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GAME -2010-   作者: 転寝猫
8/12

12月24日 22:00

ぽーんぽーんと、柱時計が時間を告げ。

ぎょっとした様子で振り返り、小さく舌打ちをした男達は…何事もなかったかのようにまた、私とマスターに鋭い視線を向けた。

はぁ…どうしよう。

ママ、大丈夫かな。

それに…すずも。

あの子、うっかり仁くんや睦月に連絡しちゃったりしてないかしら。

でも…分かっちゃうのは時間の問題か。

…みんな、心配してるだろうな。

「心細そうだなぁ、姉ちゃん」

はっとして顔を上げると、強盗団の一人の淀んだ瞳が、すぐ目の前にあった。

びっくりして後ずさるが…手足を粘着テープで固定されているので、あまり意味がなく。

黒い皮手袋をした大きな手が、顎の付け根辺りに触れ。

ぞぞぞ…っと、鳥肌が立った。

「な?怖いだろ、可哀相になぁ」

タバコ臭い息がかかり。

私は震える声で、その男に尋ねる。

「そ…う…思うなら…解放してくださっても…いいんじゃ…ないです…か?」

すると、彼は突如お腹を抱えて笑い出し、他の四人の仲間の方を見る。

「おい聞いたか!?解放して『くださる』だってよ!」

「案外、どっかのお嬢なんじゃね?あんな景品交換所襲うより、この姉ちゃん人質に身代金要求したほうが、大金入ってくるんじゃねーの!?」

そうだなあ、と天井を仰いで呟き。

さっきの男は下品な笑いを浮かべて、再び…私を見た。

「それに………この姉ちゃん、よーく見ると可愛い顔してんじゃねーか」

背中に氷でも入れられたみたいに…悪寒が走る。

「マジかよ!?おめー本当屑だなぁ!」

「いいんじゃねーの!?悲鳴の一つも聞こえたほうが、外の馬鹿共もマジになんだろ」

「…ち…ちょ…っと」

「待て!!!」

マスターの悲鳴が上がる。

「頼む!その子には手を出さないでくれ!」

「…ああ!?」

「その子は何も関係ないじゃないか!頼むから…」

男達から、どっと嘲笑が沸き起こる。

「『その子には』かよ!?」

「馬鹿じゃねえのこいつ!」

「てめーも俺たちとは無関係なんじゃねーの!?意味わかんねーんだけど」

「そんなこと…そんなこと今はどうでもいいじゃないか!?頼む…彼女は解放してやってくれないか!?」

「…マスター」

「何だてめぇ」

ドスのきいた低い声で言って、別の一人がマスターに近づく。

「んだよ…このガキに気でもあんのか?」

「そうじゃない!そうじゃないけど…人質は俺一人で十分だろう!?ほんの僅かだが蓄えもある!奥の金庫に通帳と印鑑なら入ってる」

マスターの言葉に、顔を見合わせる男達。

私達から一番遠くにいた一人が確認のためか、店の奥へと入って行った。

「マスター駄目です!だってあれは」

悲壮な顔で俯くマスターに、慌てて声をかけるが。

私の想いも虚しく…あったぞ、という男の声が、奥から聞こえてきた。

「どうだ?」

「ああ、こんな店にしては、そこそこの額かな」

あれは…お父さんの保険金なのに。

お店が苦しくて、大分目減りしたらしいけど…大切なお金であることには変わりない。

「どうだ?これで嘘じゃないって分かっただろ。頼むから文ちゃんは」

「ほーお、『あやちゃん』ていうのか、姉ちゃん」

目の前にいた男を…じっと睨む。

………許せない。

「何だ?怖い顔しちゃって…かわいい顔が台なしだぜ?」

「あれはマスターの大事なお金なんです。手を出さないで」

「そうか。じゃあ姉ちゃんは、ここから逃げられなくてもいいってぇのか」

「どうせ…最初から、逃してくれる気なんてないんでしょ」

吐き捨てるように呟いた私を見ていた男達から、笑い声が上がる。

「文ちゃん!」

かっとなった私を制するように、マスターの慌てた声が聞こえてきたが。

何も出来ない自分が、悔しくて情けなくて…私は声を更に張り上げた。

「こんなことして…あなた達、恥ずかしいとは思わないんですか!?」

気分を害したらしい男は、ちっ…と舌打ちをして。

不意に私に覆いかぶさるようにして、耳元で囁いた。

「じゃあ…ご期待通り、『恥ずかしい』こと…してやろうじゃねえか」

「えっ…ちょっと」

「文ちゃん!…お前らやめろ!!!やめてくれ!!!」

「…さっきから、うだうだうるせーんだよ!!!」

一人がマスターの顎を、思い切り蹴りあげる。

「ぐぁっ………」

「マスター!?」

「っと、他人の心配してる場合か?姉ちゃん」

男の指が首筋に触れ…再びぞーっと鳥肌が立つ。

「やっ…やめて!離して!!!」

「ほーら大人しくしろって」

「嫌!!!」

マスターの力無い悲鳴と、男達の笑い声。

そして。

じたばたともがく私の体を押さえ付けた男の手が、シャツワンピースの裾に延びた。


…その時だった。


ガシャン!!!と、窓ガラスの割れる音がして。

私に覆いかぶさっていた男に…何かがぶつかる、鈍い音がした。

「…何だ!?」

動揺する男達のうち、一番遠くにいた男が突如…呻き声を上げて、その場に崩れ落ちる。

「なっ…どうした!?」

「何なんだよ一体!?」

「………何だてめーら!?」

マスターの傍にいた男が…店の奥に向かって叫ぶ。

慌てて男から逃げるように起き上がり、マスターと顔を見合わせた私の耳に。

聞こえてきたのは…

「知らざぁ言って聞かせやしょう」

聞き慣れた…元気な声。

目を丸くする男達に向かい、モデルガンを肩に担いでポーズをとると。

声の主は、威勢良く叫んだ。

「不知火すず、見参!!!」

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