12月24日 19:00
「あーーーもう!つまんない!!!」
素っ頓狂な声を上げる不知火に…周囲の人の視線が釘付けになる。
思わず俺は…目を背け、呟いた。
「いつもいつも…声がでかいんだっつーの」
「何よ!水月、聞こえてるわよ!?」
聞こえてたらなんだよ…と、今度は心の中で悪態をつく。
『一年前のあの場所に集合』
メールは俺と不知火先輩、それに睦月に向けて、送信されていたのだが。
まさか…俺だけが、わざわざこんな街の真ん中まで…華やかに着飾ったカップル達の奇異の目に晒されるために、のこのこやってきてしまったのだろうか。
ここはいつも遊ぶ街とは違い、俺達にはちと早い感じがする、大人の雰囲気の街だ。
居心地が悪くて堪らない俺の嘆きなど、全く意に介すことなく…大人っぽさのかけらもない制服姿の不知火は、大げさにため息をついて街灯の柱に手を置く。
「ったく。何でせっかくのクリスマスに、あんたと二人でこんなとこにいなくちゃなんないのよ」
「…呼び出したのはお前だろうが」
「もう!あんた『を』呼んだんじゃないってーの!あんた『も』含めてみんなを呼んだの!あれから一年も経つんだよ!?当時の懐かしい話の一つもしたいなぁ、とかって思うじゃない?けど、みんな面倒臭がりだしさ、全然そういうの仕切ろうとしないでしょ?だからメールしてやったのに…」
苛々した様子で、だん!とアスファルトの地面を踏みしめる。
「ぁんの睦月の馬鹿、『仕事』って何よ『仕事』って!!!」
「仕事は…仕方ねーだろ」
「イブの日に大事な彼女をほったらかして仕事!?ありえないっつの!!!あいつ、仕事とお姉ちゃんとどっちが大事なのよ!?」
そりゃ………
やっぱ…先輩なんだろうな。
初めて会ったときは、なんて気障な奴だろうって思ったけど。
そうそう。なんだかんだ言ったって芸能人だし、先輩のことちゃんと大事にするのかよ…って、内心心配だったんだ。
…それが。
確かあれは、クリスマスの翌日の…生放送のラジオ番組だったと思う。
『実は僕、ついに運命の人に出会っちゃいました!』
冒頭の奴の言葉に…俺は思わず飲んでたコーラを思いっきり吹いた。
『馬鹿か…こいつ』
翌日のテレビやスポーツ新聞は…もう大騒ぎで。
冬休み明けの学校も、『KEIの彼女』の話題でもちきりだった(そして、不知火はいつもに増して不機嫌そうだった)。
どこの誰だ、どんな子なんだって…一年経った今でも、芸能ニュースにその話題が上らない日はない。
たまに会っても、口を開けば文、文、文だし、聞きたくもないノロケ話は延々聞かされるし、
大切にしてることは間違いないんだろうけど。
それはそれで…なんつーか…ちょっと心配になることが、時々ある。
そっか。
もう一年も経つのか。
ウンディーネ…元気かな。
精霊の世界は俺達の世界より、時間がゆっくり流れているらしい。
ひょっとしたら、あいつ…俺と別れた時のこと、昨日のことみたいに思ってるかも知れないな。
『仁』
彼女の声が聞こえたような気がして、振り返ってみるが。
雑踏の中に、勿論…彼女の姿はなく。
華やかに着飾った沢山の恋人達が、腕を組んで幸せそうに歩いているだけだった。
思わずため息をついて…ちぇ、と小さく舌打ちする。
そうだな。
クリスマスの街を一緒に歩くなら…やっぱり。
「ちょっと水月、聞いてんの!?」
………誓って、絶対に…こいつなんかじゃない。
「なぁ、不知火。先輩も今日はバイトなんだろ?そんなこと言ってさぁ、本当はどっかで二人っきりで過ごしてるのかも知れないぜ。だから」
『同窓会は後日ってことにして帰ろう』と言いかけた俺を、不知火は鬼のような目で睨む。
「………何だよ?」
「だったら、行ってみる?お姉ちゃんのバイト先」