ゲームフェイズ1:『16』塔2
「ふぃー。結構上ったなあ」
バカは塔のてっぺんまで一気に駆け上り、にっこり笑顔になった。
何せ、塔のてっぺんなので見晴らしがよろしい。見晴らしがよろしいので気分もよろしい。バカと煙は高いところが好き、とはよく言ったもので、バカは高いところが大好きである!
「おーい!デュオー!むつー!」
そんな高い塔のてっぺんから地上を見下ろすと、小さく小さく、デュオとむつが見える。少なくとも、バカの目には見える。バカは視力がとんでもなくよろしいので。
一頻り、デュオとむつに手を振ってから、バカは満足して塔のてっぺんを探し始めた。
「カード、カード、と……。えーと、塔の絵が描いてあるカード、なんだよな、多分……」
バカは、事前にデュオから聞いていた情報を頼りに、きょろきょろ、と辺りを見回して……それからようやく、1枚のカードを見つけた。
「おっ!多分コレだな!」
デュオが言っていた通り、『塔』が描かれたカードだ。バカは、それを大事にケツのポッケに入れようとして……そこにポッケが無いことに気づいた!
そう!着替えちゃったから、ポケットが無いのである!
仕方がないので、カードはガウンの合わせの中に入れておくことにした。これなら大丈夫だろう、とバカは頷いた。
……すると。
「おっ!本当に崩れるんだな!」
ごごごごごご、と地面が揺れ始め……そして、塔のてっぺんが、ぼろぼろになって崩れていく。
バカはそれを見ると……塔のてっぺんから、塔の外に向かって『ずどどどどど』と走っていく。
そして。
「でいっ!」
……一息に踏み切って……跳んだ!
バカは、塔の外、何も無い空中へ、跳んだのである!
宙へ躍り出たバカの背後で、ガラガラと塔が崩れていく。今頃、内部の螺旋階段を駆け下りていたならば、崩壊に追い立てられるようにして必死に走る羽目になっていたのであろうが……空中は、自由である。バカを追い立てるものは何も、無い。
ただ、重力だけが確かにバカを見咎めた。『いやいやそうはいきませんよ』とばかり、バカの体は地上に向かって下降を始める。
……だが、バカは焦らない。ただ、地上に向かって一直線、迷いなく落ちていき……そして。
「着地!」
……しゅたっ、と、何事も無く、着地した。
何事も無く。種も仕掛けも無く。羽なんて出さずとも。これくらいできずして、何がキューティーラブリーエンジェル建設フローラルムキムキ支部の正社員か!
「……樺島君。あの、えーと……」
そんなバカと、バカの背景でガラガラと崩れていく途中の……バカよりスピードの遅いように見えてしまう、そんな塔とを見ながら、デュオはちょっと何か言い淀み……。
「……うん、やっぱりいいや。あははは……」
……そしてデュオは、何か言うのを止めた!バカは、『そっか?』と首を傾げつつ、特に何も気にしないのであった!
「はい!カードだぞ!」
「あ、うん。それは樺島君が持っていていいんじゃ……いや、やっぱり俺が貰っておくよ」
ということで、バカは早速、デュオにカードを渡した。さっきのカードも渡した。デュオのズボンのケツのポッケはそんなに深くなかったのだが、デュオはジャケットのポケットにカードを入れていた。やはりポケットがちゃんとあるというのは大事である。バカはそれを、今回服を爆散させたことで学んだ。
「……で、えーと、どうする?」
「え?帰るんじゃないのか?」
「いや、まあ、そうなんだけど……崩れ切るまでは、待とうか」
そして、デュオが崩れ行く塔を見つめ始めたので、バカも倣って一緒に塔の崩壊を見守る。むつも見守る。
「……本来なら、まだ塔を降りているところなんだろうなあー」
「そうだね……。樺島君1人に任せる、っていうのは、かなりいい選択だった気がするよ」
「なあ、この塔建てた奴、すごいな!こんなに綺麗に崩れるように造るの、大変だと思うぞ!」
むつとデュオが何とも言えない顔をする中、バカは、『すげえ!解体しなくても勝手に解体される塔!すげえ!』と目を輝かせている。
……解体する立場としては、こういう解体ショーを見るのは楽しいのである!
……そうして、粗方塔が崩壊した後。
「さて……何も起きないね。これならまあ、大丈夫か」
「もう1つ2つ、何か起きてもおかしくないかな、って思ったけど、単にその『何か』を樺島さんが全部飛ばしちゃっただけみたいだねえ……」
「えっ!?俺、なんかしたか!?」
「なんかした、というか、なにもしなかった、なにもさせなかった、というか……うーん」
すっかり崩壊した塔跡地を見つめながら、3人でちょっとお喋りする。
色々聞いて、バカとしては、『えっ!?塔の内部に本当は何かあったかもしれないのか!?』と驚くしかない!そして、デュオとむつは、苦笑いするしかない!
「さて……帰ろうか。大広間に戻ったら、誰か、もう戻ってきてるかもしれないし」
そして、デュオがそう促し、バカも『そうだな!』と頷き、3人揃ってエレベーターに乗り込んで、大広間へ向かって……そこで、バカは気づいた。
……ミッション、達成できてない!
むつに異能を使わせるというミッションが、全く、達成できていないのだ!
エレベーターの中でそれに思い至ったバカは、『あわわわわわわわわ』と慌てたが、デュオに『どうしたの、樺島君。トイレ?』などと言われてしまう始末である。
更に、『言われて気づいたけど、この建物の中、トイレってあるのか……?無いと皇帝とか困るよなあ……?』とふと気づいてしまった!多分、このデスゲーム会場には皇帝用や教皇用のトイレが、ある!多分!
「あの、樺島さん、本当にトイレ……?」
「あっ、あっ、違うぞ!大丈夫だ!ただ、『トイレとか無いと皇帝が困るだろうなあ』って思っただけで……」
バカは、『トイレが無いと、このデスゲーム会場に住んでいる奴らが困るから、きっと裏にトイレがあるに違いない!』という推理を発表した。むつとデュオにはなんとも温かな笑みで『きっとそうだね』と迎え入れてもらえた。
「あー、よかったぁ。……もしここで漏らされたら、ね……うん……流石にちょっとね……」
そしてむつは、ほっとした顔である。それはそうだ。……いきなり服を爆散させて半裸で帰ってきた男が、エレベーターの中でいきなり漏らさないとは言えない。バカの信用は半裸のあたりで暴落しているため、むつの心配と安心は非常に低レベルな位置で彷徨っている!
「その時は異能でなんとかできたり……しないか」
が、そこでデュオがそんなことを言い出した。バカが、『おや?』と思ってデュオを見ると、デュオはむつに気付かれないように、ぱち、とウインクしてみせてくれた。バカは、『デュオってウインクするんだ!』とびっくりした!
「うーん、私の異能だとちょっと……うーん……」
……そしてむつは、考え込み始めた。
つまり……つまり!
「……あの、もし俺が漏らしちゃったら、むつ、なんとかしてくれるか……?」
「……問題を先送りすることだけできると思うよ。あと、嫌なものは嫌だよ」
「あ、うん。ごめん……あの、大丈夫だぞ。本当に漏らさないぞ……」
……バカは、『俺が今ここで漏らせばむつに異能を使わせることができるのではないだろうか!』というバカな考えを捨てた。バカはバカでも、そこのところの良識は一応あるバカなのである。
「えーと、むつさんの異能、樺島君は知ってるのかな」
が、そこでつっこんでくるのがデュオだ。実に頼れる男である。
「ん?うん……あの、一応……知ってる……?」
バカは、むつの方を見て、『どうしよ』という視線を送っておいた。むつはむつで、『ああ、どうしよう……』という顔をしていたが……。
「……うん。まあ、先に見せておいた方がいいよね。デュオさんと樺島さんが仲良しなんだったら、隠しておいてもどうせ後でバレるんだろうし……」
むつはそう言ってため息を吐いて……手の中に、氷の欠片をぽこんと生み出して見せてくれた!
デュオは、すごい!むつに異能を使わせられるとは!バカとは大違い!
「へえ……氷を生み出す異能、か。それ、別の形にはできるのかな」
「え?うーん……多分、できるんだけど、試してはいないからなあ……」
むつはそう言うと、ちょっと考えて……ぽん、と、まんまるな氷を作って見せてくれた!
「まんまるだ!」
「うん。こういうの、お酒のグラスに入ってることあるよねえ……。ちょっと憧れだなあ」
むつは手の上に出来上がったまんまる氷を手の中でころんと転がして、ちょっとにこにこした。バカも『分かる!先輩がこういう氷で麦茶飲んでるの、なんかかっこよかった!』とにこにこしたが、デュオにもむつにも、『麦茶……?』と怪訝な顔をされてしまった。
「まあ……むつさんはどうやら、出す時に氷の形を変えることはできそう、と。そういうかんじかな。じゃあ、槍とか剣とか、盾とかにすることもできそう?」
「えええー……どうだろ。できるかもしれないけれど、それを使って戦うのとかは、無理だよ」
「うん。いや、単純に、樺島君が使うことを想定してるんだけれど」
「俺ぇ!?」
バカはびっくりしたが……よくよく思い出してみたら、バカは前回デスゲームで、土屋が出してくれた盾を使って戦ったことがあったし、天城や陽や木星さんをぶん回したこともあったのである!他の人の異能を使って戦うのは、アリ!
「あ、そういうことかぁ。うーん……」
だが、むつはやっぱり、ちょっと躊躇いがちであった。あまり、異能を使いたくないのかもしれないし、単に剣や槍を作るのは嫌、ということなのかもしれない。
「戦力を正確に把握しておきたいんだけれど……駄目かな」
しかし、デュオがそう言うと、むつはちょっと考えて……そうして、こく、と頷いてくれた。
「分かった。やってみるね」
そうして、大広間に到着してみると、他にはまだ誰も居なかった。それはそうである。バカは塔を上るのが滅茶苦茶速かったし、降りてくるのも滅茶苦茶速かったのだから!
ということで、心おきなく、バカとデュオはむつを見守る。
「じゃ、いくよー!」
……バカとデュオに声を掛けると、むつは異能に集中し始めた。
すると、空中に氷の粒が、みし、と集まり始める。
……むつは一生懸命集中しているようだが、氷の粒は、精々、むつの頭より大きい程度にしか大きくなっていかない。少なくとも、四郎がぼんぼん生み出していたような氷の武器は、できそうになかった。
「……ぷはあ!ごめん!これが限界!」
そうして結局出来上がったのは、氷のマラカスであった。
「武器……」
「じゃない、けど……あはは……」
……バカはそれを受け取って、シャカシャカ振りながら考える。
成程。どうやら、むつの異能は、四郎の異能のようにはいかないようである……。シャカシャカシャカ……。
だが。もう一台、エレベーターが到着して、中から四郎とタヌキと七香が出てきて、むつが『おかえりー!』とそちらへ駆けていった後で。
「彼女、賢いね」
「へ?」
デュオが、バカの耳元でそう囁いたのでバカはびっくりした!
「……まあ、本当に『彼女の異能はこういう性質』ってだけかもしれないけれど……」
デュオはそんなことを言うと、ちょっと皮肉気な笑みを浮かべて、むつ達を遠く眺めた。
「……彼女、四郎さんが出したことがあるようなものは避けて、かつ、繊細さをアピールできるようなものを出したんじゃないかな。つまり……四郎さんの異能とは微妙に異なる異能だ、って思わせたいらしい」
……成程。
どうやら、むつの異能を探るのも、一筋縄ではいかないようである。




