シークエンス10:二重人格ってどーよ?(後編)
◆スナエムの町:メインストリート
見渡す限り赤、朱、紅。
そこら辺中に人間だったモノが転がり、血を撒き散らしている。
「ああぁあぁぁあ!!」
斧を滅茶苦茶に振り回しながら襲いかかってきた子供の頭を蹴り割る。
「本当にどこに居るんだよ。村人も話しちゃくれないし」
弓を構えて狙っている男に少年が持っていた斧を投擲する。
斧は弓を叩き折り頭に突き刺さる。
殺しても殺しても退かない町人に、茂は容赦をしなかった。
老若男女問わず襲いかかってくる人間を一片の躊躇も無く殺している。
(漫画の主人公はよく「お前を殺した罪を背負う」とか言えるよね。絶対無理なのに。潰れちゃうよ)
仕込み杖から刃を出して切りかかってきた老人の頸動脈を狙ってナイフで斬る。
ナイフの勢いがありすぎて老人の首が宙を舞う。
近くに出て居た村人は粗方片付いた。
(ここらで何か出そうな予感)
嫌な予想はひたすら当たるのが宇宙の真理。
至る所に気を配る。
周りの家から人が動く気配。
(そこ!)
一軒の家に石を投げつける。
散弾銃の様に飛んだ石は木造の壁をぶっ壊す。
五人程の集団が茂に手を向けている。
壁があった所に浮かぶのは発光する幾何学的図形。
『我等が手は愚者を撃ち抜かん矢を放つ!』
幾筋かの閃光は図形を通り終るとその光量を増した。
「まず……!」
とっさに頭にストックしてある式を展開する。
よく分からない光の矢が茂に到来し、派手な炸裂音がした。
地面が抉れて砂埃が立ち上る。
「やったか?」
砂埃の中から金属板が飛んできた。
金属板は何人かの町人に当たって体を破壊する。
「セーフ」
残らず殺しきって違う建物に入る。
手当たり次第に物を投げるだけで大抵のものは何とかなる。
が、術を使ったほうが楽だろうに何故使わないのか?
答え、現在の茂にちょっと捻った式は扱えない。
今の『茂』は厳密な意味では茂では無いのだ。
記録として『今』の『自分』の記憶は読み込めるが頭は当然■歳児の状態。計算力も当然繰り下がる。
過術には幾らか計算が必要な場合がある。その計算が出来ないが故に今の茂には《歪曲》やら《流操》は扱えない。
更に走りながらロクに集中していないのに数式やらが解けるだろうか?
大概の人間は否の筈。
だから一人一人地道にこうして
「我が手は――」べきゃ。
ニ射目を放とうとした女の首をへし折る。
その異常身体能力で殺している。
勿論刃向かう者だけなのだが、この町に刃向かわない者など居なかった。
「熱っ!」
遠距離から火球が町人を巻き込んで降り注ぐ。
走って逃げる茂と炎上する人々。
(うわ、仲間諸とも)
人が焼ける臭いを嗅ぎながら焼け焦げた皮膚を再生させる。
声が聞こえなかったということは嫌らしい事にどこかから狙撃しているらしい、が
(そう正確な狙撃は出来ないらしいな)
断続的に火球が飛んでくるものの未だに当たったのは最初の一発だけ。
(下手な鉄砲数撃ちゃ当たるって云うけどな。まあ、楽だから良いけど)
やってくる火球は茂に当たらず町人を焼き肉にしている。
人肉が焼け、焦げ、爛れて、周りに人が居なくなった頃に狙撃手を見つけ出した。
「わ、我が――」
手を突き出してきた。手を媒介にした魔法なのだろう。
「楽だったけど感心はしないね」
腕を折って黙らせる。
「答えろ。魔族は何処?」
「お前なんかには言うものか」
「……洗脳されてたりする?」
このとき茂は『もう、終わりかな』と思った。
自己と他人の境界線が曖昧になっていることに気付いたからだ。
「莫迦か。これは俺達の意思だ!」
「じゃあ何で向こう側に汲みしてる?」
「旨味が多いからだ!」
「そう。じゃあこれ以上の問答は無意味か。サヨナラだ」
「ああそうさ。だがお前は気付いていない」
頭を叩き潰そうと手を振り上げたときにそれは起こった。
「俺が《成る》まで待っててくれてありがとよ!」
途端、男の体が膨張した。
衣服が張り裂けて歪な巨体となる。
左右非対称。腕が六本あり、丸い体はさながら、醜悪な肉の塊。
「うけ、うけうけうけぇええぇえぇえぇー!」
その中心から顔が出てきて、叫ぶ。
「……うわ」
「こころ、こころす」
意味不明な事を言う肉の塊は腕の一本をこちらに向けると
「■■■■■■!!」
何か叫んだ。
人の声帯では発音不能なそれを言うと、体から多量の火球が飛び出して周りの家を炎上させる。
「手、意味ねえなぁ」
するとそれは自分の手を見て
「て、てててて、て。てぇえぇええぇ!」
叫んだ。
かちりと頭の中でスウィッチが切り替わる音が聞こえる。
「叫ばないと何にもアクション取れないのかよ!」
茂が突っ込むとそれは手を飛ばした。
「ナヌ?」
ロケットパンチ。
当たれば 挽き肉
今夜のおかずは へちゃげた自分か!?。
「おいおい、引っ込んじまったじゃねえか!」
茂は ロケットパンチを這いつくばって回避する。
本来の人格に戻ったのは突っ込みを入れたから。
そんな莫迦なと言いたいのも分かるが、そうなんだから仕方無い。
茂のは実は精神分裂症とは若干異なるらしい。
が、今重要なのは茂が莫迦力が使えなくなったという点。
色々とリスクが高い式なのでそう乱発は出来ないのである。
「しかもまた腕生えてきてるし」
筋繊維と思わしきものが蛇のように伸びて、絡まり腕が出来上がった。
茂が頭部と思わしき部位に《翔弾》を数発叩きこむ。
食い込んだ鉄は、血と一緒に出て来た。
破損箇所もあっという間に塞がってなくなる。
(どんな生物も脳を挫傷すれば何とかなるって嘘か?)
「て、け、う、うけぇぇえー!」
今度は氷柱が飛来する。
(つーかこいつの脳って本当にあの顔(?)の中か?)
落ちていた鉄パイプ(排水用)で自分に飛んできた氷柱を叩き壊す。これは自力。
散々迷った茂は
「いーやもー爆破しちゃうかー」という結論に辿り着いた。
そうと決まれば即実行。《強化》を使い高校生とは思えない程の速さで近付く。
この《強化》だが、効果はステロイド系の薬物と同じ効果がある。ただし依存性・副作用はほぼ無い。要は《解増》より安全。
死角である筈の背後に回り込み、《爆破》を叩きこむ。
ニ、三度叩きこむ。
閃光。
轟音。
飛び散る肉塊。
撒き散らされる何色とも形容し難い澱んだ色の体液。
「うへうへうへへえええぇぇ!」
「おおこわ」
身体の九割方破壊したのにまだ動いている。
臓器らしいモノは見当たらない。本当に『血が詰まった皮袋』のようだ。
(あー、こりゃ死なんわな。脳みそが無いんじゃ破壊できなかったんだな)
そして再び飛来する腕。
腕ごと向かい討って成れ果てを爆破する。
「次は、あの屋敷を狙うか……」
◆ひじりちゃんのお目覚め
「野郎てめぇちょーしのってっと……ん〜?」
全部繋げれば小説が一本出来上がりそうな壮大な寝言を言い終わった聖は轟音で目が覚めた。
「う〜ん、体痛いな〜」
ぱきぺきと背骨から音がする。
(爆音ねぇ……どっちだろ?多分茂だろうけど)
部屋を見回すと至る所に傷がある。
(何処だっけ?)
「わっ」
すっ転んだ。
床には椅子だった木材が散乱している。
「何でこんなとこに……」
それはあんたが寝相の悪さの末にバラしたからだ。
月に一回くらいこんな日もあるそうな。
(ふーん、まあ良いや。まずは此処から出るのが先決)
ひょいと窓から外を見て、その意思は吹っ飛んだ。
(あー、誰か迎えに来るまで待とう。うん)
外一面死体が沢山なんて光景なら誰でもそうなるだろう。
結局彼女もこの部屋に引き籠もる事にした。
◆一方のあきらくん
『てってってててーてててれっててれっててれってれ〜♪』という電子音が響く。
小型の携帯ゲーム機の音だ。
「ふむ。やはり改造眞理緒はクリアが難しいな」
眞理緒とは『がめつくてムサイ髭オヤジ、ストライキ松田』とその娘の『可憐な見掛けに凶器を持った血まみれ美少女眞理緒』がいい加減さらわれすぎな姫をだらだら助けに行くアクションゲームだ。
因みにロープレバージョンもある。
父親は火炎放射機で敵を金に変えたりやバックパックバーニアで空を飛んだりする。
娘は鈍器→刃物→銃器の順で脅威の三段変化をする。
キノコクサい物質を穫ると死亡許容回数が一上がる有名なゲームだ。
晶が何処に隠し持っていたかは誰にも分からない。
そこで爆音がした。
(さて、ゲームは一度終わらせてこっから出るかな)
ぷちリと電源を落として爆音の方を向く。
(うし、俺は裏方に徹すんべ)
喋り方を変える。別にただの気分なのだが。
その貌にだらしのない笑みを貼り付けて……え、おいアンタそんなキャラだったか?
「うっせ」うわ、会話が成立したよ。
晶はドアの鍵を開けると外に出て
「な、きさ……!」
近くに居た監視役二人。その首を切り裂いた。
首から勢いよく血が吹き出る。
間伐入れずに上腕ニ頭筋を切り落として、アキレス腱を切断。
(出口出口っと、お?)
何かが足音を立てて急速接近。
曲がり角から姿を見せたそれの形状は歪な人形。
身長約三メートル。足は四脚、腕は二本だが、左腕は四メートルはある関取の体。
(裏山にもさすがにこれは出ねーべ?)
それは無言で左手を薙いだ。
「っと」
晶の横の壁を破壊する。
「ひゅー」
覗き込んだ晶は此処が二階程度の高さだと判断すると《強化》を使用。迷わず飛び降りた。(出口まで行く手間が省けたな)
飛び降りた晶は素早く上左右を確認。
(周り、敵影ねーべ。上、うを、追って来た)
その豪腕をぶん回し、叩き付ける。
(素手で床を叩き割る奴なんざ初めてだな。あの茂も此処まではしねーべ)
砕けて散らばった硝子を再構成。
出来上がった《投剣》の数は十。
飛ばす。
左腕を落とす。
刺。
刺。
刺刺刺刺刺刺刺刺!!!
転落と落ちた腕からは瞬時に蛇のように繊維が伸びて結合。完治した。
(難関だな)
またくっついたばかりだと言うのにもう左手を振り回す化け物。
それを危なげに躱す晶。
こんな状況で戦略を練ることはほぼ無意味。即時対応になるわけだが相手が相手である。
(やっぱ吹き飛ばすんがいっちゃんはえーべ)
三人の脳内は『煮詰まった=吹き飛ばす』なのだろうか?
「そんとーり。爆発は使い易くて破壊レベルが高いからな」
だらしない笑みをそのままに晶は《爆鎖》を組む。
ニトログリセリンを内包した鎖が化け物を縛る。
「どぉん」
続けて《翔弾》。材料不足の為飛ぶのは木製の弾。
ぶつかった弾は鎖を揺らす。
結果、振動が伝わった事によって敏感なニトログリセリンが爆発。
その衝撃で誘爆、誘爆、誘爆!
鎖に縛られていた部分は吹き飛び、焼けている。
まるで波が退くように火傷の後も治って行くのが目で見える。
勿論治るのを待ったりはしない。
(さぁ、どんな式だったかな……?)
うろ覚えの頭で《凍結》を組む。
(まあ間違えちゃいーべ)
結論、成功した。
ただし半分だけ。
「……計算ミスったなこりゃ。ま、慣れてねーからな」
箇所によっては凍ってたり無かったと中途半端である。
叩けば壊れる程脆くなっているのだが、また再生されては迷惑だと感じたのだろう。《爆発》を使って全てを吹き飛ばした。
二度、三度と爆音が響く。
文字通り細胞の一片すら存在が消滅した巨腕の化け物が再生する事は無かった。
そう、再生は。
「げはっ……!」
晶を襲う背中からの衝撃。
振り返ると何も居なかった。
(新手?何処だ?)
屋根の上に人影のようなものがあった。
遠目に見れば大体170くらいの背丈。
足は二本、顔は一つ、腕は二本。
問題なのはその腕の長さ。
空に向けた手は、短く見積もっても六十メートルはある。
なんたって屋根から地上まで
「……縮尺おかしーべ?」
片腕が振り降ろされた。
血が出ようがお構いなし。叩き付ける。
絶対折れるような動かし方。
(関節六節?多過ぎ)
かくかく曲がる異様な関節の所為で折れないのだろう。
(折れないなら、へし折ってやんぜ……!)
横薙ぎに振られた腕に踵を振り下ろす ミシリ、と晶の足から嫌な音がする。ギリギリ折れてはいない。
(ッ!何だよこれ)
骨の感触は確かに在る。だが踏んだ感触はない。
(誤りか!コイツの関節は――)
「ぐっ!」
踏まれているところから腕が曲がり、足首を握り砕こうと圧力を上げる。
先程過負荷がかかった足首はいとも簡単に砕けた。
足首に力は入らないのに足の指が動く感じは何とも言えない。
腕が戻ろうとする。
(これ以上持って行かれて(足首引き千切られて)たまるか!)
ナイフで斬る、裂く、刻む!
ふらつく体をマトモな方の足で支えてようやく腕が落とせた。
足を《再生》させながら今し方切り落とした腕を解剖。
(ビンゴ!)
六つどころか、多数の関節。
これだけの関節が在れば、鞭の様に振り回すのも可能だろう。
加えてこの再生速度。
切り落とした腕はまだ生きており、解剖箇所が見る見る塞がっていく。
向こうの腕はと言うと、完治している。
(新しく生えたのか。漫画じゃあるめーし)
化け物は降りてくる気配はなくもう一度腕を振り上げた。アドバンテージを棄てる気は皆無なのだろう。
(裏方に回るってんのに。外れ籤のオンパレードか?まあいいや)
再び振り下ろしてきた腕をよけてナイフを突き立てる。
「おらよ」
気合いが入ってない声、まるでコンセントを抜くような感じで腕を引く。
《強化》した体は物言わぬ化け物を屋根から引きずり降ろす。
地面に着く直前に腕をクッションにして衝撃を殺す。
「頭は若干回るみてぇじゃねえか」
晶はだらしない笑みのままで言う。
「高見の見物たぁいただけねーな。お互い同じとこに立ったんだ。第二ラウンドを始めようぜ?」
前中後と分けたけど終わりませんでした。
はぁ……。