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第3P優子おばあちゃん

あれから(ランの一件)数日がたった午後。サクが財布の中身を見、ため息をつく。ランの一件はただ働きだったため、残金は1500円。ランからもお金を貰うべきだっただろうか?まぁ、今更気づいても遅いのだが。

「はぁ…。ねぇ、レイ、夕飯さ、おかず抜きじゃだめかなぁ?」

サクの問いに、レイは魔本をカジカジとかみながら答える。

「アホか。ふりかけでもいーから買ってこい。」

レイのマヌケな姿に、内心では苦笑しながらも、ドアを開ける。ドアの向こうには、一人のおばあさんが立っていた。だが、サクには、そのおばあさんが幽霊に見えたらしい。悲鳴のような声を上げ、ドアを閉める。

「わああ!!ゆっ幽霊〜!?」

「アホか。ただのバァさんだ。入れてやれ。」

レイに言われ、渋々中に入れた。


「本っ当〜にゴメンナサイッ、倉木優子さんっ!」

ドアが開いて、いきなり閉まったのだ。よほどビックリしたに違いない。素直に謝罪の言葉を述べるサクに、おばあさんは

「いいんですよ。」

と言って続けた。

「まず、これと言ってはなんですが、シチューを召し上がって下さいな。」

言いながら、風呂敷を開ける。中には、鍋に入ったシチューが。二人はよだれをたらし、さっそくご飯に盛り付ける。

「簡単だけど、誠実な広告を見て来たんですよぉ。」

おばあさんが取り出したのは、サクが作った広告。広告には、こう書いたハズだ。


『得体の知れない生き物でお困りの方、相談承ります。

発行者 山下咲』



「でも、その魔法っていうのはどうもインチキくさくてねぇ…」

サクはシチューを食べていた手を止め、また言われた…と内心で思いながら、説明を始める。

「あ、そうですよね。ご説明致します。ええと、魔法っていうのは、困っている人を助けるために必要な力で、得体の知れない生き物を片付けることができるんです。それで、この事務所の上司がこの人なんですが…」

説明の途中で、レイにチラリと目をやる。レイはシチューを食べるのに夢中になっていた。

「…肉がねェ。」

何を言い出すのかと思えば…、とサクは思いながら、レイを軽く小突く。パシッという音がした。

「それで、その相談っていうのは、家に黒い生き物が出るようになってしまって…。それが、一カ所だけじゃないんです。家の至る所に…」

おばあさんは言いながら、涙ぐんでいた。

「数年前、夫が亡くなったんですケド、写真を…盗まれてしまってね…」

おばあさんの説明が終わると、レイは真剣な顔になる。

「…他に何か変わったことは…?」

「変わったこと?ああ、家の周りの木を切って、花を植えましたが…」



その日の夜。夕飯を食べ終わった後、おばあさんの家に向かった。おばあさんの家についた途端、レイが低い声で言った。

「…何で、ティクモが現れるようになったか、分かるか?」

レイの問いに、サクは首をふるふると左右に振る。レイは

「だろうナ…」

と呟いて続ける。

「木はティクモの住みかだったんだ。それを切っちまったからナ。」

レイの言葉に、サクはポンと手を叩く。

「そっか、ティクモのすむ場所がなくなっちゃったんだね!」

「まぁ、そういうこった。」

と呟きながら、チャイムをならす。少しすると、おばあさんが出てきた。パジャマ姿だ。当たり前だろう。

「どうぞ、入って。」

言われた通り、中に入る。中は思ったよりも広かった。一人で住むには、広すぎると言ってもいいだろう。二人は客間に通された。

「バアさん、どこで見たんだ?」

「ええと、キッチンの窓だった。外からびっしり張りついてて…」

レイの問いに慎重に答えるおばあさん。レイは

「台所か…」

と呟くと、顎に手をあてる。恐らく次に現れるのは…。

「…おばあちゃん、後やっとくから寝てて下さい。」

サクに言われ、

「そうかい?」

と言うおばさん。少し説得したら、自分の部屋に戻ってくれた。ホッと一息つくサク。

「レイ、次現れる場所は分かった?」

レイは小さく頷き、ニヤリと笑う。

「恐らく、ココだ。」

意外な返事に、サクは不安になる。客間…?

「ええ!?ウソォ!」

とっさに言ったものの、やっぱり出そうな気がする。しばらく、沈黙が続いた。



「―!オイ。」

沈黙を破ったのはレイだった。サクはレイに視線を向ける。

「…もうすぐ来るゾ。覚悟しとけ。」

サクは頷く。やっと現れる。そう思うと、サクは緊張してきた。一体、どこから現れるんだろう…。窓の揺れる音が聞こえる。サクは一瞬ビクッとしたが、すぐに風だと思い直した。ふと窓を見ると、丸くて黒い生き物が。

「えっ!も、もしかして…」

「ヒヒッ、後他にどれがある?」

レイの言葉に、サクは慌てて首を左右に振る。間違いない。あれだ。

「ん?」

サクはあることに気づいた。ティクモの数が一匹ではない。一、二、三…五匹はいる。レイは本を取り出し、窓を開けた。ティクモがこちらを見ている。

「…フン、ザコが。」

レイは呟くと、窓から飛び降りた。ティクモとの距離が縮まる。サクも降りて、レイの近くに行った。

「…どっどうするの?五匹もいるよ?」

ヒソヒソ声で尋ねると、レイは

「黙れ。」

とだけ言った。サクは少々、面白くない気持ちになる。二人を、五匹のティクモが囲む。五匹が同時に炎を吐き出した。レイは冷静な口調で、

「ストーン・シールド!」

と言った。ドーム型の盾が炎を防御する。だが、盾はどんどん赤くなっていく。

「れ、レイ、まずいんじゃ…」

「ごちゃごちゃ言うナ。ウォーター!」

水の玉が現れ、急激に冷やされた。そのおかげで、盾は元に戻っていく。と、突然、炎がやんだ。サクは首を傾げる。

「あれ…?炎が…」

「…!」

レイが本を閉じ、シールドを消した。そして、他の呪文を唱える。

「ウォーター+、ダブル!」

四匹のティクモに当たり、消滅する。あと一匹。レイは、残り一匹になったティクモに狙いを定める。

「ウォーター!」

見事に命中し、仕事は終わりを告げた。レイは本を閉じ、歩き出した。サクは後に続こうとしたが、何かを見つける。

「ん?」

と不思議に思って、下に落ちていたキラリと光るモノを手に取った。

「!これって…!」

サクは小さく呟く。落ちていたのは、おじいさんの写真。笑っている。きっと、おばあさんの夫だろう。サクは写真をまじまじと眺める。楽しそうだな…。その時、遥か前方からレイの声がした。

「オイ、何してやがる。置いてっちまうゾ。」

「い、今行くってば!」

サクは写真をポケットにしまい、駆け出した。



レイに追いついたサクは、拾った写真を見せた。

「恐らく、あのバアさんのだろうナ。渡してくるか。めんどくせェけどさ。」

「そ、そうだね。起こしちゃ悪いかな…?」

サクは迷い始める。だけど、起こさないとお金が貰えない。財布がピンチなのだ。起こすべきか、起こさないべきか悩んでいると、部屋からレイの声が聞こえてきた。

「オイ、起きてくれヨ。」

レイが揺さぶる姿を想像し、サクは苦笑してしまう。おばあさんはうっすらと目を開けた。歪む視界の中で、おばあさんはゆっくりと起き上がった。その時、やっとサクが到着する。

「?」

目をこすりながら、首を傾げるおばあさんに、サクは写真を差し出した。おばあさんは写真を見るなり、嬉しそうな顔になった。おばあさんの目から涙がこぼれ落ちる。

「おじいさん…」

サクも涙ぐんでしまう。良かったね、おばあちゃん…。おばあさんからお金を貰い、家を後にする。



翌朝。サクとレイは言い合っていた。

「ええ?今回もダメなの?」

「くどい。」

レイはベッドに横になったまま、答える。サクは

「ちぇ〜っ…」

と呟くと、ドアに手をかけた。

「はぁ…買い物にでも行ってこよ…。」

「おーおー、行ってこい。コレでやっと寝れるゼ…」

レイの部屋を背中で聞きながら、ドアを開ける。

「ちぇっ、寂しいもんだね…」

ドアの向こうにはおばあさんが立っていた。

「おばあちゃんっ?」

サクが呟くと、おばあさんがそれに答えるように言う。

「シチューはいかが?」

サクが嬉しそうに言う。

「いやったぁ〜!レイ、シチューだよぉ!」

サクの言葉に、閉じかけていた目を開ける。

「んあ?うるせェなぁ…」

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