12月24日 23:30
『今そっち向かってるから』
水月からの電話に、私は思わず…おっきくガッツポーズをした。
ついさっきまでとぼとぼ歩いていた私達の歩幅は…段々大きくなってきて。
…となると、足の長い睦月に置いていかれそうになり。
ちょこちょこと小走りになりながら、私は睦月の背中に向かって声をかけた。
「良かったね睦月!やっぱあいつは頼りになる!」
「…そうだね」
どことなく暗い睦月を励ますように、私は背中を思い切り叩いてみる。
「もう、どうしたのよ!?お姉ちゃん無事だったんだよ!?」
「…うん」
「なぁによ、あんた手柄を水月に取られて拗ねてんの!?馬っ鹿ねぇ、お姉ちゃんすごーく喜んでたじゃない」
「…うん」
「ねえ、お姉ちゃんてさぁ、あーんなに甘い顔で笑うんだね!それに『睦月』って呼ぶ、あの声よ、声!」
思い出すだけで恥ずかしくなって、くうぅ…と思わず両手を握りしめる。
「語尾に『はあと』って付けちゃいたくなるくらい、なんてゆーか、猫みたいな声でさぁ…恋って怖いね、私は今日改めて実感した!」
「…怖い、か」
ぽつりと呟いて、睦月はぴたりと立ち止まってしまう。
「ちょっと、どうしたの?」
「俺もさ………今日、心底怖いと思った」
「………何が?」
「………文を…失うこと」
急に強い風が吹いてきて…私はぶるっと、小さく身震いする。
「馬鹿だよな、俺…文が何しようが、どんな奴と会おうが話そうが、どうでもいいじゃんそんなこと。そんなことより…文が生きていてくれて、あんな風に俺の名前呼んでくれて、笑っていてくれることが…何倍も何十倍も大事だって。何でこんなに大事なこと、忘れちゃってたんだろうって。今日…本気で実感した」
「睦月…」
何だか…胸がぎゅうっと絞めつけられるみたいに…苦しくなる。
前世だかもっと前だか、睦月は死んだお姉ちゃんの敵討ちをして、後を追おうとしていて…そこで、風の精霊シルフィードと出会ったのだという。
そして、何度も何度も転生を繰り返して…やっと愛する人に、再会することが出来たのだ。
そっか。
すっかり忘れてたけど、そうだったんだよね。
ちょっとくらいヤキモチ妬きなのも、それじゃ…しょうがないよね。
それだけ睦月にとって…お姉ちゃんは大切な存在なのだ。
ごめんね、睦月。
私もちょっとだけ…反省した。
これからは、あんまり馬鹿だ馬鹿だって言うの…控えよう。
「本当は、鍵掛けて閉じ込めておけたら一番いいんだけど」
「………は?」
「それはさすがに無理だし…そうだ!白鳥さんの代わりに、俺のマネージャーになってくれたら………でも、文はお医者さんになるって夢があるんだもんね。やっぱり、せめて早くお嫁にもらってあげなきゃ。それで…文に似たかわいー女の子産んでもらって」
妄想モードに突入しだした、半笑いの睦月(テレビの『KEI』なら絶対見せないであろう、油断しきった表情)に…私は思わず、呟いた。
「この…うつけ者が」
それでは…結局話が360度回って…元に戻ってきてしまっているではないか。
呆れかえる私の顔を…きょとんとした目で、不思議そうに見つめる睦月。
「…何?それ」
「だぁから、馬鹿っつったのよ、馬鹿!あんた時代劇も出てたでしょ!?なーんでそんな言葉も知らないのよ!?」
「だって…そんな台詞、なかったもん」
「あーもう、駄目駄目!やっぱり、お姉ちゃんにはあんたみたいな馬鹿じゃ駄目!私絶対認めないから!結婚なんてもっての外よ!天国で泣いてるパパに代わって、私があんたのことぶん殴ってやるんだから、覚悟しときなさい!!!」
その時。
「おーーーい!」
平和そうな声が、どこからともなく聞こえてきて。
見ると、遥か遠くに、大きく手を振っている水月の姿があった。
私も両手を振って答える。
「おっつかれー!これからどーするー!?」
「そうだなー!もう遅いし、俺そろそろ帰るよ!先輩によろしくって伝えて…」
「あー待って待って水月!これからみんなでクリスマスパーティーしようよ、睦月んちで!!!」
私の咄嗟の思いつきに、睦月は不意打ちを食らった様子で…なにそれ、と顔を強ばらせる。
「俺、なんにも聞いてないぞ?ていうか、今夜は文と二人っきりで…」
「いいなーそれ!すっげーいい!!!」
事情を知らない水月は、嬉しそうに手を振って叫んだ。
「わかった、俺ちょっと親に電話するわー!」
「おっけー!私お姉ちゃん拾ってくからさぁ、睦月と先行っててー!」
「…ちょっと」
「りょーかいりょーかい!睦月、よろしくなー!」
私達の勢いに負けた睦月は、がくりとうな垂れ…か細い声で言う。
「わかったよ…うちで良ければ…おいで」
見上げると、都会の夜にしては珍しい…綺麗な星空。
そして。
「…あーーー!!!」
「どうした不知火!?」
「流れ星よ、流れ星!ほら、また!!!」
「え!?どこどこ!?」
「ほらほら、あそこ!もー睦月、そっちじゃなくて、こっちだってば!ほら!!!」
今年も、慌ただしいクリスマスになっちゃったけど…
来年は、もっと楽しいクリスマスを、みんなで迎えられますように。
流れる星を見ていたら。
来年も今年以上にいい一年になりそうな…素敵な予感がした。
文が警察に保護されて色々手間どったので、次は2時間後です。