

「あいよ〜」

「仕方無いな」

 どっから出したかスコップと軍手を取り出して適当に掘る、ぞんざいに木材をどかす。

「痛! オイ、埋まる埋まる!」

 掘った土は茂の顔にかかり、木材はぶつかる。故意の色が強い。

 二分ちょいで掘り出された茂は、取り敢えず二人を殴ろうとして避けられた。

「なんか動き悪いけど大丈夫?」

「いや、かなり大丈夫じゃない」

 よろけてぐらぐら揺れている。

「君に言いたい事がぁある。君はあっちへフラフラこっちへフラフラしてないでビシッとしろぉぃ!」

「どこの酔っ払いだ」

「そんなことより、そろそろ町から出て行こうよ」

 どこから取り出したか聖がパイプを吹かしながら言う。

「そんなもん吸ってると体壊すぞ、オマエ」

「大丈夫。これは『煙が出るけど体に無害な、むしろペットボトル飲料水の方が有害でしょーう喫煙者の為の禁煙パイプ』だから」

「どこまでが商標だよ……」


「……こっちであってんのかー?」

「……さあ〜?」

「……はぁ」

 まだ殺そうとしてくる町人の残党を叩き伏せて町から出た三人は会議(?)をしながら歩いていた。

 こうなったのは町を出た所でこういう話になったからだ。

〜〜回想〜〜

『――とか何とか』

 クライエルとの一戦で得た情報を話す。

 そこですかさず突っ込みが入る。

『うむ、茂が聞いた南西という方角だが――どっちだ?』

 一同は固まった。

『いや、ほら。方位磁石があるから大丈夫?』

 あの爆発でもよれただけのコートからコンパスと何かよく分からないものが合体したようなモノを取り出して方角を調べる。

『南西はあっちだね〜』

 聖が磁石の示す方角へ行こうとしたが

『まあ待て』

 晶がそれを止めて、方位磁石の蓋を開けて、磁石を持ち上げた。

 そして真逆になるように、針に乗せた。

『……動かないね』

『……動かないな』

『最初の地点には夜が無かった。だったら磁場が無いかもしれんと考えないのか? 軽率な行動はしないべきだ』

『えっらい冷静ですな。じゃあどうするよ?』

『ジャンケンターイム!』

 すかさず聖が叫ぶ。

『私が勝ったらあっち』

『じゃあ俺が勝ったらこっちだな』

『……こっちだ。いくぞ、ジャンケン――』

〜〜回想終了〜〜

「なあ、此処まで来て何だけど戻らねえ? 俺、なんか激しく忘れ物した気がするんだ」

「奇遇だな。俺も忘れ物は思っていたところだ」

「私も。ひじょーに大事なものを置いてきた気がする〜」

『う〜む』

 三人は首を捻って唸る。

「あ」

「お」

「……む」

 どうやら『忘れ者』を思い出したようだ。


◆スナエムの町:入口

「酷いです! 忘れて行くだなんて!」

 怒鳴っているのは『忘れ者アリネ』だ。

 町に戻ってみたら出口に立っていたのだ。

「まあまあ、落ち着いて」

「はぁ、まあ良いですよ。仕方無いですし」

 溜め息を吐くアリネ。

「取り敢えず、行きましょう」

 進み出すアリネ。

「何処行くの?」

「いえ、普通に進むだけですが?」

「まあ待て。行き先知っているのか、オマエ?」

 さも当然とばかりに前に進もうとするアリネに声を掛ける。

「え、あ、そうでした。すみません」

「南西だよ〜」

「はい、南西ですよね? こちらです」

 そのまま真っ直ぐに進む。

「やっぱり現地の人がいるとこころ強いなぁ」

 ささっとアリネの横に並んで歩いて行く女二人を暫く男二人は見ながら

「……なあ」

「……ああ」

 と男二人は言い合って

「おーい、置いてくよー!」

 と呼ばれたのを聞き、軽く目を瞑ってから

「応!」

「今行く」

 と応えた。

 任せてください! イエー! とか言い合っている二人の後を、茂と晶はついていった。

中間テストの季節ですね。

読者に学生の方がいらしたら、頑張ってください、と。

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