愛の重たい婚約者ともうすぐ結婚する
なんでもあり。
「だから、結婚することはもう決まったじゃないですか…!」
「そうだよ?」
「だったら、もう私のことは口説かなくていいじゃないですか!」
「それとこれとは別だよ。君のことが好きだと知っておいてほしいんだから」
つい先日結婚式の日取りが決まったばかりのお相手、エルバード様は大きな薔薇の花束を持ってにっこり笑った。
それ毎度のことじゃないですか!
もう〜〜、十分ですっ…!!!
「愛されていることに何の不満があるわけぇ?」
「抱えられない重さは、手から溢れるだけでしょって話ですよ」
「惚気にしか聞こえないわ」
「そうじゃないんですって…!」
先に結婚して嫁いでいった姉様にやれやれと首を振られたけれど、そうしたいのは私の方だ。
結婚式の相談とかこつけて実家に帰ってきている姉様は、家でのんびりしているだけだ。
夫である義兄様とは上手くいっていないみたいで、私の不満は自慢話に変換されてしまう。
上手くいかないのと、過剰な愛と、どちらがしあわせなのかしらね…。
「そんなに文句があるなら、私と変わってほしいくらいだわ」
「義兄様だって、いい人ではありませんか」
「あなたには優しいところしか見せないからでしょ?」
「姉様だって、エルバード様の外面のいいところしか見たことないではありませんか」
互いに、むう…と顔を顰めて、同時にため息をついた。
ああ言えばこう言う、我ながら姉妹そっくりである。
「…そうね、夫婦や婚約者のことなんて、本人にしかわからないことがあるわね」
「…ですねえぇ」
「そうは言っても政略結婚で仲良くしている夫婦は貴重なのだから、ルーシー、あなたも少しくらいエルバード様に歩み寄りなさいな」
そう言って、姉様は紅茶を口にして話を切り上げた。
だから、姉様は知らないからそう言うのですよ。
エルバード様は私のことが好きすぎて、私を攻略するのではなくて、私の父様に事業の共同計画を持ちかけて家の結びつきを作ることにした。
必然的に我が家に余っていた娘である私との婚約が決まったのだから、エルバード様の思いのままというわけだ。
そんなの、『重い愛』以外になんて言えばいいんですか…!!!
あのにっこり笑顔に、私はいまだに慣れないまま。
浮かない顔の姉を見て、少しでもエルバード様のことを考えるのをやめたくて、義兄様に手紙でも書くか…と現実逃避するのだった。
「それで、どうしてルーシーが手紙を書いているの?」
「早く迎えにきてくださいって、義兄に伝えるためですけど…」
「それはルーシーがしないとダメなの?親族とはいえ、僕以外の男と手紙のやり取りをしないでほしいな」
「だから、こうしてエルバード様の前で手紙を書いているではないですか…!」
「…それでも嫉妬してしまうよ」
「これ以上の譲歩は無理です」
そう言って、エルバード様の目の前で手を進めていく。
それなのにじーっと私のことを見つめて、何か言いたそうにしている。
どう見ても、私の方が譲歩してますよね…!?
なのに、なんで私の方が悪いことしているみたいな気持ちになるんですかぁ…。
思わずムッとして、エルバード様を見た。
すると、なぜか嬉しそうににっこり微笑まれた。
「そんな顔も可愛いね、ルーシー」
「…もう黙っててください、エルバード様」
ため息が出てしまう前に、さっさと手紙をしたためていく。
このやりとりに付き合っていたらキリがないと、さすがの私も知っている。
「手紙にはなんて書くの?」
「姉は義兄とうまくいっていないことを悩んでいるのですよ。でも、素直に言えないので、お節介でも焼こうかと」
「そう」
「義兄様は忙しいだけなんですけどね」
「僕だったら、ルーシーを最優先させるけど」
「義兄様は仕事が優先なんです。仕事ができる人は、私からしたらかっこいいのに、姉様も贅沢ですよねぇ」
「…ルーシーは、その男が好きなの?」
エルバード様の低い声がして、ギョッとする。
どうしてそうなるんですか…。
「尊敬はしてますよ。異性として見ているわけがありませんよね?姉の旦那様ですよ」
「それならいいのだけれど」
「どうせエルバード様が、そんなことさせないじゃないですか」
手紙を書き終えて顔を上げると、エルバード様はきょとんとしていた。
あんまり見たことない顔で、私の方が首を傾げてしまう。
「どうかされましたか?」
「あ、いや。…僕の愛は、ルーシーに届いているんだなと思って」
なぜか照れているエルバード様に、余計に首を傾げる。
「あれだけいつも伝えてくるのに、何を今更そんなことを言っておられるのですか」
「…そっか。伝わっているなら、いいんだ」
そう言って、エルバード様は嬉しそうに微笑んだ。
その顔は、いつものにっこりとは違って、心から笑っているように見えた。
どうしてだか、私の方が胸がキュッと苦しくなってしまった。
「どうして迎えにきたの!?」
「ルーシーに手紙をもらって」
「あなた、何かしたの?」
姉様にギッと睨まれたので、へらへら笑っておいた。
ついでに今日も私に会いに来ていたエルバード様の後ろに隠れたので、私はもう安全というものだ。
あとは、夫婦で仲良くしてくださいな。
「エルバード様、行きましょう」
「ああ」
「あっ、こら。ルーシー!」
「義兄様、姉様のことよろしくお願いしますねぇ!」
それだけ言って、庭へと逃げたのだった。
「それで、あの男のどこを尊敬しているの?」
エルバード様が真剣な顔でそう言うから、私は意味がわからずにぽかんとしてしまう。
「なんですか、その話」
「義兄殿のことは尊敬しているんだろう?」
「ああ、前に言っていた…、そりゃあ尊敬していますよ。あの姉様と結婚して頑張ってくださっているのですよ?」
「君のお姉さんは優しい人だと思うけど…?」
「家族の前で見せる顔は、もっと面倒くさいんです」
「…なるほど。僕も、ルーシーにとって、面倒くさいかな?」
切なげに目を細めるエルバード様を見て、やっぱり私の胸がギュッとなる。
「…それは、まあ、もう慣れましたよ。姉様よりはかわいいものです。愛は、重たいですけど」
「そっか」
「エルバード様は、私を離してはくださらないのでしょう?」
「絶対に無理だね」
「じゃあ、私が譲歩するしかないではないですか」
「ルーシー…」
エルバード様が、私に近づきたそうにしながら、少しだけ距離を空けてくる。
普段はぐいぐいくるくせに。
もう、しょうがないんだから。
「だから、結婚だってするでしょう?それで納得してくださいよ」
そう言って、私はエルバード様の手を握った。
泣きそうな顔で、私を見てくるから笑ってしまう。
「私のことが好きなくせに、私に愛されてないと不安になるのずるくないですか?」
「…重い自覚があるから、僕より好きになってくれることはないだろうってわかっているし」
「エルバード様より、好きになるのは無理ですよ…。でも、嫌いじゃないですよ」
私の言葉にエルバード様は弾かれたように表情を変えた。
そう、嫌いではない。
どうしていいのかは、まだ掴めていないけど。
「愛が重くて怖いので、まあ、それなりに距離感を掴むまではもう少し待ってください」
「ルーシーのそういうところも好きだって気づいている?」
「ええ、私ってなんだかんだいって甘いですよね。…姉様にも、エルバード様にも」
私がそう言うと、やっぱりいつものにっこり笑顔で私を見ていた。
その視線が愛おしいと言っているから、私が戸惑うなのだと、エルバード様はいい加減自重してくれてもいいと思う。
結局は、この人と結婚するしかないのだから、歩み寄りが大事って話よね。
あーあ、姉様の言う通りじゃない。もう〜。
了
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