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GAME -2010-   作者: 転寝猫
12/12

12月25日 1:00

「ねえねえ、準備出来たー?」

寝室のドアを少し開けて私の姿を確認し、満足そうに頷いて…すずは、リビングに向かって得意げに声を張り上げた。

「ではでは皆様お待ちかね、今日の真打ち登場でーっす!」

じゃーん、と目の前のドアが開け放たれ。

睦月と仁くんの視線が、真っ赤な衣装に注がれて。

私は思わず…体を縮めて俯く。

「ほらぁお姉ちゃん!サンタさんが恥ずかしがってちゃ駄目じゃなーい」

「だって…」

もじもじする私とぽかんとする睦月が面白くて仕方がないらしく、すずは私達を交互に見ながら笑っている。

「睦月、どーよ?ミニスカサンタ文の感想はっ」

「…すっごくいいと思う」

「えっ………本当?」

うん、と真面目な顔で頷いた睦月は、私の肩を抱いて…すず達にくるりと背を向けた。

「サンタさんっていうからには、プレゼントとか…あるのかな?」

「あっ…ごめんなさい、実は…うちに置いてきちゃってて」

あのごたごたで、結局一度も家に帰れず…用意していたプレゼントは、部屋の引き出しにしまったままだった。

だって…せっかくのクリスマスイブだし、今夜会えるなら、バイト終わって一度家に帰って、プレゼント持って、ちゃんとおめかしして、って…思ってたんだもの。

………あんなことになっちゃったけど。

気まずい気持ちでますます小さくなる私に、睦月は大丈夫…と、優しく微笑んでくれる。

「俺…文がいてくれれば、他には何もいらないから」

「えっ………?」

熱い瞳で見つめられ…くらっと目眩がして。

「こらあお姉ちゃん!健全なサンタさんが、そんな誘惑に負けちゃ駄目!」

すずのいつもの元気な怒鳴り声で、はっと我に返り…私は慌てて、寝室へ誘う睦月の腕から逃げ出した。

「ったく…いいとこだったのに」

不満そうに口を尖らせる睦月に、仁くんが不機嫌そうな声で言う。

「なぁにがいいとこだよ…ばーか」

「…何だよ。文句あんのか?」

「あー大ありだよ!テレビじゃ猫かぶって、澄ましてカッコつけてるくせして!そんなヤラシイ手つきで先輩に触るな、このスケベ野郎!!!」

「まあまあ…今日はクリスマスなんだから、みんな仲良くしよ!仲良く!」

すずは楽しそうに二人の背中をバシンと叩き、にやりと笑って…仁くんに耳打ちした。

「で?水月。不健全なミニスカサンタさんは、この後…仲良く何してくれるのかな?」

と。

言葉に詰まり、真っ赤になった仁くんは。

俯いて…大声で怒鳴った。

「………んなこと、言うか馬鹿!!!」

………???

「おー?仁、何だよそれ」

睦月が意味ありげな笑みを浮かべ、仁くんの脇腹を突付く。

「っせえなぁ!お前は黙ってろ!」

「なんだよ、教えてくれたっていいじゃない。ねえねえ」

「やめろ離せ!聞くなって言ってんだろ!?」

「なーんだ!俺のこと、さんざんエロアイドル呼ばわりしといてさぁ。仁だって、人のこと言えないじゃん!」

「…あーーーもう!不知火!?」

「えー何ぃ?私なーんもわかんなーい」

「お前が妙なこと言い出すからいけないんだろ!こら待て!!!」

思考停止に陥った私なんかそっちのけで、三人はとても楽しそうだ。

なんか…よくわかんないけど。

いつもの平和な光景に、全身の力が抜けて…私は大きく息を吐き、ソファーに沈み込む。

警察は若干首を捻りながらも…一応、睦月の作ったシナリオを信じてくれたらしい。

何といっても…犯人達が口を揃えて『間違いない!』って、力強く主張しているのだ。

まあいいか…って顔をして…警察官のおじさんは、『何か思い出したことがあったら連絡しなさい』と電話番号のメモを手渡してくれた。

『ありがとう』

警察に連行されるマスターは…とても清々しい笑顔だった。

『文ちゃんのおかげで、俺…やっと、自分で歩いていける気がするよ』

『あの子が帰ってくるまで、『ロザリオ』は私がしっかり守っていくわ』

泣きはらした目で…マスターのお母さんは、そう約束してくれた。

すかさずお手伝いを申し出た私に、警察の人達は目を丸くしていて。

『文ちゃんは…ほんと、相変わらずね』

やっぱり泣きはらした目をしたママが…笑って言った。

…ママ。

もう、寝てるかな。

沢山心配かけちゃって…可哀想なことしちゃった。

「お姉ちゃん、大丈夫?疲れちゃった?」

いつの間にか隣に座っていたすずが、私の耳元で心配そうに尋ねる。

「んーん、平気。ねえすず…」

私って親不孝者かな、と訊くと…何で?と聞き返された。

「あんなに心配かけたのに、こんな風に遊んでて…パパ、怒ってると思う?」

「んーーー………」

腕組みして…一思案した後。

すずはにっこり笑って、私の手をぎゅっと握った。

「大丈夫!パパきっと喜んでるよ!」

「…喜んでる?」

「うん!『夜遊びするなんて、文も大人になったなぁ』って。ママだってきっとそうだし」

「…そうかな」

「そうそう、だから気にしない気にしない!今日はみんなで馬鹿騒ぎするとして、明日は母娘水入らずで過ごせばいいじゃない」

「………そうだね」

その時。

すずの携帯が、賑やかな音楽を奏でる。

慌ててボタンを押し、真剣な顔でメールを確認するすずに…こわごわ、尋ねてみる。

「…誰から?」

「後輩」

「………男の子?」

「んー、まあそうだけど…何?そんなんじゃないわよ?」

急に不機嫌そうな顔になって、すずは携帯のディスプレイをこちらに向けた。

『珍種のモンスターげとしました!INしてます?』

………???

「『げと』って何?」

一瞬言葉に詰まり…すずは、ちょっとだけ顔を赤らめる。

「………ゲットのこと」

「じゃあ、『IN』は?」

「ログインしてるかってこと。もお、誤解解けたならいいでしょ!?」

「………うん。ごめん」

すずの好きなゲームのこと、教えて欲しかっただけなのに、なんか…怒らせちゃった。

すずのゲーム好きは、相変わらずだし。

仁くんもきっと、明日からは野球一色の日々に戻るのだろう。

明日はお休みらしいけど…睦月も年末まで、スケジュールはぎっしりだって言ってたし。

私も、また…『ロザリオ』のバイト、頑張らなきゃ。

「ねえ、すず?」

「もう、だから何よ?」

「すずの言ったとおり、こんな風に一年に一回、四人で集まるのって…いいね」

呑気だなぁとため息をつきながらも…すずは頷いて、私に同意してくれる。

「来年も、こんな風に集まろうね」

「…睦月怒るよ?」

「そうかしら」

「そらそーだ。イブは恋人と二人きりで過ごすもんでしょ?常識的に考えて」

「んー…でも」

クリスマスは私達四人にとって、特別なイベントだから。

「やっぱり…みんなで過ごしたいな、私」

すずは髪を掻き上げ、大人ぶってため息をつく。

「そーね。まぁ…彼氏が出来るまでなら、付き合ってあげてもいいけど」

「本当?」

嬉しくなって声のトーンが上がってしまう私を見て、呆れたように笑い。

すずは、まだ何やらじゃれ合っている睦月と仁くんに、やれやれ…という視線を向けた。

「ともあれ、来年は…もうちょっと平穏なクリスマスを過ごしたいけどね」

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